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大学の研究室の机。Windowsデスクトップ,Mac,ノートPC,UNIXマシンへのリモートログインを使い分けています。
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 こんにちは,池嶋俊です。Skype好きが高じて,「Skypeやろうぜ」というサイトを運営したり,『入門 Skypeの仕組み』(日経BP社刊)を執筆したりしています。この連載では,Skypeにまつわるさまざまなことを書いていきたいと考えています。

 私はSkypeが大好きなので,人に会うたびにあちこちで,Skypeを薦めています。すると,たまにですが,「Skypeはうちの会社では使えない」と言う人がいます。理由を聞くと,「P2Pソフトだから利用が禁止されている」と答えるのです。

 P2Pソフトの評判は,最近あまりよくありません。むしろ,悪いイメージの方が大きいでしょう。P2Pは善なのか悪なのか。P2Pの登場とほぼ同時にこの議論は始まり,幾度となく繰り広げられてきました。今回は,技術面を中心にP2Pの善悪を考えてみたいと思います。

 P2Pが善だと主張する人は,こう言います。「そもそもP2Pは技術であり,技術自体に善か悪かという区別はありません」。P2Pソフト「Winny」開発者の裁判で,“日本のインターネットの父”と呼ばれる村井純慶応大学教授が,「(P2Pという)効率の良い情報共有のメカニズムが,著作権法違反行為を助長させることに結び付くということは理解できない」と主張し,P2P悪者説に反論しました。私も,村井教授の意見はもっともだと思います。

 例えば,街中で包丁を振り回して通行人にけがをさせた人がいるとします。その人が,「俺が悪いのではない,包丁があるのが悪いんだ」と言っても,多くの人は納得しないでしょう。悪いのは,包丁という道具を振り回した人間の方です。これと同じようにP2Pソフトによる著作権侵害や個人情報の漏洩といった事件で,悪いのはP2Pソフトではなく,悪用した人だと思うのです。

 一方で,P2Pは悪だという考え方も理解できます。今のP2Pソフトの主な用途は,やはり大容量のファイル交換。大きなファイルといえば,映画や音楽です。結果としてP2Pは,著作権を無視したコンテンツ交換の便利な道具になっています。他の用途でP2Pが活躍できていないことも,P2Pが悪と言われる原因でしょう。しかし,P2Pの用途はこれから確実に広がって,状況が変わると思います。P2P技術は,着実に進化しているのです。

 P2P技術の長所は,ユーザー同士が直接通信することです。第三者を経由しないため,効率よく相手にデータを届けられるのです。その一方でP2Pには,相手を見つけることが難しいという課題が付いて回ります。「相手がどこにいるか」をまとめて管理しているサーバーがないので,周りの人に人づてで聞いていくことになるため,相手の検索に時間がかかるのです。

 つまりP2Pが向くのは,「時間をかけて相手を検索しても,直接通信した方が効率がよいアプリケーション」ということになります。このため,データ量が多くて通信自体に時間がかかるファイル交換ソフトで,P2Pが人気を集めたのです。逆に,Webのようにデータ量が少ないアプリケーションでは,時間をかけて相手の場所を探して直接送るよりも,サーバーを経由した方が効率的です。

 ところが状況は変わってきました。最近の研究では,「Structured P2P」と呼ばれる新しい手法が有効だと認められつつあります。Structured P2Pは,課題だった相手の検索を速くしたのが特徴で,第3世代P2Pと呼ばれています。実はSkypeも,この第3世代P2Pに属しているソフトです。Skypeで電話をかけると,すぐに相手につながりますよね。

 このような第3世代P2P技術を使えば,P2Pの応用範囲は急激に広がります。そうなれば,P2Pは違法ファイル交換用の技術というイメージを払拭できるでしょう。第3世代P2Pソフトで実用化されているものは,まだ多くありませんが,私自身もプログラマとしてよりよいP2Pソフトを作れるように努力をしていきたいと思っています。Skypeファン,P2Pファンとしては,そう考えずにはいられません。