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 ファーストユーザーが事例の公表をOKしてくれそうだ----。少し前に、事業展開に苦吟する日本のITベンダーの役員と話す機会があった。バックオフィス系の業務パッケージで勝負する全くのベンチャー企業だが、顧客をなかなか獲得できなかった。製品は面白そうなのだが、如何せん“どこの馬の骨か分からない企業”は相手にされない。それが、ようやくファーストユーザーを獲得して・・・。

 導入実績がモノを言う日本においては、製品・サービスがどんなに優れていても、導入事例がないとユーザー企業を説得するのは難しい。特に、企業名にブランド力のないベンチャー企業なると、それは至難の業だ。だから、ファーストユーザー獲得へ向けた営業活動の苦労は並大抵のものではない。しかし、ファーストユーザーを獲得して、その導入事例を公表できれば、事態は好転する。その製品やサービスに商品としての力さえあれば、大きく飛躍できる可能性が広がる。

 ところが、大概のユーザー企業は事例として公表されるのを嫌がる。ITベンダーがパンフレットにして紹介するのも、マスコミに導入事例として紹介されるのもNG。それどころか、社名を口外されるのも嫌だという場合が多い。冒頭のベンチャー企業の役員も、最初に話を聞いたときは、「ファーストユーザーから社名を公表するなと言われて・・・」とこぼしていた。それが、ここへ来てようやく態度を軟化させ始めたらしい。

 だけど、どうしてユーザー企業は、こんなにも導入事例として公開されるのを嫌うのだろうか。よほど戦略的な目的のために導入しているのでなければ、公表しても不都合はあるまい。「自社の取り組みがITベンダーの宣伝に使われるのは、いかがなものか」というのが一番もっともらしい理由だが、それは少しケツの穴が小さくはないか。導入実績や横並びが大好きな日本企業を相手に商売しているのだ。ベンチャー企業や新製品を育てるために、少しぐらい手を貸してやってもバチは当たらない。

 以前、と言っても、もう十数年前のことだが、米国ナッシュビルの中堅建設会社の情報システム部長と話をしたことがあった。その企業ではちょうど、IBMのメインフレームをスクラップにしてUNIXシステムに移行する作業の真っ最中で、この人の話は実にアグレッシブ。その後日本でも流行ったダウンサイジングの走りのようなプロジェクトだった。

 ナッシュビルと言えばカントリーミュージックの中心地として有名で、どちらかといえば保守的な風土。そこにある企業が、先行事例のない試みを平気でやる。ITベンダーの“画期的な新製品”も大歓迎だ。私は話を聞きながら、「こりゃITベンダーも育つだろうな」とうらやましく思ったのを覚えている。もちろん、ITベンダーの導入事例として紹介されることもノープロブレムで、私もそれでこの企業を知ったぐらいだ。

 こうしたことは、日本の企業文化、特に保守的な情報システム部門の文化では、なかなか望めない。日本企業もこの十数年で随分変わったと思うが、マスで見るとまだまだ。そんな中で、その製品・サービスを見込んで“蛮勇”を奮ってファーストユーザーになった企業には是非、導入事例の公表という形でITベンダーに手を貸してやってほしい。それが結局、そのベンダーや製品・サービスを育て、回りまわって自社のプラスにもなるはずだ。