このメンバーなら、最初に適用するのは東京証券取引所の新システムだろうな----「NTTデータ、富士通など6社、顧客にも分かるシステム仕様作りで協力」なるニュースは、そんな妄想をたくましくさせる話だった。
なんでもNTTデータ、富士通に加えて、NEC、日立製作所、東芝ソリューション、構造計画研究所が「発注者ビュー検討会」を作り、ユーザー企業から受注する際の「業務システム仕様」について、標準的な記述方法などを共同で検討するらしい。要は、お客にもシステム仕様を分かりやすくし、双方に誤解なきようにして、後のトラブルの芽を未然に防ごうということらしい。
最初は、要件定義のあたりまで視野に入れているのかとか、エンドユーザーには理解不能なUMLに取って代わるものを作るのかなどと思ったが、それは違った。あくまでも要件定義後のシステムの仕様作りでの話だし、別にUMLをリプレースする話でもない。出来上がり予定画面を作って“紙芝居”をするなど、ITベンダー各社各様なりのお客に分かりやすく見せる工夫を持ち寄って、ベストプラクティス集を作りましょう、という話のようだ。
新しいモデリング言語を開発しよう、とかいう話に比べて、随分ベタな試みだが、これはこれで極めて納得感のある話。最近のシステム案件は、情報システム部門だけではなくエンドユーザーと合意形成しなければならないケースが多いが、エンドユーザーにシステム仕様をきちんと理解してもらうのは、とても難しい仕事だ。中には「エンドユーザーもUMLぐらいは分からないと」と平気で言う技術者がいるが、エンドユーザーから言えば「アホぬかせ」である。
それはともかく、この辺りのノウハウは、ITベンダーやシステム・インテグレータなら社内、もしくは属人的に、ある程度は蓄積している。要件定義でのノウハウと違って、ITベンダーにとっての競争優位の源ではないだろうから、各社のノウハウや経験、知恵を持ち寄ってベストプラクティス集を作るのは、良い考えだ。広く活用されトラブルが少なくなれば、IT業界にとっても、ユーザー企業にとってもメリットが大きい。
これよりお客がシステム仕様を正確に理解できれば、要件定義段階で曖昧性があったとしても、多少の手戻りこそあれ、この時点で明確化できる。また、仕様を書く技術者が要件を誤解していたことからくる“悲劇”も防ぐことができるだろう。
さて、この件、NTTデータと富士通との間で話が持ち上がったという。東証の新CIOはNTTデータの出身。NTTデータは「様々な面で新CIOを支える」と公言しており、この検討会の事務局も務める。検討会では2006年10月をメドにユーザー企業による評価・検証を実施するとしているが、東証が次期売買システムの概要を発表するのは9月だという。
そう言えば、東証の西室社長兼会長は東芝の出身だし・・・。まあ、そんな“酒飲み話”はともかく、あれだけのトラブルの後だ、この検討会の成果物を東証の新システム構築に適用せずして、いったいどこへ適用するのかと思う。
ところで、検討会での成果物は広く公開し、IT業界での活用を働きかけていくという。ただ、こうした試みが成功したとしても、システム仕様の曖昧性や膨張性から来るトラブルの克服に向けての第一歩にすぎない。お客は自分が何を作ってほしいのかが分からず、それが見えてくると要求が際限なく膨らむのが、最近のトレンドだ。お客に代わってITベンダーが完璧な要件定義ができればよいが、その道ははるか遠い。