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 IT業界の営業にとって、他社が構築した情報システムをリプレースした時ほど勝利の美酒に酔える時はないだろう。逆に、自分の顧客をライバル企業に奪われると悲惨だ。リプレースはITソリューション営業の華。そういえば昔、「リプレースの研究」という連載をやっていたIT雑誌もあったっけ。

 ただ実際には、リプレースはそう頻繁にあることではない。特に財務会計システムなど基幹系のアプリケーションとなると、買い替える、あるいは作り直す必要性すら感じないユーザー企業が多い。システム構築を担当したITベンダーにいくら不満があろうとも、機嫌よく動いている会計システムに手をつけるほどの話ではない。競合のITベンダーも提案しても無駄と思うから、何も提案もしない。

 かくしてバックオフィス系の基幹業務システムの世界は、平和な時が流れる。ただ、そうした平和を打ち破るイベントがまれにある。以前なら「2000年問題」。そして会計システムの世界で今ちょっと旬なのが、5月1日に施行される「会社法」である。

 会社法は、商法や有限会社法などを再編し会社の基本制度を定め直したものだそうだ。貸借対照表に「純資産の部」を新設するなど会計基準の大幅な変更も伴うため、企業経営者はもちろん、ユーザー企業の会計部門や会計パッケージなどを売り込むITベンダーには、それなりのイベントだ。

 実は、この会社法には内部統制条項があるため、日本版SOX法(金融商品取引法)に先立つ内部統制ソリューション売り込みの“ネタ”として、ITベンダーから注目された。ただ、罰則規定まで設けて企業トップや公認会計士を縛る日本版SOX法と異なり、会社法では、取締役会で内部統制への取り組みの方針を決議し、その内容を開示することを求めるだけだ。これとて重要なことではあるが、だからと言ってITソリューションにすぐに結び付くものではない。

 では、会計システムの商談ではどうか。この辺りのことは日経ソリューションビジネスの2月15日号にも書いていたが、会計システムの手直しだと多くは保守契約の範囲内なので、ITベンダーにとっては単なるコストとなり、なかなか儲かる話にならない。先ほどのリプレースの話でも、実はITベンダーがよほど間抜けな対応をしていない限り、ユーザー企業が競合他社へ乗り換えるという事態には至らない。

 ところが、そういう間抜けな対応をしているケースが結構あったりする。ユーザー企業がITベンダーに対してシステムの不満を口にできるのは、まだよいほう。ITベンダーの営業は売ったきりで、全く顔を見せない。SEも来ない。来ているのは、下請けのソフト開発会社の技術者だけ。ユーザー企業の不満はマグマのように溜まっていく・・・。

 そこに、競合のITベンダーの営業がやって来れば、どうなるか。そのユーザー企業と既存ベンダーとの間のリレーションに亀裂が入っていることを見抜ける営業なら、会社法施行のタイミングをとらえたリプレースを狙うだろう。「この際、○○を実現すべく新規システムを導入しませんか」。既存ベンダーが気付いた時には、もはや手遅れである。

 まあ現実はそう単純ではないだろうが、会計システムやERPの案件で今、似たような話があちらこちらで生まれているかもしれない。ITベンダーの皆さんは、すべてのユーザー企業の会計システムに対して、会社法対応を自社で行う自信がおありだろうか。一度点検してみることをお勧めする。顧客との長期的関係を作るというITソリューション営業が本当にできているかどうか、それが見えてくると思う。