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 約10年前、私がSIの営業していた頃。ある国産ERPシステムを提案中の見込み客が「ユーザ見学をしたい」というのでユーザ企業に連れて行ったことがある。両社とも年商300億~500億、一部上場の製造業だ。

 仮に見込み客をT社、ユーザーをR社としよう。そこでの会話を再現してみる。

T社「油野さんの提案もいいのだが、このパッケージが果たして当社の規模に合うだろうか心配なんですが」
R社「規模ですか?」
T社「当社のような一部上場企業が、この提案にある中堅企業向けのパッケージで大丈夫なのでしょうか? 大企業向けの海外ERPのほうがいいのではと不安になっています」
R社「・・・私は以前、外資系企業の日本法人でそのパッケージの導入をしましたがそれは大企業向けでしたがねえ」
T社「やはり、そうですか!私どもも米国や欧州に拠点を持ち販売をしているんですよ、ですから・・・」
R社「私がいた企業は本社がドイツ。同業種での売り上げは世界で常にベスト5以内。世界に7カ所の製造拠点を持ち数十カ国に販売拠点を持っていましたが?」
T社「・・・・」
R社「失礼ですが、我々は世界という視点では中堅どころか中小企業だと思います。油野さんの提案で不安はないと思いますが」

 結局、このR社の情報システム部長氏の発言のおかげもあって私はT社を受注することができた。

 さて、ITビジネスにおいて言葉のやりとりは難しい。ことに昨今、これは?と思うのはこの「中堅企業」という言い方だ。いま、まさに一部のパッケージベンダーや自称ITコンサルタント会社は確信犯的にこの言葉を使い始めた。そしてまたもや身の丈に合わない大規模なシステムを「中堅」市場に押し付けようとし始めている。これは由々しき事態だ。

 前述の例を引くまでも無く、10数年前にこの迷彩色の惹句が「世界で活躍する企業向けのシステムを、日本でしか活躍していない企業に押し付ける」というミスマッチを作り出したのに、もう一度同じ悲劇が起きようと、いや起こそうとされているのだ。

 そこでひとつ提案がある。マスコミや調査会社は「中堅企業」という言葉がでたら即刻「本誌の表現する中堅企業とは」と記事の前後に定義づけするかインタビューや記事の前後に「本文中の中堅企業とは年商○○億円、従業員数○○人程度の企業を表現しています」と明記してユーザーが誤解しないようにするべきではないだろうか。

 もっとも、「中堅市場向け」という今までは無かった新しいレポートが一冊できて売上倍増とホクホクしている調査会社や、記事のキーワードが増えたと喜んでいる雑誌がそんなことするとは思えないが、ね。