この連載のタイトルは「SEは中流を目指せ!」ですが,本来のSEは,もともと中流にいてソリューションをメインの仕事にしていました。今回から3回にわたって,勇気と誇りと自信を持ったSEの実例として,戸田保一さんの話を取り上げていきます。

 私が尊敬する戸田保一さん(野村総合研究所副社長→CSK副会長→アルゴ特別技術顧問)は生涯一SEとして,75才でリタイヤされました。IT業界の重鎮,SEの守護神でした。「ソリューションは決してコンサルできない。できるのはSEだ!」という強い信念を持たれていました。半端ではありません,私がコンサルタント的な仕事に変わった時は,口も聞いてくれませんでした。

 懇意にしている筑波技術大学の隈教授の10年程前のベストセラー「なぜ,SEはコンサルティングができないか」を戸田さんに見せたことがあります。その翌日,顧問室に呼びつけられました。戸田さんの頭からは湯気が出ています。「クマかトラか分からんが,題名が間違っとる。(正しい題名は)『コンサルタントは何故SEができないのか?』だろ!良く言っとけ」と,メチャクチャ罵倒されました。

 いつも温厚な戸田さんですが,時々爆発します。SEに関して適当な思い込みを言ったり,SEを軽んじた時です。そのぐらいSEという仕事に愛着と誇りをお持ちでした。戸田さんの経験談は面白く,いつも引き込まれました。

 しかし今の戸田さんは,本音では「最近のSEは,SE脳も満足でないSEが多い」と残念がっておられるのではないでしょうか?論理推論力はSEの領分です。戸田さんはシステム・エンジニアリングとおっしゃっていました。システムとは何でしょう?辞書で引くと「個々の要素が有機的に組み合わされ,まとまりをもつ全体体系」とあります。今のSEは,本当にそんな複雑な体系を相手にしているでしょうか?

 SEは1960年代,IBM360という今のコンピュータの原型となった汎用コンピューと同じころに誕生しました。汎用コンピュータとは,あらゆる用途に“汎用的”に対応するという意味です。そして,SE(システム・エンジニア)の“システム”という言葉には,「個々の要素が有機的に組み合わされ,まとまりをもつ全体体系」という意味が込められています。

 SEには専門分野の技術者ではない,新しいタイプのエンジニア像が期待されていました。つまり,SEに求められた役割りとは,複雑な“システム”を対象としたエンジニア(技術者)であり,今のコンサルタントの役割りも包含していたのです。しかし,“システム”という言葉は,やがて情報システムや在庫管理システムのように“狭い意味”で理解されてしまい,SEはプログラマの単なるキャリアアップと認識されるようになりました。これが大きな誤りだったのです。

 戸田さんには示唆に富んだ話がいっぱいあります。次回は戸田保一さんの“プロジェクトX”を紹介します(私は,この話をNHKに持ち込もうと真面目に思っていた時がありました)。