PR

 最近、中堅・中小企業開拓の要(かなめ)は「インフルエンサ」にあり、という話を聞いた。インフルエンサというのは、高熱が出て、頭痛や筋肉痛もひどく・・・っていう、あの病気のことではない。「influencer」、つまり企業などの購買行動に影響を与える存在のことだ。米国では結構ポピュラーな言葉らしい。では、日本の中堅・中小向けのIT市場において、インフルエンサとは誰なのだろうか。

 大手のユーザー企業の場合、IT案件におけるインフルエンサは多くの場合、その企業の社内にいる。昔なら情報システム部門であり、今ならエンドユーザー部門といったところか。これを「社内インフルエンサ」と呼ぶ。だから、ハードメーカーやソフトメーカーなどのITベンダーは、販売パートナーであるシステムインテグレータを差し置いて直接営業に乗り出すなど、懸命にユーザー企業の社内インフルエンサにアプローチしようとする。

 一方、中堅・中小企業の場合、情報システム部門が存在しないか、あったとしても弱小。エンドユーザーも「そんなもの、知るか」である。従って、経営者自らがIT化の音頭をとるような先進企業を除いては、ユーザー企業に社内インフルエンサは存在しない。それは日本だけでなく米国でも同様で、それゆえに米国ではITベンダーは、ユーザー企業の外にいるインフルエンサにマーケティングすることで、売上を増やそうとする。

 さて、そのインフルエンサのタネ明かしをすると簡単で、こうした中堅・中小企業にIT案件を提案する、いわゆるソリューションプロバイダのことである。米国ではメーカー系列なんてないから、こうした企業はITパートナーとして、顧客の中堅・中小企業の課題解決に必要なハードやソフトを主体的にチョイスし、ディストリビュータから仕入れて提供する。

 外資系ベンダーの人に言わせると、「米国ではメーカーは、ソリューションプロバイダをユーザー企業とほぼイコールの存在として見ている」。だから、ソリューションプロバイダ、つまりインフルエンサ向けに、かなりお金をかけたマーケティングを行っているという。ちなみに、ソリューションプロバイダという言い方は、米国で極めてポピュラーなのだそうだ。

 一方、日本の場合、こうした外資系ベンダーは、特にERPベンダーは当初、中堅・中小企業開拓で“奇妙な手法”をとった。米国のようなインフルエンサを探すことをせず、やはり中堅・中小市場への参入をもくろむ大手、準大手のシステムインテグレータをたきつけたのだ。中堅・中小向けの安価(それでも高額)のパッケージを作り、「IT化の遅れている中堅・中小企業の開拓で協業しましょう」とやった。

 結果は、あまり芳しくなかった。この話は随分前に書いたが、中堅・中小企業向けのERP市場というのは一昔前のオフコン市場とほぼイコールで、多数のプレーヤーが既に存在する。そして、これまで中堅・中小企業とあまり付き合いのないシステムインテグレータは当然、信頼されるインフルエンサたり得ないから、中堅でも上位企業向けを除けば商売にならず、コストばかり膨らむ結果となった。

 ではどうして、外資系ベンダーは母国と同じく、中堅・中小市場のキープレーヤたるインフルエンサに働きかけなかったのか。理由は簡単で、日本にはインフルエンサに相当する企業がマスとして存在しないと、彼らが認識していたからだ。これは何も、ERPベンダーに限ったことではなく、その他の外資系ソフトメーカーやハードメーカーの共通した認識だった。

 で、実際はどうかというと、その認識はかなり当たっている。もちろん、大塚商会やオービックといった強力な例外はあるが、今でも大手コンピュータメーカーにおんぶに抱っこの“販社”が、中堅・中小市場には多数存在する。こうした企業はメーカーの一次店の看板、つまりメーカーの“一の子分”であることにこだわり、ソリューションなんて発想はまるっきりないから、インフルエンサになるのは難しい。

 まあ考えてみれば、こうした販社ビジネスの問題点は、もう20年近く前から指摘されてきたことだ。日本の中堅・中小企業のIT化は、国際的に見ても非常に遅れており、発展途上国並だそうだが、その原因のかなりの部分が、こうした古い“流通構造”が中堅・中小向け市場で温存されてきたことにあると言ってよい。

 さて、それは変わらないのだろうか。個々の企業レベルでは、販社からソリューションプロバイダへの転換を図った、あるいは図ろうとする企業の話は、さすがによく聞くようになった。しかし、マクロではどうか。これは、なかなかつかめない。「変わりつつある」「いや、今でも旧態依然」と人によって意見は正反対に分かれる。

 ただ、このところ外資系ベンダーが、日本でもインフルエンサに相当する企業が多数生まれつつあるとの“仮説”のもと、米国流のマーケティングを試み始めたのも事実だ。つまり、単なる販社ではなく、ユーザーのITパートナーである企業に情報提供や技術支援などを行う体制を構築しつつある。IBM、HP、マイクロソフト、オラクル、シスコなどなど、みんなそうだ。

 だから、長く中堅・中小企業相手に商売をしてきたシステムインテグレータなどには、大きな可能性が広がってきたことは確かだ。「ITパートナーとして、ユーザー企業の情報システム部門の代わりを務める」といった気概があれば、中堅・中小企業に強力なリレーションがあるゆえに、ビジネスモデルを変え飛躍することができるかもしれない。もちろん、外資ベンダーに踊らされる必要はないが、少なくとも米国のインフルエンサのビジネスモデルは研究してみる価値はある。