今後は,部門に閉じたシステムではなく部門間や企業間のバリューチェンや,現場力の強い日本が苦手としていた企画戦略セクションと現場との密なコラボレーションによるPDCAが求められます。バリューチェンもコラボレーションも,顧客を中核にしたコミュニケーション・システムのサブセットです。これらが重要な競争要因になってきます。

 経営と現場とITとの関係性についてコミットするのは,ITのプロであるSEのはずです。コンピュータの黎明期から40年。ITはビジネスの神経であり筋肉や骨でもあります。IT抜きでビジネスプロセスを語れません。

 コンサルタントの相手は経営者です。経営ニーズには強いですが,現場(業務)ニーズには強くありません。神経系としてのITの細目にはお手上げです。ビジネスプロセスに張り付いたITには,俯瞰的な鳥の目だけでは対応できません。地を這う虫の目も持ち合わせていなくてはなりません。影響性や関連性を見る緻密性も必要です。

 SEは経営ニーズを現場ニーズと擦り合せ,実現可能性や成熟度を考慮して,ITのプロセスをサブセットとしたビジネスプロセスにブレークダウンしていきます。また新規の業務システムと既存業務システムとの整合性にも責任を持たねばなりません。

 経営層はもちろん,現場ユーザーも自分が見える範囲の業務機能は知っていても,全貌は理解できていないのです。全貌を詳細に理解する立場にいるのはIT側の人間なんです。


SE脳とコンサル脳を使い分ける


 「経営と強い現場とITと既存システムが合流する中流」は,いままで余り注目されていなかった空洞のような領域です。合流地点は渦が巻いて奔流となっているのに,川幅も狭く詰まっています。SEがその中流を担うためには,コンサルタント・スキルの単純な獲得ではなく,SE脳とコンサル脳を理解し,うまく使い分けできなければなりません。

 SEは慣れたSE脳で考えてしまいます。同じ局面をコンサル脳だったらどのように考え立ち居振舞うのか?過ぎた1日を振り返り,明日をイメージする。そんな予習復習を繰り返します。そんな訓練がしきい値(臨界点)を超えたら,自分にとっての何かがつかめます。脳は融通無碍です。凄まじい環境適合力があります。失敗し悩んだ方が適合しやすくなります。

 とはいえ,SEにコンサルタント向け促成教育を課し,SEとコンサルとを足して2で割るような乱暴はやり方は,前回で触れたように真面目なSEを潰すことにもなりかねません。

 中流に上がって行くためには,それに相応しい登山技術があります。いきなり,アイガー北壁ではないのです。それでも「経営と強い現場とITと既存システムが合流する中流」は,SE脳だけではしのげません。

 次回は,SEがコンサル脳を身に付ける方法を説明します。