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 今回は,ITベンダーのオープン・スタンダード戦略の葛藤について説明しましょう。標準を利用するユーザ企業は,これからお話しするオープン・スタンダードに関するベンダーの動きを十分理解し,ベンダーのマーケティング・メッセージに惑わされることなく,その公平性や有用性をしっかりと判断する必要があります。

ベンダーにとって魅力的な「オープン」という冠言葉

 ITベンダーにとって,自製品がサポートしている仕様が「独自仕様ではなくオープン・スタンダードだ」と言えるのはとても魅力的なことです。つまり,そのベンダーは,「世の中のオープン・スタンダードの開発に重要なリーダーシップを発揮し,自社のシステムが他社のシステムとの相互運用性を充分備えている」とユーザにアピールできるからです。そうした観点から,オープン・スタンダードに関してベンダー企業が取る2つの代表的な動きを紹介しましょう。

戦略その1:自前の標準をオープン・スタンダードにする

 市場に支配力のあるベンダーは,他の有力ベンダーや力のある大手ユーザー企業に声をかけ,一時的な標準化グループを編成して標準の開発を始めます。そしてベンダーは,開発中の標準の草案仕様を自社製品に実装します。大手ユーザー企業は,その製品を使用して実証実験を行い,その標準の使用上の問題や課題を発見して,共同で仕様をブラッシュアップしていきます。そしてグループ内でかなり標準化が進んだところで,W3CやOASISといった標準化団体に仕様を提出して,オープン・スタンダードとしてのプロセスを通すわけです。

 実際の例を挙げますと,米IBM・マイクロソフト連合グループによって,実に多くのWebサービス・プロトコル・スタックの標準案が標準化団体に提出されてオープン・スタンダード化の対象となっています。ここに,両社が採用しているオープン・スタンダードに対する技術提携戦略,共同マーケティング戦略が浮き彫りになっています。世間に対して新技術に貢献しているという姿勢をアピールすること,そして自社製品のビジネス戦略とが相まって,現実の標準化戦争にドライブが掛かっているのです。

 標準化団体側では一般に,このようにベンダーあるいはベンダー・グループによって開発された標準に対して,安易にオープン・スタンダードであるというお墨付きを与えること---「rubber-stamping」,つまり「ゴム印押し」と呼びます---をとても嫌います。そこで,標準化団体側はベンダーやベンダー・グループに対して,その団体の定義した標準化プロセスをしっかり踏んでもらうことや,会員による複数の現実の実装例も求めます。

戦略その2:オープン・スタンダードの拡張による市場の支配

 さて,標準化団体などによっていったんオープン・スタンダードが定義されると,市場で支配的なベンダーが,標準に対して独自の拡張機能を施した仕様を自社製品に実装することがあります。そうすると,標準を実装している他社システムは,支配的なベンダーによって提供される多数のシステムとの互換性がなくなってしまいます。

 そこで他社が考えるのが,支配的なベンダーが施した独自の拡張機能と互換性のあるシステムの提供です。しかし支配的なベンダーはそれを防ぐために,特許や著作権を利用します。独自の拡張機能を施した仕様について特許や著作権を主張し,他社がその仕様を実装できないようにするわけです。これは,標準に関する「独占的囲い込み」を生み出します。標準に関する独占的囲い込みは,ユーザー企業にとって不利益をもたらします。他のユーザー企業との互換性を保つために,その支配的なベンダーの実装に切り替えることを余儀なくされるからです。

 こうした事態の発生を防ぐために,ベンダーが協力して標準の相互運用性の確保を目的とした業界グループを設立することがあります。Webサービスを推進する複数ベンダーにより設立された団体,「WS-I (Web Services Interoperability Organization)」がまさにそうした役目を持つ組織です。各ベンダーの標準戦略の違いを乗り越えながら,異なるベンダー製品で提供されるWebサービスの相互運用性の確保に共同して取り組んでいます。

ユーザー企業がベンダーのオープン・スタンダード政策を評価

 実際には,オープン・スタンダードを利用する立場にあるユーザー企業が,前述したようなベンダーのオープン・スタンダードに対する取り組み姿勢や戦略を評価する必要があります。各ベンダーが正しく,つまり公平にオープン・スタンダードに取り組んでいるかを,ユーザー企業が判断するのです。

 ベンダー企業が標準に含まれる自社の特許を主張し,標準の使用についてロイヤリティを徴収できる権利を得たとしても,実際にユーザー企業からロイヤリティを徴収することはできないでしょう。それは,ユーザー企業が,ベンダーの公平性を評価しているからです。以前書いたように,オープン・スタンダードで最も利益を受けるのは,ユーザー企業です。ユーザー企業が,いかにして標準化に参加し,標準の公平性と有用性のチェックに関与するかが,最も重要なことなのです。