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 前回は、論理的な説得に応じない・・・感情、情緒で反対する人たちに、同じく感情で対応する方法を説明しました。

 昨今、論理的思考や論理的会話術、論理的交渉術など、いわゆる欧米的「ロジック」が評価されがちですが、日常業務ではすべてが「ロジック」で解決できるはずもありません。

 特に、相手が上司や顧客という・・・自分より立場の上の人物であれば、ずべてをロジックで対処するのは得策ではありません。あまりにもロジックにこだわりすぎれば、「理屈だけでない!」、「可愛くないヤツ」、「小賢しい」などと悪い評判が立ってしまう可能性が高いのです。

 仕事は、成功することが目的です。他人にロジックで勝つことは手段の一つであっても目的ではないのです。「論理と感情」この二つを上手く使い分け、どんな状況であっても、他人を上手く説得し、自分の考える好ましい方向へと導いていくことが重要なのです。

 では、次の技術に移りましょう。今回も感情でYESといわない上司を説得するための・・・「感心させてYESと言わせる技術」を紹介しましょう。

君の話はなんとなく説得力がない・・・

 たとえば、上司が何か新しい企画を部下に命じたり、逆に部下が上司に企画を提案する場合があります。システム企画で言えば、経営戦略を受けて、ITの力で何か新しいことを考え、IT部門の責任で実施するケースなどです。

 通常、システムは、ユーザーや会社の上層部などの要請で開発することが多いものの、IT企画を行う部門では、自主的な企画をすることも大事な仕事です。私が仕事をしてきたユーザ企業の情報システム部でも、そういう企画・提案活動を行っていました。

 あるとき、かなりのコストをかけて全社の基幹ネットワークシステムを再構築したことがありました。クライアント側のPC、OS、オフィスソフトなどやサーバの保守切れが近づき、新しいものに入れ替える必要があったのです。

 せっかく、こういう機会なので、ハードや基本ソフトだけの入れ替えだけではなく、強度の高いセキュリティ対策や新しい運用方法、ツールの利用など、今の時代に合わせた最新のものにしていく計画でした。

 私は、この開発で、アプリケーションシステムで新しいシステムの企画を命じられました。

 上司の指示は、「せっかく新しいアプリケーションプラットフォームが用意できるのだから、何か、販売現場でメリットを享受できるものを考えてほしい」とのことでした。

 かなりコストをかける開発だったので、現場に何か目に見えるメリットを与えないと、社内での協力依頼がしにくい面があったのかもしれません。とにかく、何か新しい企画を考えてほしいとの話を私は命じられたのです。

 すぐ、私は、現場の営業をしている日頃から懇意にしている戸田にヒアリングを行いました。戸田は、店舗で金融商品を売っている部隊のチーフで、お客さまのニーズや接客するセールスパーソンの不満や悩みを熟知していました。

 私は、彼や部下の男女全員と意見交換を行い、現行の顧客提案用システムが今の接客現場に合っていないことを知りました。実は、私は、そのときまで接客経験も、営業経験もなかったので、このシステムが時代に合わなくなっているとは思いませんでした。

 彼らの意見を総合すると、

 ・最近のお客さまは、他社の商品と当社の商品を比較したがるので、他社の商品も比較画面に出力してほしい。
 ・プリンターが遅い、画面展開・表示に時間がかかり、お客さまを待たせるため気まずい雰囲気になり、クロージング(成約に向けた追い込み)ができない。
 ・お客さまの質問が昔より高度になっているが、そういうQAもシステムで簡単に参照できず、ノートや紙に記録したり、店の他の人に聞いたりしている間にお客様に不信感を持たせてしまっている。

 こんな意見がたくさん出ました。

 私は、時代が変化し、セールスパーソンが一方的にお客さまに商品をすすめる時代から、お客さまによい情報も悪い情報も与え、お客さま主導で商品を選ぶ時代になったのだと痛感しました。このような変化を見逃し、現場に、古くて時代に合わなくなったシステムを使わせていたのだと強く反省したことをよく覚えています。

 早速私は、情報収集結果をまとめ、新しいシステムの企画書をまとめ、直属の上司や他の管理者に説明しました。私は絶対に通せる企画だと思っていたのですが、上司の黒田部長の反応はまったく違っていました。

芦屋:というわけで、今はこういうシステムが必要なんです。他社の商品をそのまま出すことは規制できないですが、合法的にエッセンスは出力する必要があります。また、お客さまの質問で多いものをまとめ、検索できるようにします。さらに、プリンタは最新機種にして、一人一台にしないといけません。自分のお客さまの資料と他のお客さまの資料が混じると分離するのが手間です。当然、コスト効果の観点はありますが、今のままでは、お客さまに迷惑がかかります。時間がかかりすぎるんです。現場でも、そのように言っています。
黒田:うーん、本当にそうなのか?そんなの使うのかな?よく分からないな?俺にはピンとこないな。
芦屋:でも、現場もそういっていますし、時代が変わっているんだと思うんですよ。こういうところから、少しづつ変えていかないと・・・
黒田:理屈はわかるんだけど、喜ばれるのか、使われるのか?
芦屋:店舗の人は便利になるといっています。とても合理的なシステムになると思うんですよ。さほど、投資もいらないですし。
黒田:お前が言ってもな。。。ほんとにそうなのか俺にはピンと来ないな。芦屋、何か、もっと分かりやすい効果のありそうなやつのほうがいいと思う。これじゃ駄目だ。もう一度、他のものを考えてくれないか?
芦屋:そんなことないですよ。私はこれがよいと思います。これをやらせてください。
黒田:これは×。駄目だといっただろう!別のものを考えろ!

 黒田はすっかり気分を害してしまい、私は本当にがっかりしました。確かに、企画には「完全」はないので、黒田が間違っていて、私が正しいということはありません。しかし、黒田の反対はまったく論理的ではありませんでした。「自分には分からない」、「芦屋の話は説得力がない」という理由だったのです。

 私は、途中から、いつもは論理的な黒田部長がなぜ、今回はこんな反対の仕方をしているのかが分かっていました。黒田も私も、現場経験がなく、営業をしたことも、接客をしたこともなかったのです。

 黒田が無意識に恐れていたのは、「現場経験がない人間が、何も分からない癖に現場の意見を鵜呑みにした挙句、現場が使えない、使わないしシステムを作ってしまった」という失敗だということを悟りました。黒田にあるのはそういう恐怖心だったのです。

悩んだ挙句、決心して現場にセールスに

 私は2週間くらい新しい企画を考えましたが、頭は非常にモヤモヤしていました。そして、現場にいって接客をし、商品を売ろうと決心し、ヒアリングをした戸田のところに1週間世話になりました。

 この1週間は充実した日々でした。今まで聞いたことが、全て実体験として自分の中に蓄積していったのです。もはや、こんなシステムでは駄目だと確信しました。セールスを終えた私は、レポートを書き、それを、上司の黒田とともに、販売部門の課長、係長クラスに送りました。後から、そのレポートは販売部門のかなりの人たちに転送されたと聞きました。

 数日後、私は、前と同じ企画を黒田部長に説明しました。今度はどうなったか?販売部門の課長、係長クラスから部長のところにメールや電話が入っていたこともあり、黒田は大変ご機嫌でした。黒田は「感心した、うまく周囲を巻き込んだな」といい、企画にYESをくれたのです。

 同じ企画。でも、少し環境を変えてやるだけで、こんなにも説得力が増す。こんな方法もあるのだと悟りました。

 これ以降、私は、こんな技術も使うようになったのです。

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