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 このところSOAに関する記事がめっきり増えたので、ユーザー企業の間で導入機運が高まっているのかと思ったら、どうもそうではないらしい。そうした記事の大半は、ITベンダーの発表モノ。特に、SOAの普及に熱心なオラクルが自社のイベント「Oracle Open World」の前に、SOA関連の発表を集中させたのが大きかった。ITベンダーは今、従来の“SOAマーケティング”でしくじったので、SOA普及に向けた新たな算段をしているところなのだろう。

 その辺りのことは、 日経ソリューションビジネスの2月15日号でも書いていたが、IT業界のSOAマーケティングは失敗だったなと、つくづく思う。「ビジネス環境の変化即応しダイナミックに業務プロセスを組み変えられる柔軟なITインフラを作ろう!」。ユーザー企業の経営者やIT部門、そして経営コンサルタントやIT記者、はたまた“オブジェクト指向の鬼”の技術者など様々な立場の人に、このSOA伝道師のコピー(宣伝文)は魅力的だった。しかし、ニーズとは乖離していた----そんな感じだ。

 そもそもSOAの取り組みとは、ITインフラ再構築の話である。SOAの話を持ち出すまでもなく、業務や環境の変化に対応できない情報システムをなんとかしなければいけないのは、多くのユーザー企業で共通の課題だ。そうした問題意識のもと、ユーザー企業がITインフラの再構築に乗り出せば大規模な案件となり、ITベンダーにとってもこんな結構な話はない。しかし実際には、そんじょそこらのことではユーザー企業はITインフラ再構築には動かない。

 日本企業の場合、長く続いた不景気のためIT投資が絞っていたこともあるが、もっと本質的な問題がある。企業経営者は、効果に確信が持てないものへの投資をためらう。新たなアプリケーションを作るならともかく、ITインフラ再構築の場合、膨大な投資をして作るものは、経営者やエンドユーザーから見れば同じ業務システムである。投資する意味がイマイチよく分からない。TCO削減の話を持ち出しても、根拠が明確な説得力のある数字を示すことは容易ではない。結局「重要性は分かるが…」という話になり、投資の優先順位はちっとも上がらない。

 そこでSOAマーケティングである。「ビジネス環境の変化即応しダイナミックに業務プロセスを組み変える」というSOA伝道師のコピーはもともと、Webサービスのビジョンとして語られていたものだ。SOAマーケティングの優れていたところは、このビジョンをアーキテクチャの話に変えたこと。経営者は当然のことながら「ダイナミックに業務プロセスを組み変える」といった“戦略性のある言葉”に敏感だ。そして、「それをSOAで実現しませんか」と誘うことで、将来へ向けた投資としてITインフラの再構築に強い関心を持つように仕向けたわけだ。

 これで、ITインフラ再構築への本格投資に乗り出してくれたら万々歳だが、現実にはそうはならなかった。経営者がSOAに関心を持ったとしても、情報システムの現場の実際のニーズは「メインフレームという牢獄に閉じ込められたままのデータを救い出したい」だったり、「ERPのバージョンアップに伴う、のべつ幕ない保守地獄をなんとかしたい」だったりする。SOAの理想を目指し、リスクをとって、ビッグバン的にITインフラを刷新するなんて、とんでもない。結局、SOA導入のためにITインフラを再構築するという話にはなりえず、ITインフラ再構築の際にはSOA的な発想をとり入れよう、といったところに落ち着く。

 というわけで、ITベンダー各社が仕掛けた旧来のSOAマーケティングは、あえなく失敗した。もちろん、それでSOAの重要性に疑問符が付いたわけではない。オラクルのラリー・エリソンCEOが言うように、「重要だが魔法ではない」だけだ。XMLなどの標準技術を使ってシステムをコンポーネント化していく方向は間違いなく、今後の情報システムをSOA的な発想に基づかないで構築することは考えにくい。

 ただSOAの普及は、ITベンダーやSOA伝道師が描いたシナリオより地道なものとなるだろう。小規模なプロジェクトから始める、いわゆる“プチSOA”的な取り組みが、SOA普及に向けた取っ掛かりとなるはずだ。そのためか、ITベンダーのSOAのプロモーションも随分現実的になった。また、SOA的な発想でシステム構築を進めている 先進ユーザーに学ぼうという謙虚な姿勢も見せるようになってきた。

 ところで、SOAがITインフラ再構築を促す強力なエンジンになり得ないなら、やはりITインフラへの投資は進まないのだろうか。どうやら、そんなことはなさそうだ。東京証券取引所の一連のシステムトラブルでは、トップ辞任にまで発展した。多くの経営者が脆弱な情報システムを抱えているリスクを嫌というほど実感したはずである。ITへの積極投資の機運が高まる中、さてさてITベンダーやシステムインテグレータは個々のユーザー企業にどんな提案を行うのだろうか。

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