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 この連載が始まったばかりの2006年1月28日,堀江貴文氏のブログと,その逮捕劇を伝えるテレビ報道とを交互に見比べながら,「ライブドア社長ブログvs.マスメディアの戦いから学ぶ「経営者ブログ道」というコラムを書きました。

 この時のコラムの結びには,「堀江氏のブログ再開に期待する」と書いたのですが,残念ながら有名な社長ブログはいつの間にか消滅してしまいました。どうやら,保釈後2ヵ月経っても,ブログ復活の兆しはありません。法律上は保釈中でもブログでの発信は可能なようですが,堀江氏本人が弁護士には「ブログ発信はしない」と伝えているそうです(実は,弁護士のアドバイスかもしれませんが…)。

 しかし,保釈直後の3日間,「堀江LD前社長日記」なる偽ブログが現れました。多くの激励コメントを集めながらも「偽物」だとばれた瞬間,「おまえらアホだな。ライブドア信者って死ぬまでアホだな」と謎の発信者は逆ギレして幕を閉じました。

 おそらく,本物ブログが再開していたら,またしも大人気になっていたことは間違いありません。立花 隆さんのnikkeibp.jp連載コラムで「堀江被告の保釈・幕引きで闇に消えたライブドア事件」にもあったように,堀江氏は,今回の騒動の後でも,まだまだ根強い人気があるようです。それが堀江氏の想定内かどうかは別としても…。


ネットコミュニティで作った本「ホリエモンへの手紙」

 今回の堀江氏の事件に際して,マスメディアの報道は,私の知識不足もあって,おおむね同工異曲に見えました。しかし,堀江氏について「かくも多様な見方があるのか」と驚く経験をいたしました。獄中のホリエモンに送る手紙を,みんなで書いて出版する企画に誘われたのです。

 それは,わがネットの師,デジタルメディア研究所の橘川 幸夫さんから突然届いた不思議なメールから始まりました。



ご友人の皆様
橘川です

以下の企画がはじまりました。
よかったら原稿をいただけませんか。

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緊急出版
ホリエモンへ送る手紙

●企画趣旨
*ライブドア(LD)堀江貴文くんの逮捕は,「ある夢の終わり」
か「ある現実の始まり」か,いずれにせよ時代にいろいろな衝撃を
与えていると思います。
*各所で活躍されている皆様に「ホリエモンへ送る手紙」を書いて
いただき,ホリエモン個人と時代に生きる人々へ,貴方のメッセー
ジを発信していただきたいと思います。

●企画内容
*本企画は,デジタルメディア研究所が企画し,オンブックのソリ
ューションを利用して発行いたします。最短の時間距離で発行が可
能です。

●原稿のお願い
*企画趣旨に賛同していただける方は,原稿執筆をお願いします。
*原稿は400文字原稿用紙3枚(1200文字)から6枚(2400文字)の
 間でお願いします。

(後略)


 たったこれだけのお誘いメールで,すぐに老若男女,多士済々,30人30様の手紙が集まったのは驚きでした。作曲家,ライター,東大生,雑誌記者・編集長,落語家,企業経営者,医者,英語教師,研究者…,橘川さんを知っているという以外では,日常ほとんど接点がない達人が集いました。

 そして,アマゾンはじめオンライン書店でも販売される本が瞬く間に出来上がったのでした。この仕組みを,橘川さんはリアルタイム・パブリッシング,あるいはコミュニティブックスと呼んでいます。

 今,こうして出来上がった一冊の本「ホリエモンへの手紙」が,私の手元にあります。おそらく,東京拘置所の扉をイメージした表紙を開くと,そこにはハガキの宛名書きがあらわれます。

「〒124-0001 東京都葛飾区小菅1-35-1 東京拘置所 堀江貴文様」

 そして,目次を見て,実際に読み進んで,すぐに惹き込まれました。同じ事件でも,人の感じ方はここまで違うものかと愕然としたのです。

「井戸端的ホリエモン考」 aira
「お金はあとからついてくる」 akey papa-joe
「Re :シークレット・至急扱いで処理して」 市川昌浩
「アメリカ文学としての堀江貴文」 大隅亮
「すごいホリエモン」 岡崎太郎
「ホリエモンの“ああ無情”」 岡田徹
「あなたが開けた宝箱」 喜多見龍一
「ガンバレ,ホリエモン個人!」 橘川幸夫
「金融イソップ物語」 久米信行
「インテグリティーなしの成功はない」 こみなみなみこ
「ホリエモン,引退!」 齋藤是青
「Livin' on the edge」 佐藤新
「ヘルスケアのホリエモンに期待」 清水駿一
「異国生活のススメ」 白石正明
「理由不明な反抗」 砂川肇
「こんにちは,さようなら」 高橋朗
「ホリエモンのモン」 立川こしら
「本物の起業家へ」 富沢木実
「会社の価値とぼくの価値」 本橋牛乳
「若武者たち」 はまゆう
「マーサ・スチュアートに学べ」福田淳
「『お嬢さん』と『国立大学』の会話」 前田裕子
「I will return の心意気」 三木延義
「古典的でIT」 水野誠志朗
「ニートになるかホリエモンになるか」 宮川朋久
「愛は幻想ではない」 向山昌子
「株主総会の風景」 山崎潤一郎
「語り継いでいくべき貴方の事件」 渡辺友絵
「Dear Horie-san」 Mahdi Kazuto Shah
「後出しジャンケン」 亀田武嗣


共同出版は人物/事象を複眼的に見るためのツール

 これまで,私たちは,ある事件やある有名人について考える時に,マスメディアの報道や論評に頼らなければならない一面がありました。

 ところが,堀江氏の全盛期?には,まさに特ダネを自ら出し抜くカタチで,堀江氏本人がブログで情報を発信,あるいはリークしていました。そのブログに振り回されながら,テレビのワイドショーが報道する様は,新しくも不思議な光景でした。

 しかしながら,今思えば「マスメディアが報道したいこと」「本人が伝えたいこと」の狭間で,情報が揺れ動いていただけのような気がします。時には,それらが重なっていることもあり「共依存の関係」になっていたこともあったはずです。

 私が「ホリエモンへの手紙」を読んで興味津々だったのは,その中にマスメディアの論調では見たこともない,想像だにしない正に「想定外の意見」も含まれていたからです。裏返せば,私と同じような意見を書いた人は誰もいなかったのでした。

 さらに驚いたことがありました。執筆した30人のうちの何人かは親しくおつきあいをさせていただいている方だったのですが,その原稿を読むと,まるで「別人」に見えました。あの人が堀江事件にこんな見方をしていたのか,とたまげたわけです。

 堀江氏のような極端なキャラクター,そして極端な事件を前にすると,通常は意気投合していたはずの旧友であっても,互いに別の一面をのぞかせることがわかりました。

 ですから,何か象徴的な事件があるたびに,よく知っている人,生涯付き合いたい人同士で,こうした本を書いたら良いとさえ思いました。飲み食いをご一緒するよりも,深く相手のことがわかりそうなのです。

 もちろん,この本の出版に使われた無料出版「ON BOOK」の仕組みを使えば,イベントごとの共同出版も決して難しいことではありません。インターネットの恩恵で,個人の情報発信コストが劇的に下がったのですが,それはメルマガやブログだけではなかったのです。


カードを開くまで勝負がわからない共同出版

 ブログに詳しい読者のみなさんなら,わざわざ出版しなくとも良いのではないかと思うかもしれません。ブログで各自の投稿記事を順番に紹介するか,お題を出して各自が自分のブログに書き込みトラックバックをすることもできるからです。

 しかし,実際に出版に参加して,また一読者として読んでみて,やはり本にした方が良いと感じました。

1)誰が何を書くか予想できない真剣勝負

 「ホリエモンへの手紙」の場合,投稿した人も本になるまで「自分以外に誰が何を書いているか」まったくわかりませんでした。それどころか「自分の原稿がボツ」になる可能性さえあったのです。

 もし,事前に誰が何を書いていたか,ネットで見ることが出来たなら,おそらく器用な参加者の多くは,各内容を自己規制したり誇張したりして「調整」したでしょう。

 それでは,あくまでも,日ごろの周囲の意見に合わせて発言する「相対的な自分」が出てきてしまいます。一方,カードを開くまで勝負がわからない共同出版では,自分が出すカードに「命を賭ける」しかありません。

2)本になるまでのワクワク感

 登録ボタンを押せば,すぐ情報発信できるブログやメルマガには,自分が発信した情報が現実化するまでのワクワク感,高揚感がありません。

 とはいえ通常の出版では,原稿を書いてから,書店に並ぶまで,校正やら何やらで数ヵ月を要することもあり,逆に書いた当人すら忘れてしまいます。

 そこで,今回のように原稿を返信してから,ひと月ほどで本になるスピード感がちょうど良いのです。誰がどんなことを書いているかのワクワクと合わせて,心に火がつくのです。

3)手にとって読める気軽さと非日常

 私のように,毎日,数百通のメールや数十本のブログに晒されていますと,画面で文字を追うことは日常業務そのものです。また,電気とネットがないと,何もできない現代人の無力も感じざるを得ません。

 ところが,日ごろネットでも活躍している人がネットで投稿した記事が,活字になった薄い本は,私には特別に見えました。半蔵門線の地下鉄の中で,騒音も気にならずに活字を追えたのは,その内容の面白さはもちろんのこと,「紙」だったからでしょう。


次は「村上世彰への手紙」に投稿募集中

 機会があればコミュニティブックスにまた参加しようと思っていた矢先,村上世彰氏の逮捕劇がありました。当然のように,デジタルメディア研究所のホームページには,募集広告がありました。


「村上世彰への手紙」原稿募集

村上さんの逮捕は,さまざまな感懐をビジネスにかかわる多くの人たちに与えた思います。
「コーポレートガバナンスとは何か」「小泉改革とは何であって,これから何処へ行くのか」「グローバル金融資本主義と日本企業の村感覚」「検察とマスコミ」「お金とは何か,労働とは何か,そして幸福とは何か」私たちは,さまざまな根本的な問題を投げかけられています。

それぞれの立場からの意見を求めます。

http://www.demeken.net/weblog/2006/06/post_25.html


 締め切りは目前なのですが,駆け込みで投稿しなければと,ひそかにファイトを燃やすのでした。ブログやネット連載を書くのとは別の高揚感で……。