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 今はちょうど、上場企業の決算発表の真っ最中だ。ITサービス会社の決算発表の場合、ポジティブな話として必ず出てくるのが、赤字プロジェクトをどれだけ押さえ込んだかである。短信などを読むと、「赤字プロジェクトを○億円までに減らした」と、各社とも経営努力の成果を前面に押し出している。結構なことだ。いや待てよ。本当に結構なことだろうか。

 多くのITサービス会社がここ数年、巨額の損失を出した赤字プロジェクトに悩まされた。経営を危うくする赤字プロジェクトは悪であり、撲滅すべき対象である。いい加減な営業、いい加減な見積もり、いい加減な要件定義、いい加減なプロジェクト管理など、様々な失敗の芽を摘み取る努力をすることで、ITサービス各社は赤字案件を受けない、出さない体制をなんとか作り上げてきた。

 で、ITサービス各社の2005年3月期の決算発表は、その成果発表会の様相を呈している。だから結構なことではないか、という話なのだが、どうも振り子が片方に振れ過ぎている。例えば、ITサービス業界でベンチマークにされるような某優良企業からは、「ガチガチに管理されて新しいことが何もできない」とのボヤキ節が聞こえてくる。業界全体のトレンドとして、リスクをとらない風潮が蔓延してきた感じだ。

 システムインテグレーションでは曖昧性や不確実性を排除できない以上、一定の比率で赤字プロジェクトが出るのが避けられないが、それを極小化しようとすればするほど新規開拓は難しくなる。未経験や経験の少ない案件はそれだけ不確実性が高まるから、リスクを厳格に管理しているITサービス会社ならば、当然その分のノリシロを厚くする、つまり料金を高く見積もらざるを得ない。

 一方、ユーザー企業は昔と違い、料金に厳しい。案件ごとの財布は確実に小さくなった。ただ、そのユーザー企業やその分野をよく知るITサービス会社にとっては、不確実性は少ないから、リスクヘッジのためのノリシロは小さくてよく、厳しい料金でも採算に合う。かくして、競合が皆、リスク管理を厳密に行ったとすると、新規のITサービス会社には勝ち目はない。これは論理的必然である。

 もちろん、戦い方は価格だけではないが、失敗に対する許容度が小さい状態で新規分野、新規案件で戦うのは苦しい。そもそも、利益責任が重くのしかかる状態では、営業やSEも新規分野の開拓に果敢に挑もうという気は失せる。ITサービス会社の経営者が「これからは攻めの経営に転じる」といくら宣言しても、現場は保守的にならざるを得ない。

 だから、そろそろ「赤字プロジェクトの何が悪い!」という戦略的な暴論が必要である。私はなにも、かつて流行った“戦略的案件”という名のドンブリ勘定プロジェクトをやれと言っているのではない。ITサービス会社はここ数年の苦い経験で、リスク管理能力は飛躍的に高まったはずで、ドンブリ勘定の時代以上にリスクを取れるようになったはずである。このタイミングで、リスクをとって新規分野を開拓する戦略的な取り組みが必要だ、と言っているのだ。

 「将来を見据えた赤字覚悟の戦略プロジェクトは、今でも取り組んでいる」という声も聞こえてきそうだが、その手の話はよく聞いてみると、犬も歩けば棒に当たって結果的にそうなったというケースがほとんど。そうではなく、利益責任よりも新規開拓責任を持つ部隊の創設など、リスクを取る仕組みを組み込んだ体制が必要ではないかと思う。

 そんなことを書きながら、唐突に映画『スタートレック』のことを思い出した。主人公たちが乗る宇宙船は「エンタープライズ」。船名の由来は詳しく知らないが、あえて日本語訳をしたとしても宇宙船「企業」号ではあるまい。困難な事業に取り組む「冒険心」の方だろう。どうも最近のITサービス会社は、エンタープライズ、つまりリスクを取る心が希薄になっているような気がする。