前回の最後で,SEが本来得意とするSE脳にコンサル脳をアドオンして,中流にひたすら登っていくこと。それが中流の詰まりを改善する王道であるし,実現可能な解であると言いました。
ここでいうSE脳とはSEとして特徴的な思考パターン,コンサル脳とはコンサルタントの思考パターンのことです。SEもコンサルもその両方を持っていますが,構成比率が違います。
なぜ,SE脳にコンサル脳をアドオンすべきなのか,SEをコンサルタントへ転身させる手法がうまくいかないのか?
SEのコンサルへの転身を支援するための,促成教育というものがあります。目的は理解できますが,定番のコンサル・フレームワークを勉強しても,使えなければ意味がありません。使えてもお客にとって自明なことや,「何やそれ?(So What)」と突っ込まれて後に続かなかったら,IT専門家としての面目を失います。
初めて大海を垣間見た井の中の蛙の如く,定番のコンサル・フレームワークを使いながら,目を輝かせて語るSE君なんですが・・・・・。付け焼刃は,厳しい現実の逆襲を招きます。生兵法は大怪我のもと。彼ら優秀なSEは,お客からアホと言われたら,プライドもあるし貝のように自分の世界に潜り込みます。二度と出てくる勇気を失って。
コンサルタント教育では通常,SEに向かってSEを否定します。SEはお客の言うことをヒアリングする御用聞き,コンサルタントは,お客が気が付いていないことを言うからお金を貰える。客をコントロ−ルしなければならないと。
確かに間違ってはいません。「経営の要求 vs 現場の要求」,「全体最適 vs 部分最適」を踏まえれば,要件は「顧客が言うモノ」という先入観は払拭しなければなりません。しかし,教育対象のSEはベテランであり,SEとしての輝かしい成功体験がレーゾン・デートル(存在証明)です。促成教育で一気に転換しようとするリスクや,副作用を十分考慮しなければなりません。
成熟市場では部分最適よりも全体最適が求められる
とはいえ,SEをコンサルタントへ転身させたいという事情も,よく分かります。
今後のビジネスは,「成熟(衰退)市場で競争優位をいかに実現し“金のなる木”にしていくか」にフォーカスされていきます。例えば,自動車の国内市場は人口減少に伴って縮小しています。トヨタをはじめとする各自動車メーカーは来年度,販売店への凄まじい投資をするようです。成熟市場でシェアを確保し,“金のなる木”を育てようという作戦です。
現場ユーザーの要求をシステム化要件とする効率化・省力化のためのITは,強い現場のためのITでした。右肩上がりの市場では,そうしたシステムこそが目的に合致していました。そうした伝統は,その後の機能拡充改善という長い保守作業で,さらに磨かれてきました。
しかし,今後のビジネスでは,現場の要求よりも経営の要求,部分最適よりも全体最適を優先しなければなりません。今までのように,現場ユーザーからのヒアリングによるIT投資では,投資効率は悪くなってしまいます。