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檜山さんの作品:Bat Luck
檜山さんの作品:Bat Luck
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 私は、ものを大事にする方だ。これは、きっと父譲りの性格なのだろう。小さな町工場を営んでいた父は、電球が切れても決して捨てなかった。「後で技術が進歩すれば再生できるようになる」という理由だ。父が亡くなった今でも、私はその電球を捨てずに持っている。理由は、父と同じだ。そんな私は、パソコン甲子園をきっかけとして貪欲に2人の偉人をインタビューする機会を得た。前回紹介した筧先生と、今回紹介する檜山 巽(ひやま・たつみ)さんだ。檜山さんは、グラフィックデザイナー、CGアーチスト、そして多摩美術大学で講師をされている。パソコン甲子園では、第1回からずっとデジタルコンテンツ部門で審査委員を務められている。とても有名な方なので、作品を見たことがある人も多いだろう。

 インタビューは、渋谷にある檜山さんのアトリエで行われた。マンションの一室なのだが、中に入ってビックリ! なんと個人でスーパーコンピュータ(やや古いものではあるが)を所有されているのだ。他にもMacや、見たこともないようなCGの機材、超大型のディスプレイにタブレット、作品を保存した磁気テープのドラムなどが並んでいた。「古いハードディスクがあるのですが、捨てるのがもったいなので、よかったらもらっていただけませんか?」という檜山さんは、私と同じく、ものを大事にする性格のようだ。

 インタビューのタイトルは、檜山さんからの案で「自分がイヤな作品で稼ぐくらいなら水商売で稼いだ方がいいわ!」にする予定だったが、ちょっとマズイだろうということで「嫌いな作品を書くくらいならホカで稼いだ方がいいわ」に変更した。今思うと、もとのタイトルの方がパワフルでよかったかもしれない。それでは、インタビューの内容をお伝えしよう。

矢沢:このインタビュー記事で、檜山さんの肩書きを何と書けばいいでしょう?
檜山:自分では「美術屋(びじゅつや)」だと思っています。頼まれもしないのに作品を作るのが美術屋稼業です。美術は、自分の思いを他人に押し付けるものですから、惑わされず、相手の腹をさぐらず、力まず、自分に素直に描きたいですね。
矢沢:とは言っても、生活のために絵を描くことだってありますよね?
檜山:もちろんお金のことは切実ですから、発注された仕事にはちゃんと応えます。ただし、もっと大事なことがあります。邪悪なオーラが出ている依頼者と付き合うと、健全な制作意欲が萎えてしまうので、それを避ける優先順位を高くすることです。「制作費として1億円くれる」と言われたら悩むかもしれませんが。
矢沢:美術屋の喜びとは何でしょうか?
檜山:まず、作品を見て感じてもらうことですね。制作者というものは、たいていが内向的な性格だと思うんです。それなので、自分を表現したいというか、「物言えば唇寒し」にならないようにストレスなく自分を伝え、受け止めてもらうことができる純度の高いコミュニケーション手段として作品を作るのです。
矢沢:作品に何を込めているのですか?
檜山:様々ですね。その時代ごとの美とか、Love & Peaceとか。挑戦したいテーマは、たくさんあります。作品を見た人が、「何これ!」とビックリしたり、「綺麗!」とか感じてくれたら嬉しいです。
矢沢:そんな檜山さん自身は、普段どんなことに感動するのですか?
檜山:そうですねぇ...アゲハ蝶の成長を観察すると感動します。元気が出ますよ。
矢沢:ええっ、どんなところに感動するのでしょう?
檜山:完全変態を2回もするところに大きなパワーを感じます。
矢沢:それをじっと観察されているのですね。何とも神秘的だなぁ。では、最後の質問です。檜山さんの夢または目標とされていることは、何ですか?
檜山:フランダースの犬の結末のように「死ぬ前にこれを見ることができてよかった」という作品が作れたらいいですね。それが夢です。
矢沢:もしかして、それはアゲハ蝶が変態する絵でしょう?
檜山:いえいえ。どちらかと言うとハスの花の絵とかを描きたいです。
矢沢:あはは、その気持ちわかります。絵を見なくても感じました。

 ...てなインタビューで、話を聞けば聞くほど「何とも変わった人だなぁ」と思った。しかし、単純・素直を信条としている檜山さんの方が正常であり、世間体ばかりを気にしている我々の方が異常なのかもしれない。帰り際にお土産として、檜山さんの作品が描かれた絵葉書を何枚かいただいた。動物をロボット化して飛行機や戦車にした作品だ。檜山さんいわく「困ったときに助けに来てくれるスーパー戦隊みたいでいいでしょう!」とのこと。私は、「SEを元気にする12の言霊というタイトルのインタビュー記事なので、見ただけで元気が出る絵をくださいと」あつかましくお願いした。檜山さんは、逆さまになったコウモリの胸に「福」という文字が描かれている作品を印刷してくれた(写真で私が手に持っているもの)。

 福が転倒しているのは、同じ読みの倒(トウ)と到(トウ)をかけて「福が到る」すなわち幸せになれるという意味だ。作品のタイトルは、Good LuckならぬBat Luck(Bat=コウモリ)。なかなかシャレている。「YAZAWA・SAN江・元気になれ!! T.HIYAMA」というサインまでいただいた。このCGは、家宝として私の職場に飾ってある。後日それを伝えると、嬉しいことに同じ作品の画像ファイルも送ってくれた。私のパソコンの壁紙と携帯電話の待ち受けとして使わせていただいている。かれこれ2年間、毎日Bat Luckを見ているわけだが、まったく飽きない。檜山さんから「もっと熱く素直に生きましょう!」と励まされているように感じるからだ。