扇子忠(せんす・ただし)さん(写真右)
扇子忠(せんす・ただし)さん(写真右)
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 IT業界で「伝説の営業マン」の異名を取る扇子忠(せんす・ただし)さんと初めてお会いしたのは、SFA(Sales Force Automation)ソフトの営業セミナーの会場だった。1997年の冬のことだ。当時、扇子さんは、そのソフトの日本総代理店で顧問をされていて、全国の販売店の営業マン(私もその一人)を集めてセミナーを開催してくださったのだ。このときは、扇子さん自身が、講師を務められた。

 扇子さんが会場に入って来るなり、オーラがビンビン伝わってきた。ピンと伸びた背筋、ダンディなスーツ、マイクなしで会場中に響く声、私たち受講者を見る鋭い目...これは、ただ者ではない。セミナーの内容は、受講者(営業マン)が一人ひとり順番に、ノートパソコンを使ってソフトのプレゼンとデモを行うというものだった。最初に、扇子さんがお手本を示してくれる。とてもスムーズで無駄のないプレゼンとデモだ。派手でも地味でもない。正にお手本だ。はたして、自分にもできるだろうか。

 扇子さんから、「お手本の通りでもいいし、自分流のやり方でも構わないから、30分間でプレゼンとデモをやってください」との指示があり、私がトップバッターになった。しかし、「はいスタート」と言われても、いきなりセールストークを始められるものじゃない。私は、できるだけ扇子さんの真似をしようと試みたが、どうにもこうにも言葉が上手くつながらない。冷や汗をかきながらの30分間だった。

 このセミナーは、扇子さんがOKを出してくれるまで、何度でも30分間のプレゼンとデモを繰り返しやらせられるというものだ。これまで、何度やってもできずに、泣き出す人もいたとのこと。緊張して扇子さんの判定を待つ。「う~ん...悪くはないが、良くもない。トップバッターは、後の人の判定基準になってしまうので、ギリギリ最低点でOKということにしましょう」うぉ~、ラッキー! 1回でOKがもらえた。

 その後は、安心して他の受講者の様子を見ることができた。他人のセールストークを聞くのは、とてもよい勉強になる。1人のプレゼンとデモが終わると、その内容に関して皆でディスカッションする。扇子さんは、悪い点を厳しく指摘するだけでなく、良い点は大いに誉めてくれた。何を伝えたいのかわからないセールストークは、厳しく指摘された。聞く人に安心感を与えるセールストークは、大いに誉められた。1回でOKをもらえる人も、数回でOKとなる人も、5回やってもOKがもらえない人もいた。伝説の営業マンとの2日間のセミナーは、実に充実したものだった。

 扇子さんのプロフィールを簡単に紹介しておこう。1965年、日本オリベッティ(株)に入社し、トップセールスマンとして活躍する。1980年、カシオ計算機(株)に移籍し、海外営業部門長として世界60数カ国に代理店網を築く。1990年、フジ精機(株)に移籍し、取締役海外事業本部長として、海外企業との資本・技術提携、海外子会社の設立などを手掛ける。1993年、(株)グローバルフレンドを設立し、フリーのコンサルタントとして国内外数社の新規事業の立ち上げを指導し、顧問先企業数社の海外取締役を兼務する。2000年、日米3社より資金を募り、合弁会社オニックスソフトウェア(株)を設立し、取締役副社長に就任する。2002年、(株)ロックワットの代表取締役社長に就任し、大手上場企業から起業直後のベンチャー企業に至るまで、数社の顧問を兼務する。

 扇子さんは、IT業界だけでなく、ボンボニール研究家としても著名である。ボンボニールとは、砂糖菓子の入れ物のこと。皇室では、何か慶事があると、記念に綺麗な細工のボンボニールが作られるそうだ。つい先日、扇子さんからボンボニール展の案内状を頂戴した。私のことを覚えていていただけたことを光栄に思う。扇子さんに、日経システム構築の取材でインタビューを行ったときのことは、次回お話しよう。