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 前回,ビジネスができSEが育つ技術集団のイメージを説明した。そしてそのポイントの一つは「SEの常駐や特定顧客への専任アサインは原則しない」,2つ目が「SEがマルチで仕事をすること」だと述べた。

 21世紀の今も,多くのIT企業でSEの塩漬け,技術偏重,受身,壁作り,ベテランの戦力低下,新卒の敬遠傾向など様々な問題を抱えているが,筆者はこのやり方がそれらの問題を解決する唯一の方策だと考えている。

 ある意味では今のSEの世界の改革である。ITスキル標準と言っても枝葉の話でありSEの問題は何ら解決しない。読者のお考えは分からないが他によい方策があれば知りたいと思う。この重要性に鑑み前回は紙面の都合で説明不足もあったので再度別の視点で今回も説明したい。

「顧客にSEを交代させたいとは言いにくい…」

 具体的な例で述べる。ある会社であるSEのグループ(課)があったとする。その課はSEのAとBがX社を,Y社をCとDが担当し,他に1,2件の顧客をE,F,Gなどが担当していた。そこに新プロジェクトとして,Z社のシステム開発が受注できた。そこでSEマネジャは誰をアサインするかと考えて「Z社のプロジェクトにE,Fは何とかアサインできるがちょっと力不足だ,できればBとCにやらせたい」「この2人ならこのプロジェクトはできそうだし,Bはもう5年もX社を担当してマンネリ気味だ,もっと伸ばすためにはこの難しいプロジェクトをやらせたい。またCは入社以来Y社ばかりだからそろそろ他の顧客を経験することも考えてやらないと…」と思った。

 だが一方では「とは言ってもBもCもお客様に信用がある。そのSEを交代させたいと顧客には言いにくい!またビジネスも引っ張っているし…」と思い悩む。そして上司や営業と相談したが結局はB,Cのアサインを断念しE,Fをアサインすることになった。こんな光景を昔も今もIT企業でよく見かける。これが前回述べた顧客別SEアサインの発想の世界である。

「別の仕事をしますが,必要ならいつでもうかがいます」

 だが筆者が主張するやり方はちょっと違う。「新プロジェクトをSEのBとCにアサインする」と決めたら,彼らの後をどうするかと考える。

 そして部下の各SEの能力やアサインの可能性や育成を考え,EとGがB,Cの後継をできそうだと思ったら,X社を訪問する。「すみませんが,これからはBの仕事をEにやらせ,全体を今担当しているAに仕切らせたいと思います。Bは別の仕事をしますが必要時にはいつでもうかがいます。定例会議にも時には出ますからご迷惑をかけることはないと思います。いかがでしょうか」と説明,相談する。そしてBにもX社に同様なことを言わせる。即ち「私はこれで交代します。色々お世話になりました」とは決して言わせない。

 そしてその後説明した通りBはX社のAやEから相談されたら時間を作って訪問する。忘年会などがあれば参加する。Y社のCとGも同様だ。そしてB,CはZ社のシステム開発・保守を行いその後またBやCを他の顧客のプロジェクトへアサインする必要が起こった時も同様なやり方をする。その頃にはEはX社にGはY社に結構信用されている。

 以上,読者の方に分かりやすく説明するために少人数のケースで説明したが,これが4人,10人,30人などでも考え方は同じである。また,SEのジョブローテーションや人事異動の時も同じである。

顧客にとっては自社を熟知したSEが増える

 このスタイルで全顧客・全SEで数年間,このやり方を進めたとすると,何が起こるかを想像してほしい。

 顧客から見れば多くのSEが自分達のシステムや業務や人を知ってくれている。SEから見れば全SEが数多くの顧客を知っている。そして必要時には仲間を助けたり顧客のピンチの時には飛び込む。年始年末の挨拶には日頃顔をだしているSEより2倍3倍のSEが顔を出す。そんなSE組織に入った新人は放っていても先輩を見習って自ずと育つ。きっとそんな世界が生まれるはずだ。

 ただ,ここに一つポイントがある。それは「担当SEの定義」である。

 一般にIT業界では○○顧客担当SEとか△△プロジェクト担当SEというと「そのSEは○○顧客,△△プロジェクトの仕事をするSEだ」と解釈する。そして暗にそれ以外の顧客の仕事はそのSEには関係ないと考える。

 しかし筆者の定義は違う。担当SEとは顧客のシステムや業務や人を知っていて,例え年に1回でも顧客に顔を出して顧客をサポートするSEを意味する。当時,その考え方を部下に浸透させるために相当苦労した。部下の中には「なぜ,交代しますと挨拶させないのか」と文句を言ったSEもいた。

 かく言う筆者も,最初は自分の考えが正しいのだろうかと悩んだ。だがある顧客に相談すると,お客様もそう考えていることがわかった。それから自分の考えに確信を持つようになった。

 だが,このやり方では顧客にかかわるSE全体を仕切るSEがいないと混乱する。そこで各顧客に“中心となるSE”をおいた。こんな禅問答の様なことを言うと読者の中には詭弁だという人もいると思うが,そんな人は顧客に尋ねて見てほしい。

日頃からSEの状況を把握し鍛えておく

 以上,これが筆者は狙った「ビジネスが伸びSEが育つ少数精鋭のSE集団作り」である。今年3月のWBCの王監督ではないが,全員で全顧客を担当する,そしてビジネスを伸ばし後輩を育てるという全員野球の展開である。

 ただ,誤解されては困るが,筆者はSEを勝手に代えて顧客に迷惑をかけてよいと言っているのではない。そのためにはSEマネジャは日頃各SEの顧客での仕事の状況を把握することはもちろん,各SEについて次はどんな仕事がよいか考え,鍛えておくなど日頃の気配りと努力が不可欠である。

 なお,念のために補足すると,前述の例ではE,FがZ社のプロジェクトでは力不足というケースだったが,仮に彼らに力があってもB,Cを育てるためにはSEマネジャはB,CのZ社へのアサインを考えるべきであろう。

 「この仕事はこのSEならできる」と考えて安易に“できるSE”指向でSEアサインをすると,10~20%程度のSEは育つが,他のSEはそうは行かない。それではSE戦力の強化もできない。SEマネジャは全SEに公平な成長の機会を与えることが重要である。