PR

 「ITパーソンは情報参謀たれ」。経営コンサルタントの松平和也氏(プライド取締役)はこう主張し,ITパーソンの代表でもあるCIO(情報統括責任者)の新たな役割を説く。開発や運用などを主体業務とするIT部門ではなく,競合会社のIT活用の現状などを分析して,社長に直接報告するのがCIOだという。

 もちろんCIOの役割や位置付けは企業ごとに異なる。ITを投資と見るのか,コストと見るのかによって,大きく変わる。CIOが直接報告する相手が社長の場合もあるだろうし,財務担当役員だったり,あるいは別の役員だったりするかもしれない。ただ,日本企業では社長に直接報告するCIOは少ない。多くの企業が,ITをコストと見ているからだろう。

 ユーザー企業にIT化を提案する大手ITベンダーも同じような状況だ。「情報を軽んじていることもあるし,情報が社長にうまく伝わっていないこともある」(松平氏)。その根底には,それぞれの市場で競争している危機意識の希薄さがある。第3四半期の時点で「年度計画は達成できる」と財務担当役員が話していても,結局は未達成に終わる背景の一つには,情報化の遅れがある。

 そうした中で,松平氏が情報活用と情報参謀の重要性を説くのは「企業は生き残りをかけて戦っている。その戦いに負けないように,トップに敵の情報を知らせることがますます重要になる」からだ。競合会社がどんな戦略を打ち出したのか,それを実現するためにどのような分野に投資をしようとしているのか,顧客企業を含めた市場が何を望んでいるのか。例えば,競合のA社がICタグを活用した情報システムを構築したのはなぜなのか,といった情報を集め,分析するのがCIOであり,IT部門である。

 「経営企画部門が担当している」と反論する人もいるだろうが,松平氏は経営戦略などの立案より予算管理のウエートが高いのが実態だと見る。最近はITを活用した業務プロセスの改善に取り組むCIOやIT部門もあるが,その結果,売り上げや利益が向上したとしても競合会社はそれ以上の高い成長を実現させているかもしれない。社内情報の活用にとどまっていては競合に打ち勝てないのだ。

CIOにラインは持たせない

 それでは,「なぜIT部門なのか」と疑問を持つだろう。IT部門には開発,運用,企画などといった部門があるものの,その多くは開発や情報処理の効率化などといった日々のオペレーションに従事している。次世代ITインフラをどうすべきかなどを検討する技術部門もあるが,CIOの多くは「システムの改善や改革にあたるライン長になっている」(松平氏)。ラインを持ったCIOは,予算獲得などに走る。IT予算管理をメインにする組織なら,極端に言えば「今回の開発費を少しまけろ」とIT子会社やITベンダーに開発費を値切るだけで仕事をしたつもりになってしまう。

 そこで,IT部門の中から経営戦略や中期経営計画の策定に関与した人材や競合状況に目を向けている企画担当者らを括り出し,情報参謀の任に当たらせる。経営に近いところでIT戦略を練ってきたからでもある。その情報参謀を束ねるCIOには開発や運用などのラインを持たせない。ただし,CIOは経営者がどんな情報を求めているのかを知っていなければならないので,経営者はCIOの求めに応じていつでも時間をとるようにする。もちろんCIOは経営者に嫌なことでも言う。

 実はこうした動きに近い活動を展開するITサービス会社がある。野村総合研究所(NRI)の情報・通信コンサルティング部がその一つだ。同部は例えば,中国の自動車市場がどう動いていくのか,航空会社のマイレージ戦略を調べ顧客のポイントカードをどう組み合わせればカード利用率を高められるか,などといったことを提案する。競合会社の動き,さらには市場で自社のポジションを高める協業に関する情報を提供するのだ。そこから密接に関係するITシステムの活用へと進展させていく。CIOやIT部門が担うべき役割を支援しているのだ。

 その一方で,経営者自身が情報活用の能力を高めることが欠かせない。だが,「この訓練がなされていない。お前を信じている」(松平氏)となった結果,不正な経理処理などが発生しても経営者は分からない。「集まった情報を使って意思決定する力がないならば,社長になる資格はない。勉強をしてから社長になるべきだ」(同)。社長がそういった自覚を持たなければ情報参謀の存在価値はないし,経営戦略もIT戦略も実のあるものは策定できないだろう。

注)本コラムは日経コンピュータ06年5月1日号「ITアスペクト」を加筆したものです。