PR


[画像のクリックで拡大表示]

 2006年6月9日、富士通の黒川博昭社長は都内のホテルで、2006年度の経営方針を発表した。ポイントは、いかに成長軌道に乗せるかだ。04年度の「プラットフォームの再生」、05年度の「SIサービス事業の再生」で、カナメの両事業は回復への道筋をつけた。有利子負債も02年度の1兆7637億円から05年度は1兆円をきり9286億円に削減した一方、営業キャッシュフローは02年度の1177億円から05年度は4055億円に回復させた。棚卸資産も02年度の5959億円(月当たり回転数0.59)から05年度は4087億円(同0.88)になり、財務体質の健全化を図れたという。

 その結果、05年度の営業利益は目標の1750億円をクリアし、1814億円を達成した。だが、売り上げは期初に掲げた目標を約1500億円下回る4兆7014億円に終わった。黒川社長も「売り上げが伸びなかったのが1つの課題」と認めるとともに、一度断念した中期経営計画の作成に取り掛かることを株主総会(6月23日)で明らかにした。

 成長路線に転換させるカギを握るのは、再生を成し遂げつつあるサービスとプラットフォーム(ハード)になる。サービスの収益率を高め、ハードやソフト、新サービスの開発・販売を強化する。そして、それらで構成するプラットフォームを掲げて海外ビジネスに本格的に取り組むというストーリーだろう。収益率の低い(営業利益率3.3%)パソコンや携帯電話、HDDなどの事業(今回からユビキタスプロダクトソリューションとした)は、単体事業内のキャッシュフローで、改善を図っていく。「大きな傘の下ではなく、専門メーカーとしての速い動きがいる。経営のスピードも違う」(黒川氏)からだ。

テクノロジーソリューション事業の拡大策

 富士通はサービスとハードの2つを括ったテクノロジーソリューションを中核事業に据えて、毎年増収増益を実現させる“プラス・スパイラル経営”を目指す。「数量は増えても、売り上げが伸びないという中で、開発や生産、調達などの社内体制を見直し、利益を出し、それを商品開発や販売力強化に再投資する」(黒川氏)というものだ。05年1月にスタートしたプラス・スパイラル経営で、「サービス化で、萎縮した製造を含めたプロダクト部門を再生し、モノ作りや顧客視点のマインドを作り直した」(同)。目標管理も個人単位からチーム単位にし、営業とSEの一体化も図った。富士通サポート&サービスなどグループ会社の再編・統合も実行した。コンピュータと通信の部品調達も一本化させた。

 とは言うものの、07年度以降の数値目標がない。04年度初めに、06年度に営業利益3000億円を打ち出したが、04年度の売り上げが伸び悩んだことなどから数字を引っ込めてしまった。当初計画では、売上高が5兆円規模になれば、毎年1%ずつ改善することで営業利益が毎年500億円増えるという計算だったが、崩れてしまった。予想した以上に不採算案件が増えたことも重なった。「自信をなくした社員をこぶすることと、危機意識を共有し、ユーザーから見放されないようにすることを優先してきた」(黒川氏)。だが、富士通を成長路線の軌道に乗せるために、中期経営計画が再び必要になってきたのだろう。

 売上高の57%、営業利益の69%を占めるテクノロジーソリューションの事業内容を見てみよう。営業利益率は5.5%だ。ソリューション/SI、インフラなどといったサービスの売上高は2兆2661億円(3%増)、営業利益は1379億円(42%増、営業利益率6.1%)である。これに対して、サーバーやストレージといったハードなどのシステムプラットフォームの売上高は7176億円(2%減)、営業利益は262億円(42%減、営業利益率3.6%)である。

 しかも、テクノロジーソリューション売り上げの76%を占めるサービスのうち、国内はソリューション/SI(9910億円、2%減)、インフラサービス(5742億円、1%減)ともにマイナスだった。その一方で、海外ビジネスは前者が11%増、後者が18%増と順調な伸びを見せている。システムプラットフォームも同様で、国内は7%減(5268億円)なのに対して、海外は13%(1908億円)も増えた。

国内は収益率向上、海外は売り上げ拡大

 ここから見えてくる策は、国内は収益率の向上、海外は売り上げ拡大になる。国内でまず手をつけるのが、粗利益率が10%台と低いSI(システムインテグレーション)事業だ。調査会社IDCなどによると、国内ITサービス市場で富士通のシェアはナンバー1(19%)だが、営業利益率が6.1%と有力競合他社を下回る。しかも、ソリューション/SIに絞ると、営業利益率5%弱とさらに悪い。サービス売り上げの60%を占めるソリューション/SIの収益率悪化が全体に大きな影響を与えているのだ。

 最大の原因は不採算案件にある。SI案件は年間1万8000件ほどで、05年度の不採算の比率は1.8%だった。チャレンジするプロジェクトもあるので、決してゼロにならないが、プロジェクト管理の原理・原則を順守することで、不採算案件を減らせる。事実、04年度の400億円から05年度は100億円に激減した。06年5月に東京・蒲田の開発拠点にSE部門の幹部700人弱を集め、失敗プロジェクトの勉強会を開催した。こうした失敗情報の共有化などを通じて、06年度は50億円程度までに減らせる見通しだ。粗利益率も15%から最近は20%台後半を確保できるまでになってきたという。

 サービスの収益率を高めるもう1つの策は、サービス売り上げの中でそれぞれ15%ずつ占めるパッケージ・サービスと運用サービスの比重を高めることだ。粗利益率が20%台と高い両サービスに人材や資金などリソースをシストさせることで、サービス全体の収益率を改善する。とりわけアウトソーシング事業は、05年度の4150億円から08年度に6000億円と年率平均13%で成長させる計画。営業利益率10%超を確保するために、BPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)やAPM(アプリケーション・ポートフォリオ・マネジメント)などストック型ビジネスを拡充する考えだ。黒川社長は運用を起点に、システム企画、設計、構築へとつなげていく戦略を練る。

 オフコン時代に地盤を築いた中堅・中小企業市場の開拓にも再び取り組む。「開拓の余地はある」(黒川氏)が、この市場で富士通のハード・シェアは21%あるものの、ソフトは12%、サービスは17%しかない(富士通の試算)。「ハードとのギャップはどこにあるのか。きちんとした提案が出来ているのか、デリバリがきちんと出来ているのか、パートナ企業との連携がうまくいっているのか、など様々なことが考えられる」(同)。

 こうした課題を解決するために、共通基盤、商品企画/開発、販売推進を担う中堅ソリューション事業本部がどんな戦略を打ち出すかにかかっている。ただし、目下のところアウトソーシング同様に具体策が見えない。GLOVIAsmartと呼ぶ新しいブランドを作ったり、パートナ企業向けにパッケージを開発する共通基盤を用意したり、ライフサイクルマネジメント領域に踏み込んだりするという黒川社長の発言はあるものの、「最近の富士通の戦略は全く分からない」とある販売店は指摘する。

 経営方針発表後の6月14日、富士通は中堅企業市場の戦略を発表したが、内容はマイクロソフト製品を開発基盤に使うということだけ。富士通が強力に推し進めるITインフラTRIOLEとの関係も見えなかったし、販売店との協業施策にも触れなかった。逆にWebによるPCサーバーの直販開始は、販売店との関係を悪化させる発表に思えた。

海外ビジネス展開

 テクノロジーソリューション事業を成長させる第二歩が、海外ビジネスの拡大になる。「IBMとは違って、国ごとに異なるサービスを提供する」(黒川氏)考えだ。地域別に見ると、日本が2兆1000億円(地域が8000億円、公共・金融・産業・流通・社会基盤が1兆3000億円)に対して、欧州が5500億円、北米が2000億円、アジアなどが1500億円となっている。

 海外で最も売り上げの多い欧州は、英国の富士通サービスとドイツの富士通シーメンスが中心となる。富士通サービスは01年の事業立て直しに伴って、一番強い公共サービスにフォーカスしたことで利益を順調に伸ばした。今後、金融や流通向けサービスに再び取り組み、欧州市場でのシェア拡大を図る。また、ハード販売中心だった富士通シーメンスはシーメンスから保守部門を買い取ったことで、サービスへと事業を広げる。06年度は9%伸ばし、5480億円を見込む。

 北米のサービス拠点は、富士通コンサルティングになる。04年11月から7件の事業買収をし、「SAPやオラクルなどをサービス・プラットフォームにしたプラクティスビジネスを展開する」(黒川氏)。その理由は、北米市場で大きなシェアを持つITベンダーが存在しないことにある。「米国のITサービス市場規模は250億ドルで、IBMのシェアは7%だ。これにEDSやCSCを加えても15%だし、トップ10で33%、トップ25でも38%だ」(同)。残りの62%の市場を7500社のITサービス会社が分け合う、専門性が進んだ市場とも言える。それだけシェア拡大のチャンスが大いにあるというわけだ。そのため、SE、製品販売の事業組織を統合し、06年度は35%増の2660億円を見込む。アジアなどの地域は、中国市場開拓などで12%増の1550億円を計画している。

再度、中期経営計画を作成する理由

 プラットフォーム事業に話を戻す。国内でサーバーのシェアが下がっていることが大きな問題だろう。オフコン時代に築いた販売網を生かせていないことに加えて、「これぞ富士通製品だ」と言われるほどの玉を用意できないことにある。

 例えば06年6月15日にブレード・サーバーを発表したが、その日の午前中に発表した日本ヒューレット・パッカードのブレード・サーバーに見劣りする内容だった。製品の機能ではなく、市場開拓の意気込みである。日本HPはシェア40%台を狙うと果敢に攻める姿勢を見せたのに対して、富士通のサーバー担当責任者は07年度中になんとか20%台を確保したいという消極的な発言に見えた。やっぱり製品そのものが違うのだろうか。

 目の前の目標数値を達成することだけを優先しているという印象を受けた。こうしたことを払拭するためにも、中期経営計画が必要になったのかもしれない。