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 前回から「具体的なマネジメントの技術」を紹介しています。人を動かし、上手くマネージメントするためには、多くのマネジメントの技術を理解し、駆使できるように準備しておかなくてはなりません。プロジェクトなどの「マネジメント対象」の状況に応じ一番効果のありそうなものを使っていくのです。そうやって、技術を磨いていくことでしか、ヒューマンマネジメントスキルを向上させていくことはできないのです。

 それでは、次の技術である「根負けさせる技術」を紹介しましょう。

 たとえば部下が考えた企画を上司に説明し、説得する場合について考えます。通常、上司は部下の企画の甘さ(論理性・実現性)を突き、部下はこれに対応できるように準備します。そして、上司の指摘に部下が反論を加えるような形で議論が行われていくのです。(あくまで、基本的なケースです。)

 上司の性格にもよるのですが、基本的に、上司は「自分自身の利を害せず、部下の成果になるような話」ならOKを出すことが多いはずです。しかし、このような基本的条件を満たしても上司がNOを出すことは多くあります。

 その理由のひとつに「前例にない、新しいことは好きではない」という上司の性格や過去の失敗経験に起因するものがあります。特に過去に新しい試みに挑戦して酷い失敗をした場合は、上司の心に、いわゆる「メンタルブロック(心の障壁)」が構築され、「基本的にNO」な状態を作り出すことがあります。

 また、そこまでいかなくても、「上司の上司が反対している(課長が説得対象であれば、部長)」、「金や人のリソースを調達するために、他部門に説明し、了承をしなくてはならないが、その作業が面倒、辛い」などの理由もあります。

 このように思っている上司を説得するのは非常に困難だということがお分かりいただけますでしょうか?

 私の考える説得の基本定義は「相手の利害を調整する試み」を行い、「好ましい成果」をもたらすということです。つまり、相手の利得(行動のインセンティブ)を知り、これを相手に渡すように調整することです。

 しかし、メンタルブロックが出来上がった人や上司に遠慮したり、他部門との調整を嫌がる人には、具体的な「利得(行動のインセンティブ)」がありません。あるのは「面倒、恐怖心、気持ちが乗らない」といったマイナスの感情的なものだけです。これは行動のインセンティブ云々の話とはまったく違った次元の話なのです。

 相手が感情や心理的なもので反対する以上、説得する側がいくら論理的な話をしても駄目です。相手は「話は分かるが・・・」、「気持ちは理解するが・・・」、「もうこれ以上は聞きたくない!」などと理路整然とした議論にはならないことを理解してください。

 では、どうすればいいのでしょうか?説得する方法はないのでしょうか?

相手が感情で対応するなら当方も感情で対応する

 相手のNOが感情、情緒に関するものである以上、説得する側は論理だけでは説得できません。だから、こちらも「感情」で押す必要があるのです。すなわち「情熱をもって上司を動かす」ことを行えることが必要なのです。これに関する事例をご紹介しましょう。

 私が老朽化したシステムの再構築を企画したときの話です。当時、私はある金融系の業務を営むA社の情報システム部で、システム開発、保守を担当していました。役職は主任でしたから、社会人になって6年目くらいです。

 このころ、A社では、基幹システムである加盟店でのカード販売管理システムの再構築を行っていました。このシステムは全国の加盟店が使う広範囲のネットワークシステムです。とにかく、開発規模が巨大で超多忙な時期でした。私が所属していた部門は、ほとんどの部員がこの巨大開発に参加しており、皆、朝から夜遅くまで黙って対応していました。

 これだけでも大変だったのですが、実は私の部門では別のシステムの再構築も検討していました。こちらは規模は小さいものの顧客宛のカード請求書業務をサポートするバッチシステムでした。

 このころはカード保有者が急激に増加した時期で、システムにも相当な負荷がかかかりました。それを解消するために、あちこちシステム修正やレベルアップをするので、システムは水ぶくれのように肥大化し、もはや品質が維持できなくなっていたのです。

 一番怖いのは、カード請求額の計算ミスでした。顧客に請求するお金に関するミスはあってはなりません。だから、とにかく早く駄目になったシステムを組み替えなくてはならないと考えたのです。そして、このシステムの再構築を企画したのが、私でした。私は分析作業を始めました。

 しかし、あるとき、作業漏れがあり、基幹ネットワーク再構築のスケジュールが大幅に遅れるという事件がおきました。このため、私の部門の全員が数ヶ月間リカバーに回ることになったのです。しかし、そんなことをしたら、カードの再構築はできません。そこで、私は上司の望月課長に「カードシステム再構築の作業を継続したい」と告げました。

望月:駄目駄目。もはやそんなリソースも金もない。ただでさえ大変なのに何いってるんだよ!
芦屋:しかし、課長、カード請求書作成システムは再構築しないと危ないですよ。だから、作業してきたんじゃないですか?
望月:それはそうだよ。でも、基幹システムの再構築に集中しないと駄目だよ。この状況ではしかたないだろう?
芦屋:では、カードの再構築はどうするのですか?
望月:まだ大きなミスはないだろ?どうにかなるだろう?君にはがんばってもらったけどカードの方は無期限延期だな・・・部長もそういっているし。
芦屋:課長、私は反対です。検討を止めるべきではないと思います。
望月:芦屋、どっちが大事だと思っているんだ。加盟店様に迷惑はかけられないだろう?気をつけて作業していればよいだろう?部長命令なんだよ。
芦屋:課長、もう限界なんですよ。

 私は課長を理屈で説得しましたが、課長は全然聞きません。第に私と課長は激しいやりとりになりました。私は理屈、課長は感情で反対します。会話をしながら私は、今回のリカバー体制が、部長案だったことを知りました。だから課長にはどうしょうもないのです。私が説得すべきは課長ではありません。部長なのです。とは言うものの、課長を飛び越して部長に行くわけにはいきません。どうしても、課長を連れて、部長のところにいかなくてはならなかったのです。そこで、私は、課長に感情面で対抗すべきと悟りました。

望月:芦屋、どちらが優先順位が高いかよく考えろ。また、落ち着いてから再開すればいいだろう。なんでそんなに拘るんだ。
芦屋:課長、問題が起きてからでは遅いんです。お客様に迷惑をかけてからでは遅いんです。もう、複雑化して保守しようがないんです・・・わかりました。会社では検討しません。私ひとりで家に帰ってからやります。土日に家で検討することだけは認めてください。

 課長は私に「勝手にしろ!」と怒鳴りました。あまりにも長く激しい議論で、かつ最後に怒鳴りという特殊な状況があったので、部門のメンバーはすぐ私と課長の会話を知ることになりました。課長はしばらく、ばつの悪そうな顔をしていましたが、そのうち席を立ちました。あとから、それは部長の部屋に行ったのだと後から聞かされました。心が揺れ動いたのだとも教えてくれました・・・私は課長を「根負け」させることに成功したのです。

 そして、半年後、開発を継続した私のチームは、システムを完成させました。

情熱が人を動かす

 このエピソードは私にとって忘れられないものとなっています。論理を超えた世界があり、人は感情で動くということを学習できた一件でした。

 この後私は、意図的に情熱っぽく人を煽動する技術を身につけるようになりました。これを私は、「根負けさせる技術」と呼んで、上手く使っているのです。

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