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 「健常者は仕事、家庭において進化するIT技術の利便性を享受しているが、障害者はどうだろうか」。e-ワークスネットの大槻博茂代表取締役は、ITに関する能力を持つ障害者が在宅で就業できる環境を整備すれば、就業機会が確実に増すと考えた。

 そこで、大槻氏が所属するイメージ処理システムを開発・販売するカーネルシステムズ(東京都文京区、井上隆博社長)と社会福祉法人あかね(千葉県船橋市、阿部貞信理事長)が中心になって、障害者の就業支援ビジネスを立ち上げることになった。それがこの1月に設立したe-ワークスネットである。

 事業化を決断させた理由はいくつかある。1つは、カーネルが3年前に発売したイメージ分割入力システムの活用。例えば生命保険の契約書に記載されている氏名や住所、電話などのイメージ・データを細かく分割し、インターネットを介して複数の拠点からそれぞれのデータ項目のみを入力する。Aさんは文字のみ、Bさんは数字のみを入力し、最後にe-ワークスネットが様々な場所で入力されたデータを統合する。なので、個人情報の漏洩などに威力を発揮するとともに、入力作業が在宅で可能になる。パソコンとインターネットを使ったデータ入力技術を習得さえすれば、障害者も健常者も同じように在宅作業を行える。「障害者に仕事を提供できるよう、IT利用でバリアフリーにしたともいえる」(大槻氏)。

 2つ目は、社会福祉法人あかねが実施する障害者の自立支援、就業支援。このノウハウとイメージ分割入力システムを組み合わせることで、障害者の雇用を促進できる。実はe-ワークスネット設立以前、大槻氏らは千葉県や埼玉県、東京都、山梨県、横浜市など複数の地方自治体に、イメージ分割入力システムを活用した障害者の在宅就業の仕組みに関する説明をeメールで行った。「メールを送信したすべての地方自治体から話を聞きたいといった反応があったが、中でも熱心だったのが千葉県だった」(大槻氏)。その千葉県の福祉担当者が紹介してくれたのが社会福祉法人あかねだった。そこにイメージ分割入力システムの活用などを説明したものの、予算面などからシステム導入は難しいとなった。

在宅就業者支援団体への登録

 だが、そこから合弁会社設立へと話がとんとん拍子に進んだ。その背景には、上記の2つの点に加えて、この4月に障害者雇用促進法が一部改定されることにある。在宅で就業を希望する障害者にその機会を確保したり、職業講習をしたりする在宅就業支援団体に民間企業も登録可能になることだ。これまで社会福祉法人や関連NPOしか認められていなかった在宅就業支援団体にe-ワークスネットがなれれば、データ入力作業を同社に発注した企業に対して、厚生労働省が仕事量に応じた報奨金あるいは調整金を支払ってくれる。在宅就業支援団体が発行する「AさんとBさんがこんな仕事をこの程度した」と記載した証明書に基づいてだ。ただし、民間企業だけでは、教育などの仕組みを確立できないので、社会福祉法人との合弁の形になった。

 一方、企業もCSR(企業の社会的責任)が重要なテーマになっている。障害者雇用もその1つである。従業員数301人以上の企業の場合、1.8%以上の障害者の雇用と納付を義務付けられており、未達の場合、1人当たり月5万円×12カ月=60万円を厚生労働省に納付することになる。だが、在宅就業支援団体などを通じて障害者に仕事を発注すれば、それに応じた金額を厚生労働省が調整金として支払ってくる。納付義務のない300人以下の企業に対しては報奨金という形で厚生労働省から支払われる。

 カーネルの井上氏は「障害者の仕事は単発だったり、単純な仕事だったりすることもあったようだ。合弁会社がA社から、B社からと次々にデータ入力の仕事を受注できれば継続的に、かつ障害者も健常者も分け隔てなく個別に入力作業をお願いできる」と語る。発注企業が問題とする納期を守るために、例えば障害者2分の1、健常者2分の1の構成で、1つの入力作業をこなすといった方法を考えている。バックアップ機能として、集合エントリーセンターも用意する。

 少子高齢化などによる就業人口の減少という問題もあるだけに、障害者が働ける環境を整備することは重要になってくるだろう。そうした中で、e-ワークスネットの活動に複数の地方自治体や社会福祉法人などが関心を持ち始めているし、同社に登録する障害者も増えている。その一方、「企業の関心も高まっており、すでに発注を決めてくれた企業もある」。大槻氏らはITを活用した障害者就業支援事業に期待をかけている。