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欧州における無形資産評価の取り組み

 欧州では,企業が自社の知的資本からいかに価値を生み出すかという取り組みが盛んであり,80年代後半からスウェーデンやフィンランドの企業を中心に研究が開始された。

 1986年,現在はシドニーのマクアリー経営大学院教授で当時は出版会社のオーナー経営者であったスヴェイビィが無形資産の活用を論じた"The Know-How Company"を発表し,知識管理・知的資本に関する「スウェーデン運動」の口火を切った。

 この影響を受けたスウェーデンの保険・金融サービス大手のスカンディア社は1991年より知的資本担当部署を設置,担当責任者にエドビンソンを任命した。知的資本の指標化・測定の実施に早くから取り組みはじめ1995年からはスカンディア・ナビゲーターによる分類と指標に従い,グループごとの知的資本に関する情報をアニュアル・リポートに公表している。

 またこれらの動きと平行して1994年,サリヴァン,ペトラッシュ,エドビンソンらを中心として知的資本経営会議を組織し,10数社の企業が参加,知的資本に関する企業レベルでの本格的な議論が開始された。

 90年代の後半になってルースなどを中心に知的資本の測定にストックとフローの概念を取り組んだ新しい議論も起こっている。現在,スウェーデンとフィンランドでは60%以上の企業が知的資本に関連して何かしらの取り組みを行っている。

 また英国ではインターブランド社が1988年にRHM社のブランド価値を金額として算出するなど無形資産の評価に対して積極的な活動を行っている。

 欧州では知的資本をより有効に活用するために知的資本経営に関する企業レベルの取り組みが盛んであるといえる。企業が自主的に自社の無形資産に関する情報を開示し,自社のマネージメント,外部への情報提供に役立てている。あくまでもマネージメントが目的であり,無形資産の価値の金額化までは進展しておらず,統一化された方法論は存在しない。

 欧州企業が早くから企業の無形資産の評価に熱心なのは,金融価値に企業価値を過度に求める米国経済界の動きを良しとせず,知的で創造的な人間の活動から生まれる価値を経済価値として正当に評価し,それにより欧州企業の価値を市場に認知させる必要を重視していると考えるのがよいだろう。

米国における無形資産評価の取り組み

 金融市場で世界の指導的地位を確立し,また株主重視で情報開示の要求の高い米国では会計学的な見地からの研究が盛んである。ニューヨーク・スターン大学のレヴ教授や米国財務会計基準審議会(FASB)らが無形資産のディスクロージャーやオンバランス化の問題に関して研究に取り組んでいる。また金融工学の手法を用いた特許の評価など無形資産の一つの構成項目に焦点を当てた研究もコンサルティング会社や研究機関において多く行われている。

 米国では株主重視の傾向にあり,財務的な数字への変換を念頭においた研究が盛んであるが,現段階ではデファクトスタンダードとなるような信頼性の高い評価方法は存在していない。

日本における無形資産評価の取り組み

 従来,人の能力,技術のノウハウなど「見えない資産」を企業の競争力にしてきたはずの日本では,残念ながら最近まで無形資産の評価に企業や市場の関係者の注目が集まることはなかった。欧米より10年以上遅れ,ようやく無形資産に関する取り組みが本格的に開始された。

 研究としては,1984年に発表された一橋大学の伊丹教授の著書がある。2001年には,一橋大学の伊藤教授がCBバリュエーターを開発し企業のコーポレートブランド価値を数値化し日経新聞の紙面上に公表した。

 企業では,協和発酵が自社の研究開発中の薬品を未来資産として将来価値を算定しアニュアルレポートへの公開を開始するなどの独自の試みや,リクルートワークス,HRR,野村総研などのシンクタンク系の企業で独自の評価モデルの開発を行っている。

 政府レベルでも2002年6月には経済産業省がブランド価値の測定を試みたレポートを発表している。

 しかし日本における研究は日が浅く,独自の試みの多くは,非常に主観的であったり適用範囲が狭かったり,無形資産の一部のみを対象にしたりしたものが多く,より質の高い取り組みが今後期待される。

関連研究における問題点

 以上の関連研究については以下のようなにおける問題点がある。

・無形資産の評価に関してデファクトスタンダードになるような方法論がない
・多くの関連研究は無形資産の定義や構成要素に関する定性的な分析のみで資産の定量的評価を行った例は少ない
・無形資産の定量的評価モデルを設定していても評価方法が明示されておらず具体的な方法論がわからない
・特許やブランドなどといった無形資産の構成要素の一部しか評価の対象になっていない
・企業全体のキャッシュフローや株価などといった表面的な数字を価値算出の根拠としそれぞれの資産の価値についての詳細な考察がなされていない

 我々の研究では上記の問題点をふまえ,それを解決するような無形資産評価モデルの構築を目指している。