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 前回の最後で,「戦略を上流とし,構築を下流とすると,“経営や戦略”,“現場や業務”,それにITという3つ流れの合流点である「中流」の川幅が細く詰まっている」と説明しました。

 しかし,ほとんどのITベンダーは,要求定義を「中流」ではなく,開発工程の「最上流」と位置付けています。要求定義の工程は,リスクが大きい割りに人月ビジネスの美味しさもない。そこで「要件はお客の責任!」と最上流に切り離し,構築屋一直線でやってきたのです。要件の問題をカットすれば,ビジネス・アプリケーションの構築は難しくありません。新技術と戯れ,プロジェクト・マネジメントに留意すれば,ノーリスク・ビジネスです。

 需給均衡の市場原理で,優秀な人間はこのIT業界を避けるようになってしまいました。凡庸なSE集団でも,構築屋一直線でやっていければ,それなりのゴーイング・コンサーン(継続を前提とする存在)です。しかし,環境はそれを許さなくなっています。


高度成長が終わり,優勝劣敗が始まった


 繰り返しになって恐縮ですが,日本経済は今まで,政官業の緊密なトライアングルで競争を排除し,右肩上がりの高度成長を謳歌してきました。世界経済の歴史上類を見ない長期の高度成長は,「景気が悪いときは景気が良くなるまで辛抱我慢する」という,他力本願の「春待ち族」を生みました。しかし,懐かしい右肩上がりの基調は最早過去のものです。高度成長が終わった1985年以降は,戦前と同じように厳しい経済循環が繰り返されてきました。

 企業は好き嫌いに関わらず,ボーダレスのグローバル競争にさらされます。獲得した豊かさ故,ニーズは満たされ減少して行きます。少子高齢化による需要の先細りもあって,日本国内市場は継続的に縮小していきます。国内市場のみをターゲットとするなら,需給が均衡するまで(その産業の)デフレ傾向は続きます。その中での景気循環です。

 嵐が通り過ぎるのをヒタスラ頭を下げて待っていても,日本経済や産業全体が再び右肩上がりになることはあり得ません。自社の業績は自社の努力でしか改善できない。自動車産業でも電気産業でも,明らかな優勝劣敗が起きています。

 景気は今,たまたま回復しています。景気上昇期は,産業全体が追い風を受けやすくなります。しかし,デフレ傾向の景気循環の中で好況は長続きしません。逆に不況期は,敗者が市場から退出します。そんな成熟経済のトレンドが,21世紀の基調です。

 QCD(品質,コスト,納期)を向上させ,価格競争力を持ち,差別的競争優位を獲得し,市場やお客様のファンを増やすこと。戦略や経営効率や持続的競争優位の道具(武器)としてITへの期待が高まっています。しかし,この期待感はITベンダーやSEとって好ましいものでしょうか?果たして,どれだけのITベンダーがこうした変化に付いていけるでしょうか。


構築専門ITベンダーのほとんどは新しい環境に変化不能


 現状のITベンダーではこうした期待感に応えられないという危機感は,経団連の提言「産学官連携による高度な情報通信人材の育成強化に向けて」でも取り上げられています。

 この提言は,危機にひんするわが国の高度情報通信人材に関するものです。そこではIT業界が抱える問題点を次のように総括しています。「ソフトウェアの開発・利用に携わる情報サービス産業の競争力は人的資源の質に大きく依存しているが,現在,わが国の情報サービス産業における高度ICT(情報通信技術)人材の質・量の不足が深刻になっている。中国,インド,韓国などは,国策として高度ICT人材の育成を強化していて,競争優位が短時間に逆転する状況である。ソフトウェアの開発に携わる情報サービス産業の国際競争力は極めて低位にある」。

 ワーキング・グループのユーザー企業出身委員からは,「旧来の均等型教育では育成できない,かなり尖ったトップガンによる素材育成(飛び級であがれるような人材を,国費で全寮制で特別教育してくような仕組み)が必要」との過激な意見も出ています。

 しかし,今のITサービス業界が,トレーニングを受けた優秀な人材の受け皿となり得るでしょうか?IT産業はこの提言を受けて,魅力のある産業に生まれ変われるでしょうか?

 「唯一変化できるものが生き残る」とダーウインは言っています。しかし,要員派遣で食ってきた9割の“女衒”ビジネス企業群のほとんどは変化不能です。

 ITベンダーは大会社と言っても要員が多いだけで,ラワン材の水脹れ,経営は脆弱です。とても独立した産業ではありません。構築専門業として,行けるところまで生き延びて行くだけです。まさに“八甲田山死の行軍”です。