最近私は,ある企業におけるテレセールス(電話による商品やサービスの販売)組織の立ち上げ・運営を支援している。ほぼこのプロジェクトにどっぷり浸かり込んでいる状態だ。社内外たくさんの方々のご協力もあって,ようやくテレセールスの試行フェーズにたどり着いた。

 この案件のアイデアを伺った当初,発案者はかなり野心的な考えの持ち主とお見受けした。今回の案件は,国内では成功事例をほとんど聞いたことのない,電話というメディア(媒体)を中心に据えたCRM活動だからだ。それほどにテレセールスは難しい。

 テレセールス組織に所属するすべての人々にコンタクト記録をきちんと作成してもらうこと。作成したコンタクト記録をうまく分析し,ほしい結果を導き出すこと。テレセールス組織すべての人々に分析結果を手際よく理解してもらい,新しいやり方を電話対応として体現してもらうこと。これらは,どのテレセールスの現場も一番腐心していることだ。

 逆に言うと,これらの課題に対する答えはなかなか見つからない。テレセールスは難しいと言ったのは,そうした理由からである。

「なんとなく納得できる」形で説明

 コンタクト履歴は,テレセールスで最も重要な要素である。コンタクト履歴を作成する意味や方法,現場に説明するときのコツを紹介しよう。

 私はコンサルティングをする際,テレセールスの現場で電話対応をする担当者(エージェント)にはまず最初に「お客様との距離を縮めることを考えましょう」と言っている。顧客との距離が縮められれば,顧客はおのずと注文してくれるからだ。

 本当はここでCRMの全体像やコンタクト・トラッキング&マネジメントの理論を説明するとその関連性がよく見えてくるのだが,残念ながら現場にはそんな理論を聞いている時間も余裕もない。だから私はテレセールスのエージェントのみなさんに,先ほど説明したような関連性について「とりあえずそういうものなのです。そう思い込んでください」と説明している。その上で,可能な限り忠実に正確にコンタクトの記録を作成するように指導している。

 現業で忙しいエージェントに理解してもらうためには,「よくわからないけど,それでも何となく納得できる」という説明方法を編み出すことがポイントである。私が自分がCRMのコンサルティングをするときのコンセプトとして「思い込み」を掲げているが,理由はここにある。

 次に私が話題にするのは,対話(ダイアログ)の重要性である。「電話をかけた際には,相手の人(顧客)と対話が成立するようにしてほしい」とエージェントに説明する。コンタクト履歴として残された対話の内容を読めば,コンタクトからクロージングに至るプロセスのなかで,現在どのあたりに位置するのかを把握できる。

 例えば,テレセールスのエージェントは「何々はいかがですか?」と顧客に商品やサービスを勧める。顧客は「私はいりません」という。

 ここでの対応がポイントとなる。電話で対話しているとき,「私」はその商品やサービスを欲していないが,私の夫や子供は欲しているかもしれない。そこをうまく聞き出す,あるいはそうした情報をうまく引き出せる質問を投げかけるのが対話である。

 電話をかける時間も重要なポイントだ。朝の時間帯は,在宅者はおおよそ絞られてくる。狙っている“本当の顧客”が在宅しているとは限らない。話題はそれるが,そんなところを狙って,振り込め詐欺や悪徳商法が展開されている。正確なコンタクト履歴を読んでいると,そういうことに備えている顧客の姿さえ浮かんでくるのが興味深い。

「報告書」でなく純粋な「履歴」を依頼せよ

 コンタクト履歴は,CRMアプリケーションでは「訪問記録」や「コンタクト記録」といった名称の,帳票のような入力画面になっている。アプリケーションを使用しない場合は,一定の様式が決められた用紙を使うことになる。

 まずいことに,多くの企業は記録と銘打っていながら,たいていは報告書に類するものを現場に求めている。つまり,「履歴」ではなく,「上司への報告」である場合が多いのだ。そのため現場のエージェントには,いったん履歴のメモを取り,そこから報告書に清書・転載するという余計な作業が強いられている。当然,エージェントの負担が増すため,コンタクト履歴はだんだん実態と異なってきてしまう。だからエージェントには,「そんなに整っていなくても良いので,純粋な記録を残してほしい」と念を押すことがポイントだ。

 コンタクト履歴を作成する手っ取り早い方法は,録音するというやり方だ。例えば,ICレコーダーを電話につないで,対話の内容を録音する。録音された内容を聞けば,テレセールスのエージェントが気付いていない内容まで把握できることがしばしばある。

 最近はICレコーダーに記録したものをパソコンに簡単に取り込めるから,履歴の継続的な蓄積も簡単にできる。よりシステム化したいのであれば,専用の「モニタリング・システム」を利用すればよい。

活用しなければ危険さも

 何を目的にコンタクト履歴を作成しているのか,作成したコンタクト記録をどう分析するのかといった,根本的な事柄を取り決めないまま,アプリケーションを導入してしまう---。アプリケーションを使っているケースでは,こんな姿がよく見られる。結果として,まったく活用されない膨大な量のコンタクト履歴だけが残される。

 ほかの業務分野のトランザクションは,本来の業務処理に必要だから収集される。しかしCRMのコンタクト履歴は活用されなければ,不法投棄された産業廃棄物にも似たやっかいさがある。そこには個人情報が含まれている場合があるからだ。

 次回は分析の意味や意図,テレセールス・エージェントなど現場の担当者をどう育成するかについて解説したい。