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 最近,オンデマンド・コンピューティング,ユーティリティ・コンピューティング,そしてグリッド・コンピューティングと,次世代のコンピューティング・モデルや技術アーキテクチャを表す言葉がいくつか提示されています。今回は,それぞれの次世代コンピューティング・モデルの関係と,その登場にオープン・スタンダードがどのよう関係しているのかについて,わかりやすく解説してみたいと思います。

次世代コンピューティングとSaaS

 オンデマンド・コンピューティングとユーティリティ・コンピューティングは,呼び名は異なりますがよく似たコンピューティング・モデルです。最近では,両方をまとめてSaaS(Software as a Service---サービスとしてのソフトウェア)と呼ばれることも多くなっています。

 このSaaSは,私達の実生活で水道・ガス・電気(いわゆるユーティリティ)をブラックボックスとして利用するのと同じように,必要なときに必要なインターネット上のアプリケーションを(オンデマンドで)「サービス」として呼び出してレンタル利用し,利用量に合わせて料金を支払う,というモデルです。

 顧客が個々にパッケージ・ソフトを導入する従来のパッケージ・アプリケーション・モデルでは,新しいバージョンがリリースされるとライセンス料を追加で支払い再導入する必要がありました。SaaSではこれとは異なり,サービスのバージョンアップはSaaSプロバイダが適宜実施します。同じサービスであれば追加料金を支払う必要はありません。インターネットに接続されたパソコンとWebブラウザさえあれば,ビジネスの都合に合わせてサービスを利用し始めるのも,また利用を中止するのも極めて簡単なのです。

SaaSプロバイダの条件は?

 SaaSプロバイダは,ユーザーに対して以下のようなサービス機能を提供する必要があります。

1) 情報セキュリティが堅固なコンピュータ・システム施設
 SaaSは,時には企業の命運を左右するような重要なビジネス情報を預かり処理します。ですから設備的にもシステム的にも,堅固で究極の信頼性を提供できる情報セキュリティ環境が要求されます。その信頼性を証明する意味で,その施設とシステムには,公的機関の認定を受ける必要もあるでしょう。

2) 機能カスタマイズが容易で優秀なアプリケーション
 アプリケーション自体にユーザーを引き付ける優れた機能や性能を持っていることはもちろんですが,個々のユーザーのニーズに応じてかなり自由にカスタマイズできる必要があります。カスタマイズはこれまでのオンデマンド型アプリケーションの弱点です。

3) リッチなユーザインタフェース
 Webブラウザ上で動作するアプリケーションの課題は,HTMLベースの貧弱なユーザー・インタフェースです。そこでAjax (Asynchronous JavaScript + XML)*1などの技術を利用して,従来のクライアント・アプリケーションにも決して引けを取らない,直感的で使いやすいリッチなユーザー・インタフェースを提供する必要があります。

*1 XMLHttpRequest(HTTP通信を行うためのJavaScript組み込みクラス)による非同期通信を利用した,ユーザインタフェース構築技術の総称。関連記事はこちら

4) 容易な連携用WebサービスAPI
 企業が既に保有している様々なバックエンド・システムや,他のSaaSとの連携やマッシュアップが容易に行えるように,データ・モデルとWebサービスAPIを公開している必要があります。人間がWebブラウザ上でできる操作の大部分を,他のサービスがWebサービスAPI経由で実行できることが必要です。

5) パートナー・サービスの充実
 1社のサービスで全てのユーザーのニーズに応えることは不可能です。他の多くのSaaSプロバイダとパートナーシップを構築し,自由にサービス同士を連結できるSaaS連携取引市場を作り出すことが必要でしょう。これにより,ユーザーが自在にアプリケーション機能の充実が図れます。

 これら5つの機能のうち,特に4と5は,もともとWebサービスの概念が目指している世界そのものです。これまでのASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)ビジネスが成功していないのも,こうしたサービス同士の容易な連携による機能拡張が実現できないからだと思われます。

SaaSは次世代企業コンピューティングの有力候補

 このSaaSという言葉にビジネスの成功者として現実味を持たせたのが,米Salesforce.com (セールスフォース・ドットコム)のCRMサービスです(関連Webサイト:セールスフォース日本法人)。同社はこれまで,非常に短期間に上記の1)から5)の強化に取り組んで来ましたが,中でも特に早い時期からWebサービスAPIを公開し,CRMサービスと顧客が保有する既存の企業システムとの連携を可能にしていました。

 同社は今年に入って「AppExchange」というSaaS連携のための市場を立ち上げました。例えば,地図情報サービスを提供しているプロバイダは,AppExchangeを使って,同社のCRMサービスと連携した地図情報サービスを提供できます。AppExchangeは従来のUDDI*2の仕組みでは実現できなかった,Webサービスの市場流通のための仕掛けを作っていると言えるでしょう。

*2 Universal Description, Discovery, and Integration:標準化団体OASISが標準化している,Webサービス流通のためのレジストリ仕様とアクセス・インタフェース仕様

 さらにセールスフォースはAppExchangeのシステム・プラットフォームをOEM提供することで,サービス・プロバイダ同士がこの市場を利用して自由にサービスを提供・連携できる環境を用意しています。つまり,AppExchangeはセールスフォース製のCRMサービスと連携するための場にとどまらず,例えば製造業向け生産管理サービスのプロバイダと販売管理サービスのプロバイダを連携させるといった,SaaSプロバイダ同士が連携してサービスを展開するSaaSビジネスの場にしているわけです。

 こうしたWebサービス連携によるオンデマンド・アプリケーション市場の構築は,米マイクロソフト,米オラクル,独SAPといった従来型のコンピューティング・モデルを展開している大手ベンダーにも大きな衝撃を与えました。さらには米ネットスイートといったSaaS専門業者の登場も促しています。インターネット・プロトコルの標準化や,サービス連携のためのWebサービスの標準化が進むことで,SaaSが企業コンピューティングの主流になっていく日もそう遠くないかもしれません。

グリッド・コンピューティングとWebサービス

 ユーティリティ・コンピューティングとグリッド・コンピューティングは,非常に近い関係にあります。電力提供においては,家庭のコンセントにプラグを差し込めば誰でも電気を使用することができますが,実は,このコンセントの先には発電所に至るユーティリティ網があり,これを「グリッド」と呼んでいます。ユーザーが,コンセントの先がどうなっているのかを全く知らずにブラックボックス的にサービスを利用するモデルを,ユーティリティ・コンピューティングと呼びます。また,グリッド上に分散する複数のコンピュータを,ダイナミックにオンデマンドで一つにまとめて利用し,必要が無くなればコンピュータを解放するモデルをグリッド・コンピューティングと呼びます。

 SaaSのサービスを利用するユーザーが多くなれば,それだけ多くのコンピューティング・リソースを必要とします。リソースをダイナミックにかき集めてまとめて利用し,不必要になれば解放するグリッド・コンピューティングは,SaaSを支える技術として最適であると言えます。グリッドにおけるコンピューティング・リソースのダイナミックな連携・解放を,Webサービスを利用して行う方法が数年前に提案されています。

 現在,標準化団体のOASISとGGF*3が共同で,Webサービスのダイナミックな立ち上げと解放,ライフサイクルを含めたWebサービスの分散管理,そしてWebサービスの状態管理機能とその報告機能を,これまでのWebサービス仕様の拡張という形で標準化を進めている最中です。

*3 Global Grid Forum:グリッド・コンピューティング関連の国際的な標準化団体。最近,企業向けグリッド・コンピューティングの開発/普及を促進するコンソーシアム「Enterprise Grid Alliance(EGA)」と合併し,その活動を強化している。

ポイントは,プラグ・アンド・プレイのアプリケーション連携

 これまで述べてきたように,いずれにしても次世代コンピューティング・モデルの核は,Webサービスのようなオープン・スタンダードによる容易なSaaS連携です。

 「ユーザー企業は既存の企業アプリケーションをSaaS化(Webサービス化)する」。そして「多数のSaaSベンダーが市場に参加し,AppExchangeのようなサービス交換市場を通してSaaSを流通させる」。こうした姿が当たり前になれば,ユーザー企業は自社にマッチした企業アプリケーションを,ビルディングブロックを組み立てるがごとく構築できるようになります。それこそ,WebサービスをベースにしたSOA(サービス指向アーキテクチャ)の一つの完成した世界であると思います。