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 ワード・プロセッサや表計算ソフトなどのオフィス・アプリケーションは,個人ユーザーや“企業内個人”にとって,最も馴染みの深いソフトの一つでしょう。今回解説する「OpenDocument」は,オフィス・アプリケーションにかかわる標準です。OpenDocumentは今後オフィス・アプリケーションだけでなく,Webや業務システムまでも変える可能性を秘めています。

フリーのオフィス・アプリから始まったOpenDocument

 OpenDocumentは,ライセンス・フリーで使用できるXMLベースのオフィス・アプリケーション向けファイル形式です。ワープロ,表計算,プレゼンテーション,作図ツール,データベース,数式の表現に必要な機能を持ち,HTML,SVG,XSL,SMIL(マルチメディア記述用言語),XLink(リンク機能),XForms(Webフォーム作成用の記述言語),MathML(数式用の記述言語),Dublin Core(書誌情報の記述言語)といった既存の標準規格をサポートしています。

 OpenDocumentの正式名称は「Open Document Format for Office Applications(OpenDocument)」で,バージョンは現在v1.0です。OASIS OpenDocument技術委員会*1 が開発していたものを,eビジネス標準化団体のOASISが2005年5月23日,同組織の最高位の批准レベルであるOASIS標準として承認しました。

 OpenDocumentが誕生したきっかけについて解説しましょう。1990年代後半,ドイツのStarDivisionという会社が,「StarOffice」*2 というオフィス・アプリケーションを開発していました。StarOfficeは保存するファイル形式に,XMLベースのものを採用していたことが特徴です。1999年にサン・マイクロシステムズがこのStarDivisionを買収し,2000年にサン・マイクロから同ソフトを発売したのを記憶している方も多いかと思います。

 その後サン・マイクロはStarOfficeの開発をオープンソース・ベースで進めるために,オープンソース開発グループ「OpenOffice.org*3」を立ち上げ,StarOfficeの開発をその組織に委ねます。そして2002年12月,サン・マイクロを中心としたベンダーとユーザの企業グループが,オフィス・アプリケーション用のXMLベースの標準ファイル形式を開発するため,OASISにOpen Office XML Format技術委員会(のちのOASIS OpenDocument技術委員会)を新設しました。この委員会は,OpenOffice.orgのXMLファイル形式を基に作業を進めました。

 OASISは2005年3月23日,OpenDocument v1.0をOASIS標準として承認しました。最初にOpenDocumentと保存ファイル形式としてサポートしたのは,同年10月20日にリリースされたオフィス・アプリケーション「OpenOffice.org 2.0」*4 です。このOpenOffice.orgは,Windows,Mac,Linux,UNIXといった主要OS上で動くマルチ・プラットフォーム型のソフトとして注目を浴び,OpenDocumentが広く知られるきっかけにもなりました。

 さらに2006年5月1日に,国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会(IEC)は,OpenDocumentを国際標準 ISO/IEC 26300 として認定しました。ISO/IECの認定により,OpenDocumentの普及に拍車がかかることでしょう。

 現在,このOpenDocumentをサポートしているオフィス・アプリケーションには以下のものがあります。
・米Googleの「Writely」*5
・米IBMの「Workplace Managed Client 2.6」
・ジャストシステムの「一太郎 2006」(追加モジュールでサポートする予定)
・「KOffice」*6
・「OpenOffice.org 2.0」
・米サン・マイクロシステムズの「StarOffice (StarSuite) 8.0」

 OpenDocumentの開発・利用を推進する組織は,前述のOASIS OpenDocument技術委員会だけではありません。米コーレル,米IBM,米ノベル,米オラクル,米サン・マイクロなどを含むベンダーやユーザ35社以上が参加する「ODF Alliance *7」も活動しています。

「独占」から「オープン」へ

 現在オフィス・アプリケーションの分野は,ご存知のように米マイクロソフトの「MS Office」がほぼ独占しています。そのファイル形式はマイクロソフト独自のもので,他社製のアプリケーションから利用するのはかなりの“力業”が必要でした。

 世界で最も流通しているオフィス・アプリケーションのファイル形式が企業1社の独自形式ということは,大きなリスクを孕んでいます。その企業のビジネス戦略の変更によって,過去のドキュメントが永続的に読めなくなるおそれがあるからです。OpenDocumentは,特定の企業やその企業のアプリケーションに左右されないオープンな形式として「ユーザーをMS Officeから解放する」と謳っています。

 しかし,一方のマイクロソフトも黙ってはいません。次期Officeである「MS Office 2007」で採用する予定の標準XMLファイル形式「Microsoft Office Open XML Format」仕様を,欧州の国際標準化機関 ECMA International*8 に提出しました。さらに,この仕様を公開すると共に,無償でライセンスするとも発表しました。

 ECMAは,技術委員会を別途設置してOpen XMLの標準化作業を開始しています。一時期マイクロソフトはこの形式をISOにも提出すると表明していましたが,ISOは最近「既にOpenDocumentを国際標準として認定したのでOpen XML形式を認定することはない」と発言しています。

 2005年9月,米国マサチューセッツ州のIT部門は,2007年1月以降,州の公式文書のファイル形式を全てOpenDocumentとPDFにすると決定しました。しかしMS Officeを事実上の標準アプリケーションとして利用している現場からは,この決定に反対する動きもあるようです。

 またEC委員会も公式文書のファイル形式を決めようとしていますが,マサチューセッツ州と同じような悩みを抱えている模様です。EC委員会ではOpenDocumentとOpen XML二つの形式のどちらを採用するか,今の段階では決定できず,情勢を見守る状態にあるようです。

OASISのOpenDocument形式 対 マイクロソフトのOpen XML形式

 近々オフィス・アプリケーション向けのファイル形式は,OASIS発“反マイクロソフト連合”のOpenDocumentと,マイクロソフトのOpen XMLが,二大ファイル形式となるでしょう。

 マイクロソフトは,独自路線を歩む方針です。MS OfficeではOpenDocumentはサポートしないこと,そしてファイル形式の変換は,サードパーティーのサービスに任せると発言しています。

 ただし,両方ともXMLベースであり,それぞれ国際標準化機関に提出して内容を公開し,そのオープン性を謳っています。オフィス・アプリケーションのファイル形式が,XMLベースで統一して構築され,内容が公開されることのメリットは,解説するまでもありません。OpenDocumentもOpen XMLも,XMLを基にしたフォーマットですから,故意に互換性を取れないように細工しない限り,タグのマッピング・テーブルが定義できれば,ツールでの自動変換も不可能ではないはずです。

 オフィス文書と企業アプリケーションを連携させるビジネス・ソリューションは,今後大きく発展するのは間違いありません。例えばGoogleが買収したWritelyのような後発組のWebワープロもビジネスの展開が容易になるでしょう。SaaS(Software as a Service)型のオフィス・アプリケーションも近いうちに登場すると思われます。blog(ブログ)も,単なるテキスト文から豊かな表現力を持つようになっていくでしょう。オフィス文書はXMLデータベースの活用で,文書スタイルの自動変換,文書内容の自動集計,そして文書作成の自動化など,さらに賢く,便利になりそうです。

 企業の標準アプリケーションとして市場を独占しているマイクロソフトのOpen XML形式か。アプリケーションそのもの歴史は浅いが,標準化団体のオープン・プロセスを通して開発され,オープンソース・アプリケーションで動作するOpenDocumentか。今後の動向には目が離せません。


*1 正式名称は,Open Document Format for Office Applications技術委員会。同委員会には米アドビ システムズ,米IBM,米インテル,米ノベル,米サン・マイクロシステムズなどが参加している。OpenDocumentについて解説したOASISのWebサイトはこちら

*2 OpenOffice.orgの商用版。日本ではStarOfficeの商標はNECが保有していたため,名前をStarSuite(スタースイート)に変更して,日本語版はソースネクストが販売している(StarSuiteの解説サイト)。

*3 OpenOffice.org日本ユーザ会が日本語化を担当している。

*4 組織名と開発しているアプリケーションの名前が同じで,分かりにくいのですね。

*5 米Upstartle社が開発していたWeb版ワープロソフトで,現在はGoogleが同社を買収,Google Officeへの布石とも言われている。Ajaxを駆使した豊かなユーザインタフェースを持つ。まだ日本語版はない。WritelyのWebサイトはこちら

*6 KOfficeプロジェクトが開発している無料のオフィス・アプリケーション。日本語版はまだない。

*7 正規名称はOpenDocument Format Alliance。設立に関するITproの記事はこちら

*8 European association for standardizing information and communication systems,元European Computer Manufacturers Association