パラダイムシフトの時代には、よく似た現象が生じるものである。先週末、オラクルが日本の地で、企業向けの検索エンジンを発表したことで、今日の状況はちょうど10年前の1995~1996年の状況と極めてよく似てきた。東葛人的視点をITpro Watcherに移転して肩に力が入り気味だったので、今回は軽めの話を書きたい。「 Netscape2.0とWeb2.0の間」の“外伝”である。
オラクルのラリー・エリソン自らが“戦略製品”としてぶち上げた「 Oracle Secure Enterprise Search 10g(SES)」は、グーグルの企業向け検索エンジンの「グーグル検索アプライアンス」を思いっきり意識した製品だ。オラクルはこのSESで、マイクロソフトとグーグル(そしてヤフー)の間で繰り広げられている熾烈な“サーチ戦争”に参戦した形だ。
実は、このオラクル、10年前にも同じことをやっている。時はまさに「Netscape2.0とWeb2.0の間」に書いた頃。クライアント/サーバー・システムの時代を終焉させ、Webアプリケーション全盛の時代をもたらすことになる「Netscape Navigator2.0」が登場し、衝撃を受けたマイクロソフトのビル・ゲイツが全面的な“ブラウザ戦争”を仕掛けた頃だ。覚えている人はほとんどいないと思うが、オラクルもブラウザを発表したのだ。
このブラウザ「PowerBrowser OCX」の発表の際、オラクルは「既存のブラウザは企業情報システムのクライアントとして使うには機能が足りない。PowerBrowserはそれが可能な初めてのブラウザだ」といった旨のコメントを出した。今回のSESの発表で、エリソンが「グーグルの製品はセキュリティの要素が欠ける」と“断罪”したというが、まさに当時を彷彿させる話だ。
オラクルはPowerBrowserの発表の後、驚愕するような行動に出る。当時、不倶戴天の敵としていたマイクロソフトとブラウザ関連で電撃提携する挙に出たのだ。それほどネットスケープの攻勢、特にNetscape2.0の衝撃は大きかった。マイクロソフトだけでなく他のITベンダーの行動に大きな影響を及ぼし、IT業界の競合の構図すら変えてしまったのだ。当時のオラクルとしては、「パラダイムシフトの先に“第2のマイクロソフト”が登場してはかなわない」と考えたのだろう。
さて10年後の今、Web2.0の潮流は当然のことながら、企業情報システムのSOA化の流れとシンクロする。「SOAはソフトウエアのサービス化であると同時に、サービスのソフトウエア化でもある」と誰かが言っていたが、そのひそみにならえば、グーグルは自社のサービスをソフトウエア化(実際にはハードも含むアプライアンス製品)させて、企業情報システムの世界に参入してきたといえる。
それに対して、オラクルが危機感を抱きSESをぶつけた----そんな構図はすぐに描ける。ただ、これから先どうなるのか、グーグルはどこまでライバルになるのか、それはオラクル自身にも分からないだろう。SESはある意味、“観測気球”である。10年前のオラクルは、ブラウザ戦争の影響が自身に及ばないと判断すると、PowerBrowserをあっさり引っ込めた。果たしてSESはどうだろうか。
今は、セキュリティや個人情報保護、内部統制などの分かりやすいソリューションが必要な時だから、あるべき情報システムも分かりやすい。しかし、本質的な変化の先にある情報システムの姿は、まだ誰にも分からない。分からないからといって何もしないならば、ITベンダーは確実に時代の波に取り残される。
現在は間違いなく10年ぶりの“革命情勢”である。オラクルやマイクロソフトがそうであるように、日本のベンダーやSIerも何らかのアクションをとらないと、Web2.0の時代に用なしということになりかねない。やれやれ、軽め話を書こうとおもったのに、また肩に力が入ってしまったようだ。