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 上司は部下を指導・管理するのが仕事だ。しかし,上司が部下が担当している顧客の名前程度しか知らない,お客様は上司の名前を知らない,なのに上司と称する人が部下の指導や管理や人事評価などを行う。こんなどう考えてもおかしいことが,IT業界ではまかり通っている。

 ここに筆者が調査したある数字がある。その調査結果では全SEマネジャの内部下が担当しているすべての顧客を一人で訪問できるSEマネジャは16%,全顧客のうち一部の顧客なら一人で訪問できる人が37%,ほとんど一人では訪問できない人が47%である(2005年3月の日経コンピュータ掲載)。すなわち,一人では訪問できない,団体訪問組か年始年末訪問組が約50%,10人に5~6人いると言うことだ。

 これでは顧客のことが表面的にしか分からない。顧客もおよそSEマネジャの名前は覚えてくれない。きっとこの50%組のSEマネジャは冒頭に書いた状況と似たり寄ったりであろう。部下はシステム開発や保守などで顧客で頑張っているのに,そのSEを放ったらかし。そしてお客様はSEマネジャの名前も知らない。そんな状況だと思う。ちょっと言い過ぎかも知れないが読者の周りのSEマネジャはどうだろうか。

 それで部下が対顧客で困った時「その人とはこう交渉するんだ。それでダメなら俺がやってやる」と言えるのだろうか。顧客を知らなくて若いSEに仕事の仕方を指導できるのだろうか。部下一人ひとりの人事評価を確信を持ってできるのだろうか。部下に10年も15年も同じ顧客を担当させることはないだろうか。部下の成長を考えたジョブアサインができるのだろうか。能力もない営業にSEが適当に使われてはいないのだろうか。またそれで顧客と揉めた時に自分で決着をつけられるのだろうか。部下をモラール高く働かせることができるのだろうか等々といろいろな疑問が湧く。

 SEマネジャが業務・人事両面の仕事を全うするには「顧客,ビジネス,部下,技術,アプリケーション,各種法律,コンプライアンス」など多くのことを知り,あるレベルまでそれらに強くなることが重要である。特に,その中で顧客を知っているかどうか顧客に強いかどうかが極めて重要だ。これがぜい弱では部下の指導や顧客との交渉や売り込みなどでろくな仕事はできない。

そのために筆者は現役時代,「SEマネジャは一人でぶらっと顧客を訪問せよ」と主唱していた。一人で顧客を突然訪問し,部課長や担当者と話せば,その人の考えや本音などが分かり易い。また、自分もシステムの責任者らしい話をすれば、信用を得やすい。それも,部下が顔を出している全ての顧客を訪問すべきである。一部の顧客だけだと訪問していない顧客の状況が分からないし、その上その顧客担当SEが不満を持ちモラールが下がるからだ。

 以上色々述べたが,現在一人で顧客を訪問できないSEマネジャの方は是非明日から「ぶらっと訪問する」ことを開始してほしい。これが今日の一言である。

 “恥をかいてもよい”と度胸を決めて,理屈抜きで始めてほしい。そして継続的に行ってほしい。すると必ず顧客に強くなれる。最初は10点でも20点でもよい。門前払いを食らってもよい。

 注意すべきことは,部下が顔を出している全顧客を訪問すること。顧客の部課長やSEと仕事をしている顧客の担当者とも話すこと。SEの仕事振りを見ること。文句を言われても約束をしないこと,などだ。

 この「ぶらっと訪問」をやると,当然部下のSEは自分達の仕事振りや顧客を知っているボスを頼りにする。勇気も湧く。そして部下との信頼関係も深まる。すべての顧客を訪問すると言っても,大手顧客を1,2件担当しているSEマネジャなら易しいが、顧客の数が多いとそう簡単ではない。しかし,ぜひ頑張ってほしい。

 この「ぶらっと訪問」は以前日経コンピュータに書いたが,非常に大きな反響があった。ある会社では社内用語にもなっている。

 SEマネジャの中には「とは言われても忙しいんだ。それでどころではない」と言う人もいるかもしれないが,そんな人は「それどころとは何か」それを冷静に考えて見てほしい。

 顧客訪問を疎かにし,顧客を知らないようではSEマネジャとしての務めを果たすことはできない。SEマネジャとは名ばかりで,事務処理屋として頑張るか部下と技術で競争するしかない。