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 マイクロソフトは2006年、日本のCRM(顧客関係管理)市場に参入する(参考記事)。

 米マイクロソフトはこれまで欧米で中堅・中小企業向けERPパッケージ製品群「Microsoft Dynamics」を販売してきた。これを来年から日本でも展開する計画だ。最初に投入するのが、シリーズの一つ、「Dynamics CRM」だという。

 マイクロソフトの参入で、日本のユーザー企業はどう動くだろうか。いまだに小さい日本のCRMソフト市場は、これでいよいよ本格的な成長を見せるのだろうか。そして、マイクロソフトにとって日本のCRMソフト市場を魅力あるものにするための課題は何だろうか。これらのポイントについて、3回にわたって検証したい。

なぜCRMソフトを最初に投入するのか?


 「製造」、「ロジスティクス」、「小売」「ポータル」、「サプライチェーン管理」、「電子商取引(EC)」、「保守サービス」…。米マイクロソフトの企業ユーザー向けWebページの「Solutions by Business Needs」を見ると、マイクロソフトの企業向けパッケージ製品がカバーしている分野が並んでいる。非常に多様である。CRMはどの分野にも絡む重要なパーツではあるが、あくまでその一つでしかない。

 通常、パッケージ・ソフト・ベンダーは、まず製造や小売など特定分野に向けたパッケージ・ソフトで市場に入り込む。CRMソフトの投入は、それよりも後だ。そうした“通例”から考えると、マイクロソフトの日本市場への入り方は、非常に特殊だ。

 私はマイクロソフトの競合ベンダーに勤務するCRM担当者や、米国のCRMコンサルタントに、なぜマイクロソフトがCRMを最初に投入するのか意見を聞いてみた。「日本はCRM製品がもっとも競合が少ないからではないか」というのが、皆さんの一致した見解だった。

 実は、欧米のCRMソフト市場で展開しているCRMソフト・ベンダーのうち、日本市場に参入しているベンダーは数えるほどしかいない。日本市場で生まれた国産ソフトはいくつかあるが、SOHO(個人事業)やSMB(中堅・中小企業)のCRM市場はいまだ“バージン・マーケット”で、マイクロソフトには参入が容易に見えたということなのだろう。そもそも、「日本ではCRMソフトの市場そのものがまだ立ち上がっていない」という評価もあるほどだ。

 またCRMソフトの向こう側には、豊富な“付随マーケット”が広がっている。マイクロソフトはCRMソフトの投入で、そこを狙っているはずである。

 CRMソフトはありとあらゆる業種・業態に適用できる。それだけに市場は大きい。また、他の業務ソフトと比べると、扱うデータ量が圧倒的に多いこともポイントだ。CRMソフトは、顧客とのやりとりなど、その企業におけるコミュニケーション活動の大部分を取得・管理するからだ。CRMソフトの導入後は、データベース管理ソフトやデータ・ウエアハウス構築ソフト、データ分析ソフトなどのニーズが生まれる可能性が大きい。

どの市場に売り込むか?


 マーケティングの出発点は、市場の把握だ。「Dynamics CRM」はどのような市場をターゲットにしているのだろうか。

 米国の専門誌「CRM Magazine」は、CRMパッケージ・ソフトの市場を六つに区分している。
(1)Enterprise Suite CRM
(2)Midmarket Suite CRM
(3)SMB Suite CRM
(4)Marketing Automation
(5)Sales Force Automation
(6)Analytics

 Dynamics CRMは(2)Midmarket Suite CRM、つまり中堅企業の市場に区分されている。Dynamics CRMの“原型”である米グレート・プレイン製のソフト「Great Plain CRM」が中堅企業を主なターゲットにしていたからだ(米マイクロソフトは4~5年前にグレート・プレインを買収している)。Midmarket Suite CRMの区分で展開しているソフト・ベンダーは、米ピープルソフト、米ライトナウ・テクノロジーズ、米セージ・ソフトウエア、米シーベル・システムズ、それに独SAPである。これらのうち日本市場に参入していないのは、セージ・ソフトウエアだけだ。同社はCRMソフト「SalesLogix」と「ACT!」の開発・販売元である。

 興味深いのは2点。一つは、デスクトップ分野の市場を席巻している米マイクロソフトは、(2)Midmarket Suite CRMではマーケット・リーダーではないこと。もう一つは他社が提供し始めている、いわゆる「BTO(ビジネス・トランスフォーメーション・アウトソーシング)」サービスを揃えていないことである。要するに、顧客のニーズを満たす道具が一つ欠けているというわけだ。この点で米マイクロソフトは不利である。

 マイクロソフト日本法人は、まだ企業向け業務ソフトを売るための体制が十分でないとあちこちで指摘されている。だからこそ販売パートナーや、製品を取り巻く「協働社」の組織化がカギになる。

次回に続く)