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 私は2005年の秋口から,米Microsoft社がCRMソフト「Dynamics CRM」をどう日本市場に投入するのか,その動向を追い続けてきた。Dynamics CRMが日本のCRM製品市場の先行きを左右する,と考えているからだ。

 そして私はDynamics CRMを巡る動きを調べているうちに,米Microsoftにとって日本は“辺境の地”という扱いなのではないかと感じるようになった。

 Microsoftは,北米では日本とは比較にならないほど多くの製品を投入している。そして,単なるOSベンダーとは思えないほどに多様なビジネス・アプリケーションのセールス&マーケティングを展開している。

 例えば主力である業務パッケージ・ソフト,「Dynamics」製品群のラインナップを見てみよう。北米では,
○ Microsoft Dynamics GP (formerly Microsoft GP) - 財務管理
○ Microsoft Dynamics SL (formerly Microsoft Solomon) -ERP
○ Microsoft Dynamics CRM
○ Microsoft Business Retail Management System
というフルラインナップ4分野を販売している。

 また「Solutions by business need: Overview」と題しているWebページを参照すると,それらの製品を用途別などさらに違った角度から紹介するなど,工夫を凝らしていることが分かる。

日本法人に欠如している製品マーケティングの感覚

 さて,マイクロソフト日本法人は,これらの製品をどう説明しているのだろうか?

 http://www.microsoft.com/japan/から前述のビジネス・アプリケーションをたどるのは難しい。業務アプリケーションの進出を発表したのはここ半年以内とごく最近であることを差し引いて考えても,あまりにも貧弱な状況ではないだろうか。

 私はこのように米Microsoftにはあって,マイクロソフト日本法人にはないもの---つまり「Microsoftにはあって,マイクロソフトにはないもの」を探してみた。

 「日経パソコン」の記者が書いたUMPC(Ultra-Mobile PC)についての会見記事が一つの参考情報を提示している。記事によると,UMPCを統括しているプロダクト・マネジャは,「Tablet PCの市場導入プランは失敗だった」と認めているという。このコメントは,製品マーケティングの“イロハ”がマイクロソフト日本法人にはなかった,ということと同義である。

 私の調べによると,東芝製のタブレットPCをもっとも大量に購入している企業は米Microsoftだそうだ(ちなみに米国ではタブレットPCをコンバーチブルPCと表現している)。Microsoftが世界的な企業であることは間違いないが,それでもこの話はタブレットPCがいかに売れていないかを示している。

 ただ,タブレットPCは悪い出来のものではない。私はいま東芝製のタブレットPCを使っている。タブレットPCを実際に使い始めてみると,これが従来のパソコンとは大きく異なることが分かる。使い手にワークスタイルの変革を要求するパソコンなのだ。だからこそ,提供側であるマイクロソフト日本法人は,まずタブレットPCがストレスなく使える環境を作ったり,「タブレットPCはこう使うといい」という活用シーンの提案から始めなければならない。

 東芝製のタブレットPCは,LAN接続を有線と無線のどちらでも切り替えて使えるようになっているが,タブレットPCとしての使い勝手の良さを発揮させようとすれば,自然と無線LANを選択することになる。無線LANの機能を持ったルータを持っていない人は購入する必要がある。

 しかし無線LANは,一時期セキュリティの面で問題があると話題になった。だからそう簡単には無線LAN環境を導入する気にはなれない。ノート型パソコンを愛用している人でも,いまだ無線LANを導入していない場合が多いのはそれゆえである。要するに,タブレットPCの活用シーンが限られているのだ。タブレットPCを売り込む際には,こうした状況を勘案して考えなければならない。

 私は手書きメモ・ソフトである「Windows Journal」や「One Note」といったタブレットPC向けソフトを使っている。まだそれほど使いこなせてはいないので正確な評はできないが,タブレットPCの機能や特徴を生かした,なかなか良いソフトである。

 ただし,問題がある。まれにWindows Journalで作成した資料を電子メールで先方に送ってみるが,先方には必ず閲覧ソフト「Journal Viewer」の所在を伝えなければならない。ちなみほとんどの送信相手は「Journal Viewer」をまだインストールしていない。

 目で見てわかりやすいところからタブレットPCを巡る問題点を指摘した。そもそも「タブレットPCはどう活用するとそのメリットを享受できるのか」という点が人々に理解されていない。これがタブレットPCの最大の課題である。

 つまり,マイクロソフトのプロダクト・マネジャとしては,単にOSとしての製品の宣伝ばかりに気を取られるのではなく,ユーザーのパソコン活用ステージを従来型のパソコンからタブレットPCへと移行させる活動を展開しなければならない。それがマーケティングである。そして私が観察する限り,そうしたマーケティングは「Microsoftにはあって,マイクロソフトにはないもの」だ。

日本はマーケティング上重視されていない?

 「Microsoftにはあって,マイクロソフトにはないもの」という図式は,Dynamics CRMでより顕著に現れている。

 私が米国の関係者に取材したところ,MicrosoftにはDynamics CRMのマーケティング・マネジャーやプロダクト・マネジャーがいる。しかし,日本市場向けにDynamics CRMをマーケティングする人や組織は存在しない。

 十数年前のシマンテック日本法人におけるACT!のマーケティングと似ている面があると私は思った。当時シマンテック日本法人には,ACT!を日本市場で拡販するためのマーケティング戦略がなかった。

 私はマイクロソフト日本法人の広報部門に数度問い合わせてきた。広報部門はあたかも製品責任者が在職しているかのような回答を寄せてきたが,米国側から調べてみた結果,どうやらそれほど準備は進んでいないようである。

 こうした状況を見ると,日本は米Microsoftにとって“辺境の地”になってしまっているのではないかと思う。つまり「マーケティングに力を入れるに値しない地域」という認識になっていないか,ということである。

 もちろん分野によって濃淡があるのは当然だろうが,CRMに関して“辺境の地”扱いとなっていたら,それは非常に残念だ。「ACT!」の昔話を持ち出すまでもなく,米Microsoft とマイクロソフト日本法人は,絶好の市場参入のタイミングを逃しているという思いがしてならない。