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 今回は,CIOに必要なコーチングについて,話をさせていただきます。

「ワンポイントレクチャー」コーナー:CIOに必要なコーチングとは

 ここ数年,コーチングブームとなっています。「The Inner Game Of Tennis」(1975年)の著者で知られるティモシー・ギャルウェイによれば,コーチングは,「一流テニスプレーヤーを育てる一種の心理ゲーム」であるということです。しかし,この考え方の原点は,既にソクラテスが2000年も前に述べていると指摘する知識人(ジョン・ホイットモア)もいます。いずれにしても今日では,その考え方と手法は,一流のオリンピック選手や一流のスポーツ選手を輩出するのに必要なコーチング技術として常識化するまでになっています。一方,ビジネスの世界においても,部下を持った人のビジネススキルとして,コーチングという言葉だけは,常識化しつつあるといえます。

 それでは,CIOの場合はどうでしょう。他の経営幹部と比べても,多種のタイプの人と協働する機会が多いわけですから,「いちいち人間関係で悩んでいる」ようでは,仕事になりません。そこで,一定の対人技術のレベルアップを図るためにコーチングを実践することが必要となります。

CIOにとってのコーチィング対象者

 具体的にCIOがコーチングを行う場合,その対象者をあげてみましょう。
列挙すれば,ビジネス・オーナー(他の経営幹部や情報システム部門以外の部門長,など),情報システム部門のマネージャー,アプリや運用チームのリーダー,プロジェクト・リーダーなどであることがしばしばであり,情報システム子会社の幹部やマネージャークラスの場合だってあるのです。
それから,これはあまりあって欲しくないのですが,場合によっては,アウトソースであるコンサルタントやハード・ソフトベンダーのメンバーにもおよびます。

コーチングのコア・プロセス

 一言でコーチングといっても,現実には誰に行うかという違いだけでなく,企業規模によっても,また,情報システム部門の人数規模によっても,コーチングの詳細が変ってくるのは,当然です。いきなり詳細に入る前に,コーチングの基本手順(コア・プロセス)を確認しておきましょう。

 コーチングを受ける者が主体的に,「目的を確認する」「現状を確認する「意欲を取り戻す」「解決方向を見出す」「行動計画を立てる」「行動結果とその評価を報告する」ように,コミュニケーションして行く過程が,コーチングのコア・プロセスと考えて良いでしょう。これらの一連の手順を通じて,コーチングを受ける者は,「気づきを得る」「論理的に納得する」「自信を取り戻す」など目標に対する責任と自覚を取り戻し,自ら意識変革することで,的確に行動させることができるのです。

 部下や協働パートナーに理想的な行動,成果が望めない時,行動目標や成果目標を実現するために,CIOは,コーチングのコア・プロセスを彼らに対して行う必要があるのです。また,このコア・プロセスを習得することで,応用力が増すことになるのです。

情報システム部門メンバーへのコーチング

 CIOは,情報システム部門メンバー(その多くがIT技術者)と会話することが多いものです。これは,他の経営幹部と比べて特徴的です。性格的に「人と話すことが苦手という人」「一人でコツコツ,他人から口を挟まれないで,何か作りたい人」「他人とかかわるより自分の世界に没頭したい」などの一面を比較的多く持った人たちです。愛すべきこのような人々の能力を引き出すためには,コーチングは有効です。

 ただ,技術者としての基礎が整っていない人に対しては,コーチングは,効果を発揮するどころか,やる気を失なわさせ,逆効果になる場合があります。特に,情報システム部門として,技術教育の制度を持っているなど,技術を育てる環境が整っていることが,前提となります。環境が整っていないところで,自主性を発揮しろといっても,無理な話です。

 具体的には,ITスキルスタンダードにいう,各レベルの目標と各自の業務目標を良く理解した上で行うようにしてください。実務的な場面対処に終始するコーチングでは,メンバーの中期的な動機付けが不十分になってしまいます。

プロジェクト・リーダーへのコーチング

 また,CIOは,プロジェクト・マネージメントやプログラム・マネージメントの観点から,人に接することが多いのが現実です。

 例えば,以下の状況があるとします。

 現場が思うように動いてくれないために担当している情報システムプロジェクトの総合テスト(ユーザー参加)が遅れる傾向にある。

 このプロジェクトのリーダーである岡田君に対して,貴方は,CIOとしてどのようにコーチングしたら良いでしょうか。

 先にあげた,コーチングのコア・プロセスに従って,岡田君に声をかける一例を紹介しましょう。

「岡田君,プロジェクトの進み具合は,期待どおりですか」
「どのような状況なのか,説明してくれますか。」

「ところで,期待している目標は,どのようなものですか,岡田君」
「その目標を達成するのに,何が必要だと思いますか」
「岡田君,一般的にいろいろ障害があって進まないものだけど,今,障害になっていることをあげてくれますか」
「最近,ビジネス・オーナーとは,どのような会話をしましたか」
「力になってくれているのは,誰ですか」
「目標を達成するためには,どのようなことができそうですか,岡田君」
「それは,誰に知らせる必要がありますか」
「岡田君,それを実行するためには,どのようなサポートが必要ですか」
「理想的に進めていける可能性は,5点満点で何点でしょうか」

 時間の許す範囲で,質問を繰り返し,5点満点で4点以上になるまでじっくりと対話することが必要です。ここまでで,コア・プロセスの「行動計画を立てる」まできたことになります。

 もちろん,話の中で,「岡田君の名前を会話に多めに入れる」「岡田君の努力を誉める」ことを忘れてはいけません。また,質問を繰り返す場合も,言葉を少々変えるなど,工夫することは言うまでもありません。

コーチングの習熟を目指して

 部下や協働のパートナーが良いIT技術者,プロジェクト・マネージャー,ビジネス・オーナーになれるかどうかは,CIO自身が,「部下や協働のパートナーの将来像やビジョン作りに貢献したいという動機と情熱」を持つことが大事です。そのメンバーから将来メンター(自己実現のモチベーションの維持に影響を与える人)として,尊敬されるようになれば理想です。

 コーチング・アップといって,CIOとして,上司をコーチングする必要性も多々あります。これについても,将来このコーナーで取り上げたいと思っています。

CIO川柳コーナー

 前回の川柳である「良心の 呵責に耐えた プロジェクト」の意味するところを説明します。

 「良心の呵責」の意味するところは,2つあります。一つは,技術者としての良心であり,「情報システムの技術的な品質」,「顧客の要求」を実現したいという意識から,仕事ぶりを見たときに沸いてくる隔絶感(理想と現実のギャップに悩むということ)です。

 ユーザー要求の実現に必要な高い技術を避け,低い技術を選択し,不透明な高めの見積もりを提示してユーザーの諦めを誘う。システムのバグに気づいていながら,ユーザーに指摘されるまで修正しない。

 これらの行動の背景には,「良心の呵責に耐える」技術者の心があるのです。

 もう一つは,職業人の前に社会生活を営む人間として持つべき心から見たとき,仕事ぶりやその結果がかけ離れていることを痛む心です。

 違法性の予見に気づきながら,黙っている。米国では,他の従業員の給与の端数を自分の口座に振り込むプログラムを作成して,逮捕された技術者がいたということですが,まさにこの例です。

 情報システムにかかわる多数のメンバーに対して,責任ある立場にあるCIOであれば,当然ですが,このようなプロジェクトは,皆無とすべきです。

 この句は,次回に解説します。皆様も,考えてください。