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 最近の需給関係の回復もあって、ITサービス会社の経営トップから「顧客を選別する」なる発言が飛び出すようになった。さすがにユーザー企業に面と向かっては言わないが、証券アナリストなどに対しては、はっきりと口にするようになったようだ。これは結構なことだ。サプライサイドにだって選ぶ権利がある。それならば、まずは銀行を選別対象にしてはいかがだろうか。

 ITベンダーやITサービス会社にとって、銀行はどんなお客なのだろうか。IT投資の圧倒的な規模や、比較的まともな情報システム部門の存在などが相まって、上客中の上客だったのは確かだ。それに昔は金払いのよいお大尽だったから、今でもITサービス業界の古参経営者の中には、「銀行によって育てられた」と感謝の言葉を口にする人は多い。だが、身も蓋もなく言ってしまえば、「随分甘やかされて育てられた」である。

 ITベンダーにとっては巨額のメインフレームを気前よく買ってくれる上に、莫大なシステム開発費を支払ってくれた。ITサービス会社も、プライムは取れないにしても、二次請け、三次請けで入れば安定収入が確保できた。人さえ確保できれば、ほぼノーリスク。経営努力はいらない。指示に従っていればよい。ITサービス業を「社会主義の計画経済」に例えた人がいたが、銀行向けの仕事はまさにその最たるものだった。

 さて今、その“育ての親”の銀行と付き合う意味はあるのか。ビジネスのボリュームだけを考えれば、そりゃ付き合う意味もあるだろう。ただ昔と違い、今の銀行は「ボリューム出すからさぁ、料金は安くして」である。ボリュームがあれば薄利でも大きな利益がとれるから、ITベンダーやITサービス会社は思わず群がってしまう。しかし、そんな低付加価値のビジネスに多数の技術者を貼り付け続けてよいものだろうか。

 しかも銀行は、原価意識が希薄だから、システム開発を発注するとセキュリティなんかは漏れ無く付いてくる、と思っている節がある。この原価意識の無さゆえに、以前ならお大尽の振る舞いができたわけだが、今は逆。セキュリティ面での要求をどんどん上げても、料金は上げない。製造業ならセキュリティレベルとコストの見合いで考えてくれるが、銀行にはこういう発想がない。ITベンダーが原価企画なんかを持ち出しても、おそらく相手にしてくれないだろう。

 そう言えば、銀行のシステム開発ほど、仕様が確定せず手戻りが発生するプロジェクトも珍しい。これは、金融庁のレギュレーションがコロコロ変わるという外部要因もあり仕方がない面があるが、昔と違い下手にプライムでITベンダーが請け負えば、巨額の赤字を背負い込むリスクに直面する。そんな失敗プロジェクトの話は最近、実際にいくつかあったはずだ。

 ところで、銀行のシステムは信頼性や安定性、セキュリティなどの面ではすごいのかもしれないが、アプリケーション面では大したことはない。“頑丈な金庫”にすぎない勘定系システムには莫大なカネをかけるが、新しいビジネスを創るようなIT投資はわずかなものだ。証券や保険業界を相手にするのと異なり、「最新の金融工学を駆使した○○システム」といった案件を提案したり、学んだりする機会は極めて少ない。

 よく銀行のプロジェクトに携わるメリットとして、「プロジェクトマネジャーやSEに、滅多にない巨大プロジェクトを経験させることができる」ことが挙げられるが、これだってあやしい。これで人が育てばよいが、下請けのITサービス会社のプロジェクトマネジャーが携わるのは、巨大プロジェクトの片隅、ほんの一部分だ。そんな仕事に貼り付けるより、もっと小規模な案件をプライムで引き受けて担当させた方が、はるかに人は育つだろう。

 随分、銀行のことを悪し様に書いてしまったが、要は、銀行のシステム開発プロジェクトの形態や、ITベンダーやITサービス会社との契約形態があまりに古臭い。偽装請負の問題がクローズアップされているときに、依然として“派遣型の受託開発”とかいう言葉が平気で出てくるくらいだから、時代の流れに取り残された特殊な世界のような気さえする。

 そんなわけだから、そろそろITベンダーやITサービス会社は、顧客の銀行を選別することも考えた方がよい。相手が“育ての親”でも、親離れは不可欠だろう。その方が、銀行の為にもなる。ITベンダーやITサービス会社が銀行にもたれかかっていたように、銀行も「金さえ出せば、人はいくらでも集めてもらえる」と考えていたのではないか。もう少しITベンダーなどとの間に“近代的な関係”がないと、これからのグローバル競争に打ち勝つための経営基盤となるシステムなど構築できないだろう。