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 ベストセラー「末期ガンになったIT社長からの手紙」や,「筑紫哲也NEWS23」などのテレビ報道を通じて,藤田 憲一さんをご存知の方は多いでしょう。そして,3つのブログサービスにて同時進行している藤田さんのブログで「最後の事業計画」を知り,その経過を注視している方も多いはずです。

 藤田さんは,大手女性サイトやポータルサイトを企画運営してきた,ネット時代におけるマーケティングのスペシャリストです。そして現在は株式会社nci代表取締役社長として活躍されています。そして,nciはテキストマイニング(文章をデータ分析する技術),音声&文字認識,機会翻訳などの先端領域での発展が期待されています。

 そんな矢先の2004年の7月に33歳の若さで突然胃がんの宣告を受けて緊急手術を行い,再発の危険も去ったかに見えた今年の1月23日に3ヵ月の余命宣告を受けたのです。


7月14日に藤田さんを招いたCIAJの講演会を聴く

 先日,CIAJ(情報通信ネットワーク産業協会)中原 新太郎さんから,突然セミナーのご案内をいただきました。それは,「7月14日に,藤田 憲一さんを招いたセミナーを行うので,ぜひ来て欲しい。メール縁者にも告知をして欲しい」という内容でした。

 そのご案内には,こんな一節がありました。
「本年1月23日に3ヵ月の余命宣告を受け,以来,「ネットとメディアの融合」によるメディアミクス戦略の実践者として執筆活動,並びに視点の異なる3つのブログを同時並行で立ち上げ,未認可治療法の早期受け入れの促進のため,日々活動を続けていらっしゃいます。」

 主催者の中原さんは,出版まもない藤田さんの著書を読んで,すぐにメールで講演を依頼したそうです。その時は,まだ藤田さんの受信箱がメールであふれることもなく,ご快諾をいただけたそうです。中原さんの言葉を借りるなら,まさに奇跡的に実現した講演だったのです。

 中原さんのメールを見て,私は予定さえ確認せずに衝動的に申し込んでおりました。きっと,「今ここ」で藤田さんのお話を聴く必要,否,義務があると直感したのだと思います。

 拙著,「ブログ道」「メール道」では,人生最後の日まで情報発信を続け,最後に書く言葉を大切にしようと書かせていただきました。しかし,その状況にいざ自分が置かれたら「しっかり書けるのだろうか」と常に不安でもあったのです。だからこそ,残された人生を「人生の休日」ではなく「世の中の貢献期間」にしようと決意した藤田さんの生き方に,生の言葉に触れたかったのです。


藤田さんの静かなお話しぶりにまず驚く

 CIAJは情報通信に関わる大企業のキーマンが集まる団体で,定期的に有意義なイベントを開催しています。しかし,今回のセミナーは,いつものような技術や政策に関わるものではありません。さらに,日頃わが事と考えたくないテーマでもあるだけに,参加者の出足が危ぶまれました。しかし,有志のネットコミを通じて,当日は,集まるべき人が集まるべくして集まったのです。

 私は,講演前に,「末期ガンになったIT社長からの手紙」を読むべきか,ブログを熟読すべきか迷いました。しかし,あえて白紙の状態で,生身の藤田さんにお会いしようと決めました。そして,一番前の席に座って,講師の来場を待ちました。

 講演開始直前に,藤田さんは会場に現れました。鎮痛剤を打っていたので遅れたそうです。顔も体も治療の影響か,少しやつれて見えました。しかし,目の輝きは驚くほど澄んでいました。そして,声もしっかりとしていたのです。

 いつもなら,経営者として元コンサルタントとして,パワーポイントを使いながら秒刻みのプレゼンをするのですが…と前置きをしてから,藤田さんはパソコンも原稿も見ないで話し始めました。

 それは,これまでの仕事人としての激動の十余年を,正確にそして客観的に分析しながらたどっていく回想録でした。病気の話にほとんど触れないまま,静かに淡々と言葉が重ねられていきます。それは,優秀なビジネスパーソンがリサーチ結果や事業計画をプレゼンテーションしているような極めて落ち着いた口調なのでした。

 この展開に驚いたのは,私だけではないでしょう。私が同じ立場なら,とても普通に話してはいられないはずです。こうした極限の状況においては,能力ある若きリーダーとはいえ,情緒不安定で感情の起伏が激しくなるか,逆に神がかってしまいカリスマ状態となってしまうのではないかと思っておりました。今思えば大変失礼な思い込みですが,その予想は見事に裏切られました。

 予備知識なしに講演の前半だけを聴いた人は,おそらく,今,藤田さんが置かれている境遇を察することができないでしょう。マイクを握る藤田さんの傍らでは,常にNEWS23取材陣のテレビカメラが回っていますが,まったく気にすることも臆することもなく,粛々と自らの履歴を紐解いていったのです。


事業計画を作り実践することで身心を保つ

 藤田さんが類まれな精神力を持っていることは疑う余地がありません。

 しかし,講演の後半になって,ガンの再発を告知された時には「何日か絶望」したと静かに語られた瞬間がありました。その時,藤田さんが急に身近な「生身の人間」になったように感じました。

 講演後に拝読した著書でも,再発時の絶望が赤裸々に語られるのを目の当たりにしました。どんなに強い精神力を持っていても,生身の人間ですから,余命宣告が恐ろしく無いわけはないでしょう。しかし,自らを律して,次に進もうとされている強い意思が,より鮮明に伝わってきたような気がいたしました。

 著書でもブログでも,一番重要な役割を果たしているのが,藤田さん「最後の事業計画」です。この限られた期間に何を為すべきかを考え,合目的的に記していくことで,藤田さんの心を平静を取り戻していく様子が,著書には描かれています。そして,この事業計画は,ブログでも明言されている通り,ある「義務感=天命」に基づいて書かれているのです。


幸いなことに,私は,ただのがん患者よりは,IT業界にもメディアにもネットワークがあります。

それを活用することは,私の義務であると感じました。

「がんの特効薬と言われているウイルス療法や遺伝子の研究など,もろもろのものにより,がんはエイズや結核や白血病と同じように,不治の病から治る病気になる可能性があると言われている。」

「確立されている治療法もつまらない規制のために早くて5年や10年かかってしまう。5年後,10年後のがん患者より,今,困っているがん患者のためにそれらは使うべきだ。」

「本をベストセラーにして,そのことでメディアの関心を高める。デイリーではブログで情報発信をする。そうやって,社会への認知や影響力をGETしたら,あの世に持っていけないお金を持っている私のようながん患者や,高い志を持つ医師が集結し,がんを治してしまうかもしれない。そうなったら,すごいことだ。これこそ,ネットとメディアの融合の究極の形なのではないか?」


 講演でも,藤田さんは,この計画を公的なものというより極めて利己的なものだと敢えて明言されていました。確かに「まず自分が治りたい」という強い意思がなければ,この過酷な計画を実践することはできないでしょう。しかし,この極めて私的な事業計画によって,日本国内の多くの末期がん患者が救われる契機になると予感しています。


個人がインターネットで情報発信できること

 もう一つ,この講演では,大いに共感できるお話がありました。それは「個人が情報発信できる新しいメディアの可能性」についての話です。これこそ,私が10年以上もインターネットに魅せられ続けている大きな魅力でもあります。

 事業計画に基づき,藤田さんは,書籍の出版やテレビ出演などと合わせて,ブログにも取り組みました。GMO,アメブロ,ライブドアのトップにメールをして,ライバルでもある3社にブログを開設してトップページで表示するアイディアを伝えました。テーマ別に書かれた3つのブログを,それぞれ連動させながら,一人でも多くの人に伝えようという試みです。

 まだ多くの人が気付いていない「インターネット時代における個人の情報発信のポテンシャル」を,藤田さんは自ら実践して証明しつつあります。テレビ特番で書籍やブログを知り,ブログで書籍やテレビ特番を知るメディアミックスの好循環が起こりました。そして,著書がベストセラーになり,ブログのアクセスも増えていったのです。

 もちろん各界キーマンの人脈を持つ藤田さんが,しかも共感を集める特別な状況にあったからこそできたと思う方もいらっしゃるでしょう。確かに藤田さんほどのスピードと規模で,一般の人がメディアミックスのPR戦略を打つことは難しいかもしれません。

 しかし,少し前までは無名だったブロガーが,ブログやメールマガジンのリピート読者やブロガー仲間によるネットコミで,Amazonで1位を取るようなベストセラー作家になる例は,枚挙にいとまがありません。また,ネットでの発言が注目されて,新聞,雑誌,テレビ,ラジオなどのメディアから取材を受けたり,連載コラムや,コメンテーターとして活躍している方も数多くいらっしゃいます。また,mixiやGREEなどのソーシャルネットワーキングサービスも,ネットコミを広げるのに役立つでしょう。

 今後,藤田さんにならって,力を持ったブロガーが,コミュニティのメンバーともども,メディアミックスで伝えたいメッセージを広げていく事例が増えていくことは間違いありません。


個人が実名で信頼に足る情報を発信する社会

 一方で,藤田さんはネットの現況に苦言を呈されてもいました。現在,人気を集めているブログの多くが芸能人かスポーツ選手のものであること,個人ブログの多くが仮名を使った無責任で他愛のないものであることを嘆いていらっしゃいました。それこそ,医療制度や政策までも変革しうるような,新たな世論を巻き起こすような真面目なテーマで書かれたブログは数少ないし,注目されていません。スペシャリストが自己責任で実名で記す「真面目で信頼に足るブログ」はまだ少ないのが現状なのです。

 だからこそ,藤田さんは実名の真面目なブログで世界を変えようとしています。そして,個人情報の最たるものである,ご自身の病名までも明らかにしているのです。

 微力ながら,私も実名で,しかも所属団体をはじめとするプロフィールまで公開しながらブログを書いている一人です。そして,ブログ情報をネットで探す時にも,実名ブログでなければ信頼しないように心がけています。また,中小企業経営者向けの「経営者会報ブログ」や,公益法人・個人向けの「日本財団CANPANブログ」は,実名・所属名公開で運営してくださるようお願いして,実現していただきました。経営者・ビジネスパーソン向けの講演でも,明治大学の授業でも,なるべく実名でブログを書くようにお勧めしています。

 それも,藤田さんと同様に「心ある個人が自らの名誉にかけて」ブログを始めとするネットメディアで「責任ある情報を発信する」ことで社会が変わると確信しているからです。

 その新たな時代の幕開けに,個人の情報発信力を世に問う先例を,藤田さんは始められたのです。


どんな気持ちでブログを書いているのですか?

 講演会は,最後の事業計画と今後のビジョンを淡々と語って終わろうとしていました。

 医者には15分が限界と言われた中,鎮痛剤を打っての講演は,既に1時間半になろうとしていました。その事実は,藤田さんご自身も驚くほどでした。おそらく,伝えるべきことがあるという強い意思と,会場に集まった方々の真摯な眼差しが,身体の限界を超える後押しをしていたのでしょう。

 最後に,質疑応答のコーナーがありました。聴きたいことは山ほどあったのですが,主催者の中原さんにご指名を受けた時,私はすっかり胸がつまってしまいました。

 万感迫って言葉が浮かばない中,何とかお伝えできたのは,深い敬意を込めたエールでした。

「藤田さんが,正にブログ道をまっとうされる最初の人になるでしょう」

 そして,どうしても聴きたかった質問を問いかけたのです。

「今,どんな気持ちでブログを書いているのですか?」

 一瞬だけ間がありました。そして,いただいた答えは予想もしないものでした。

「実は…,何も考えないで書いています」

 驚きました。

 何もかも合理的に説明できそうな明晰な頭脳を持ちながら,同時に理性さえ吹き飛ばされそうな心乱れる状況にありながら,それらをリセットしてしまったのでしょうか。

 確かに,あの3つのブログからは,意図的な企ても抑えきれぬ激情も伝わってきません。毎日,澄み切った心持ちで,ただ書くべくして書いているいるとしたら…,それは,驚嘆すべきことです。藤田さんの目の前には,自ら創り上げた意義深い事業計画=歩むべき道があり,その道を,ただ静かに一歩ずつ歩んでいく。そんな「行を重ねる姿」を見る思いがしたのです。

 世の中は陰陽ですから,藤田さんの真面目なブログは,心ない攻撃にも見舞われます。その人気と注目ゆえに,激励と合わせて勘違いのコメント寄せられ,怪しげで卑猥な広告トラックバックにも晒されています。しかし,それらネット過渡期の日常現象を,ものともせずに平常心で歩み続けられることでしょう。一方で,その何千倍何万倍もの方々が,声を潜めて見守り,エールを送っているのですから。

 藤田さんの平静に見えるブログの奥には,絶対に治ってみせるという強い意思と,人には明かさない哀しみが秘められていると感じます。しかし,そのブログを読むたび,藤田さんが望む治療を受けて元気を取り戻す姿も浮かんでくるのです。そう感じる人が1人また1人と増えていくことで,藤田さんの容態も,日本の社会も,快方に向かっていくことでしょう。