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 理想の企業組織を優れたオーケストラに喩える識者は、故P・F・ドラッカーを始めとして少なくありません。

 確かに言われて見れば納得できるのですが、いざ、実際の経営を「オーケストラ仕立て」にしようとしても実現は難しいものです。企業文化や組織はもちろんのこと、人事評価、情報共有、宣伝広報など、旧来のシステムを「全体最適の観点」で一新する必要があるからです。とりわけ巨大な組織でこうした大改革を一気に進めるためには、会社存亡の危機意識を全社が共有できる状況下で、強力なリーダーシップを持つ経営者が出てこないと難しいはずです。

 また、これまでは、全社の心をひとつにまとめて同期するための具体的なツールやメディアが欠けているのも問題でした。しかし、ICT(ITにコミュニケーションのCを加えたもの)技術、とりわけ高速常時接続のインターネット網と、誰でも情報発信・更新できるブログの発達で、事態は激変しつつあります。

松下電器中村前社長の英断とIT革命

 ICTをテコにして、オーケストラ的な全社経営改革にチャレンジしたリーダーとして思い浮かぶのは、松下電器産業の中村邦夫前社長でしょう。このたび社長を交代されましたが、ブログこそ一般化していない2000年から強力なリーダーシップで経営革新に取り組んだのです。

 (社)日本情報処理協会「IT投資評価委員会」で、松下電器産業IT革新推進リーダーの森本一司さんからいただいた資料を見て、私は深い感銘を受けました。中村社長は、2001年に営業赤字に転落した「傲慢」「自己満足」「内向き」「摩擦を恐れる」という「重くて遅い体質」を「破壊」し、「全社員がお客様と接するフラット&ウェブ型組織」を「創造」するために、自身が本部長を勤めるIT革新本部を創設しました。その後一貫して、「IT革新なくして経営革新なし」という方針で企業組織のみならず企業文化を改革してきたのです。

 その営みが、例えば「FFヒーター事件での迅速な情報公開と徹底対応」と「CMなき薄型テレビ販売絶好調と空前の四半期決算」に結実したと考えるのは、私だけでしょうか?そして、もしも中村社長の任期があと2年あれば、社長ブログと事業部長ブログを有機的に結びつけた「オーケストラ型情報発信」の先例を作れたのではないかと思うのも、私だけでしょうか?

オーケストラ:ビジョンを共有し指揮者にシンクロするプロ集団

 名オーケストラは、まず高度な専門知識とスキルを持つプロフェッショナルが集う組織です。誰かに強制されずとも、各団員は自らを厳しく律して、技を日々磨いていこうとしています。当然ながら、それぞれ道を極めるほどに、ひとりひとりの個性も際立っていくことでしょう。

 しかし、オーケストラは、決して各自が好き勝手に演奏する個人主義集団というわけではありません。それぞれのオーケストラには、自分たちだけの「理想の音やリズム」が存在し、そのイメージを全員が共有しているからです。「わがオーケストラにふさわしいハーモニー」を奏でるべく、各団員は、時に自分の個性を活かし、時に周囲と調和させながら、高度な演奏をするのです。この「自分たちらしさ」に対する共有イメージは、企業で言うならば「企業文化」や「経営理念」に近いものだと言えましょう。

 さらには、オーケストラでは、演奏のよりどころとなる「楽譜」を、全員が共有しています。どこで誰がどんな音を奏でれば、全体として美しいハーモニーを作り出すかが、そこには誰にでもわかる形式で明記されているのです。これは、企業では「経営方針書」にあたるものでしょう。

 その「楽譜」には、繰り返し演奏されるオーケストラの「オリジナル」や「十八番(おはこ)」もあれば、観客の満足と団員の技術向上のために演奏される「古今東西の優れた名作」もあるはずです。このプロセスは、自社ならではの「経営方針書」を、優れた他社事例「ベストプラクティクス」に学びながら作り上げるのに似ている気がします。

 そして、何と言ってもオーケストラの顔とも言えるのは「音楽監督」「主席指揮者」でしょう。同じオーケストラが同じ楽譜で演奏しても、「指揮者」が変れば、まったく別の演奏になってしまうことを、音楽ファンならよくご存知のはずです。それほど、名指揮者のリーダーシップや指導力は重要なのです。名指揮者が、全身全霊で、各団員の持つ「知情意の力」のすべてを「ひとつの楽想」に結集していくさまは、まさに究極の指導者の姿、経営者のモデルと言えましょう。

 それから、良いオーケストラは、素晴らしい定期会員やサポーターに支えられています。彼らは、あたたかく楽団員たちを見守り応援するだけではありません。「優れた耳」と「そのオーケストラらしさ」を判断する基準を持つがゆえ、時には厳しい評価を下すこともあるはずです。

 そんな厳しい聴衆に囲まれているからこそ、オーケストラが「自分らしさ」を保つことができ、同時に演奏技術も音楽性も高めることができるのです。これは、優良企業が、眼の肥えた上得意客やリピーターと対話しながら、切磋琢磨していくプロセスにも似ています。

リーダーが全員を見渡せる規模でオーケストラ型組織

 かくして、優れたオーケストラは優れた企業の模範となり得るはずですが、まだその形態を真似た企業は少ないのが現実でしょう。現状では、むしろ、オーケストラ型組織の正反対とも言える、旧来のピラミッド型の官僚組織の方が圧倒的多数かもしれません。

「社員は、総じて指示待ち体質で、会社に『おんぶにだっこ』の意識で働いている。お客様のニーズや時流に即応するよりも、自分と所属部署の保身の方が大切。スキルも共有する情報も似たり寄ったりのジェネラリストばかり。リーダーはリーダーで、顧客志向どころか、保身のためのリスク・責任回避に余念がない。何より、困ったことに、業績は頭打ちながらも、なんとか食べていけるので、全社的に危機意識が希薄である。」

 そんな状況下で、ひとりひとりに「自由と規律」「責任と成果」を求めるオーケストラ型組織への変革は、至難の技です。特に、松下電器のような巨大企業がオーケストラ型経営をするのは、幸か不幸か「お家の一大事」にでもならない限り難しいのかもしれません。

 やはり、企業においても、オーケストラの団員数と同様に、社長が全員の顔を見渡せ、即座に役割と個性を思い浮かべられる人数が適正だと言えそうです。その点、大企業よりも中堅中小企業の方が、オーケストラ型の組織改革をしやすく有利かもしれません。

 特に、オーケストラの形態に近いのは、強力なリーダーが率いる成長過程のベンチャーや、第二第三創業期の老舗中小企業が、幹部として優秀なスペシャリストを続々採用し登用し育成つつ、同じ目的に向かって邁進している状況でしょう。正に同じ夢と志を共有しながらも、日々顔を合わせて、以心伝心のコミュニケーションをしている段階です。

 もちろん、大企業の場合でも不可能ではないはずです。経営幹部を各パートのリーダーに、部店長を楽団員としたオーケストラを作った上で、今度は、それぞれの部店長を指揮者として部店を相似形のオーケストラに作り上げれば良いのです。経営幹部や部店長を育てながら、いわばフラクタル構造のオーケストラ型組織を作るわけです。

オーケストラ型組織を社長・広報・部長ブログでシンクロさせる

 しかし、単に組織改革をしただけでは、オーケストラ型経営は完遂しません。それでは、いわばハコモノを用意しただけなの。そこで、新たな組織に「命」を吹き込む必要があるでしょう。

 真新しい組織に、古くて新しい経営理念と企業文化を浸透させるために、最も重要な役割を果たすのは、音楽監督たる社長ブログでしょう。わがオーケストラに求められる「社会的使命」と、奏でるべき「理想の音楽」について、社員のみならず、顧客、取引先、株主という各ステークホルダーに、繰り返し語り続ける必要があるはずです。

 理念が浸透したら、今度は、各部門のリーダーが、楽器を練習する代わりに「部長ブログ」を通じて情報発信と交流をする訓練を重ねる必要があるでしょう。シャープの液晶テレビが亀山工場を誇らしくうたっているように、賢い生活者が、厳選素材やこだわりの製造プロセスといった舞台裏まで知りたがる時代になりました。だからこそ、それぞれの企業の「プロジェクトX」を、現場の責任者が発信することが、ブログ時代の新しいマーケティングといえるのです。ここでも、社長ブログが、部長ブログの質を高めるための良いお手本になるでしょう。

 そして、いよいよ全社で壮大なハーモニーを奏でる時に、楽譜がわりの重要な役割を果たすのが、広報部門のブログです。例えば、新商品の投入のタイミングに合わせて、「出すべき時に」「出すべき部門が」「出すべき情報を」「いかに発信するか」は、広報ブログのプレスリリース記事などが無言のガイドをすることになります。また、最も美しい音色を奏でるコンサートマスターは、やはり宣伝部のブログでしょう。

 そして、何より、指揮者としての社長ブログが重要です。広報ブログや宣伝ブログで情報解禁となった新商品情報を、全社で一斉に発信すべく、情熱的なタクトを振るのです。

 広報ブログと社長ブログを、さらには宣伝部ブログを見ながら、各パートリーダーを勤める開発部門や製造部門などの部長ブログが、スタッフブログが、それぞれ心を込めて美しい旋律を奏でます。松下電器産業のヒーター広告や、シャープの亀山工場広告に感応したお客様は、いまや、テレビCMや雑誌広告の美辞麗句ではわからない生々しい情報を、部長ブログに見出すでしょう。ちょうど、音楽がわかるほどに、コントラバスやファゴットなどの地味なパートの音色が心に届くように....。

 これこそ、中村前社長が目指した「全社員がお客様と接するフラット&ウェブ型組織」の究極の姿でしょう。

感動した顧客たちのブログが拍手喝采をする

 こうして社長ブログに同期した全社ブログで積極的に情報発信と情報交流に勤めるオーケストラ型経営を行う企業には、顧客から高い評価が贈られることでしょう。

 その拍手喝采は、おそらく社長ブログはもちろん、現場の部長やスタッフのブログへのコメントやトラックバックという形で現れるはずです。その中には、著名な評論家のように厳しいカリスマ生活者やNPO・NGOの激励メッセージもあれば、定期会員のように温かいリピーターたちの応援メッセージもあるでしょう。

 こうして全社ブログと、お客様のありがたいブログとが、リンクとリンクで有機的に結びつくことで、インターネット上の評価は見違えるはずです。例えば主力商品名をGoogleで検索した時に、公式サイトはもちろん、社長ブログから開発部門や製造部門のブログが、さらには応援してくる顧客や団体のブログが軒並み上位に表示されるはずです。そして、新たに検索したお客様候補の方々は、テレビCMやカタログでは得られない「多面的な情報」「生きた情報」を確実に手に入れることができるでしょう。

 こうして、自社商品に関するありとあらゆる情報が「美しいハーモニー」となって、お客様の五感に訴えかけ、心に響くのです。