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 (前回から続く)システム屋はよく,「ユーザー企業はさっぱり要求仕様を決められない」とか,「あとからいろいろ変更を出してきて強引に通す」とか文句を言う。だがユーザー企業の担当者は担当者で深い悩みがある。いきなり多額の予算を与えられて上司から何とかしろと言われても,ITに詳しいわけでもなく,何をどう決めればよいのかも分からない。

 頼みの綱のシステム屋も,悩みを聞いてはくれない。システム屋は,「何が必要かを言ってくれれば,言われた通りに作ります」という立場だ。「使えない,あるいは利用者が使わないシステムになってしまっても,それは要求を出した側の責任だ。早く仕様を決めてくれ」ということになる。

 では利用者(エンドユーザー)はどうか。とりあえず関係者を集めてみても,現場の利用者は,「決めるのはそっちの仕事だろう。だけど,こういう機能は入れといて」と,当事者意識がまるでない態度をとる。結局,担当者はこの重要なプロセスを孤独な中で何も決められずに過ごし,時間切れで「えいや」のシステム仕様を出すことになる。

 ここで,どのように組織化し,何を基に,誰が何をどの順番に決定していくのか,といった標準的なプロセスの進め方があれば,こうした悩みは解消されるはずだ。さらに,膨大なIT投資がこれほど無駄に終わることも少なくなるだろう。そうした考えの下に設立されたのが,「要求開発アライアンス」である。

要求開発のプロセスを整理する

 要求開発アライアンスは,2005年3月に正式に発足した団体で,企業のIT化についての共通課題を業務の可視化を通じて解決することをテーマとして結成された。現在,ユーザー企業とシステム開発関連企業合わせて50社以上から180名以上が参画している。

 前身は,2003年に草の根的に始めたビジネスモデリング研究会であり,最初はビジネス領域におけるモデリング手法についての情報交換がメインであった。ところが活動を進めるうちに,まず実際に適用するシーンとなるプロセスの方を先にそろえたうえで,そこで行うモデリングに焦点を当てていこうということになった。モデルは,そもそもの目的や利用されるコンテキスト(文脈)を定めなければ,スコープ,抽象度,詳細度といった面でレベルがバラバラになってしまい,標準化や再利用を図ることができなくなるからである。

 この要求開発のプロセスを整理するというテーマは,ユーザー企業の方々が非常に関心を持たれているところであったようで,活動を進めるうちに口コミで話が広がり,多くのユーザー企業の方々を巻き込んでいくこととなった。参加は企業によるものではなく,あくまでも個人の有志による草の根活動なのだが,そのぶん,強い問題意識をもってかかわっていただいているようである。

要求開発方法論Openthologyの策定が進む

 目下の主な活動は,要求開発方法論「Openthology」の策定である。Openthologyは,設計,実装といった狭い意味でのシステム開発を始める前に行うべきシステム要求の作成作業の進め方,手法,成果物などを規定したもの。システムを企画するうえで検討すべき観点を一通り網羅し,これに従えば誰でも試行錯誤することなく,一定以上の品質のシステム要求を作成でき,役に立たないシステムを作ることがない,というのが目標である。

 現在,バージョン0.6のドキュメントを要求開発アライアンスのWebサイトで公開している。このドキュメントは,オープン・ソースと同様の「オープン・ドキュメント」という形式になっており,誰でも利用可能だ。さらにバージョン1.0も先ごろ完成し,その概要が書籍「要求開発」として3月6日に日経BP社から出版された。興味のある方はぜひご一読いただきたい。

 ITは,入力・蓄積されたデータをコンピュータで与えられた仕様通りに処理する仕掛けに過ぎない。この仕掛けを作り上げるのがシステム開発である。要求開発は,この仕掛けにビジネス価値を付与して,業務上の機能を持たせる作業に相当する。

 現在システム開発は,オフショア開発やフレームワークの利用,MDA(Model Driven Architecture)のような自動化によって低コスト化が図られている。対して要求開発は,後発ながらITによってビジネス価値を生み出すための高付加価値部分を担う,極めて重要な活動として注目されるはずだ。技術者としても,持てる技術力をより直接ビジネスと結びつける題材として取り組むべき領域ではないだろうか。

(山岸 耕二=要求開発アライアンス理事長)

要求開発サミット2006~コンセプトから実践へ 開催のご案内

  要求開発アライアンスでは,年1回の公式行事である要求開発サミットを3月17日(金)に開催します。要求開発の現状や実例を知ることができますので,要求開発という領域に興味を持たれた方はぜひご参加ください。

開催日程:2006年3月17日(金)10:30-17:15
会場:東京コンファレンスセンター・品川(地図)
詳細・申込:「要求開発サミット2006」の公式ホームページをご覧ください。

 「要求開発」は,要求アライアンスのメンバーが共同で執筆した書籍です。要求開発アライアンスが独自に考案した方法論であるOpenthologyをベースに,要求開発のプロセスや途中過程の成果物について分かりやすく解説しています。詳しくはこちらをご覧ください。