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 Google Maps for Enterpriseの技術的な仕組みは,“for Enterprise”の付かない無償版Google Mapsの仕組みと同じとされています。そして,明言,約束はないようですが,当該ページの行間から,無償版のGoogle Mapsも引き続きサポートしていくようにうかがえます。Web検索の無料サービスでこれだけ実績を上げ,信用されている以上,Googleのトップ・ページ(http://www.google.co.jp/)に,「ウェブ」「イメージ」「ニュース」「マップ」「グループ」と並んでいるアプリケーションの一つ,「マップ」だけが急にサービス停止になると想像するユーザーもほとんどいらっしゃらないでしょう。広告が増えることはあっても,気に入った人は継続的に使い続けていくのではないでしょうか。

 同様に,Google MapsのWeb APIについても,ある程度の制限が加わる可能性を残しつつ,今後も無料版が提供され続ける可能性が高い,と思われます。世界の主要なWeb APIを紹介するprogrammablewebというサイトにある「Top APIs for Mashups」(Last 14 days)を見ても,数百のWeb APIの中でGoogle Mapsが利用率57%(2006年8月1現在)と,圧倒的な人気を獲得していることが分かります。

 また,横の「All」をクリックしてこのサイト発足以来の通算を見ると,サービス公開後1年たった今でも新たに登場したサービスに負けるどころか,むしろシェアが増大していることが読み取れます。これだけ使われているWeb APIを,予告なく無条件に有料としたり,停止したりする可能性はかなり低いと言えるでしょう

保守・サポートがGoogle Maps for Enterpriseのビジネス・モデル

 では,“for Enterprise”版のメリットとビジネス・モデルは何でしょうか? 各種の企業内アプリケーションや,BtoB, BtoCのアプリケーションでの利用に耐える品質が有償に値すると主張されていますが,年額1万ドル+従量制という対価に値するのは,主に保守・サポートのサービスでありましょう。このサービス水準,サービス品質がどの程度のものであるかは,現時点ではまだ未知数と言えます。

 いくら「個別に技術のカスタマイズはしない」と宣言しても,「なぜこのような使い方をするとこのような表示になるのか」といった顧客からの質問に対して調査を行って回答するならば,それなりのスキルを持つ(=それなりの時間単価の)人員による人件費が発生します。とはいえ,1人で10社もサポートすれば,十分に利益率の高いサービス業として成立することは確実でしょう。

 少々下世話ながら,Googleがいくらもうかるか,試算してみましょう。仮に,地図情報を利用する社内,社外のサービスをユーザー本位のものに取り替えたいと考えた1万社が契約したとして,数億ドルの売り上げとなる計算です。一定のマニュアルに従って電話サポートをする人員(インドなどのオフショアも可能)を抱えても,70%以上の利益率を達成できそうです。売り上げ,利益とも,Googleに一定の貢献をすることでしょう。

 もっとも,Googleの2005年度の売り上げは61億3900万ドル。その98.8%を広告売り上げ(AdWords,AdSense)が占めるという状況です。仮にGoogle Mapsで数億ドルを売り上げても高々数%にしかならないとも言えます。

 マッシュアップ・ブームが今後さらに加熱していくとして,この売上比率を高めていくことができるでしょうか。日本国内だけで250万以上の企業があります。全世界向けにロングテールの考え方で,きめ細かく低料金のサービスを提供していけば,自社製のマップがことごとくGoogle Mapsに置き換わる可能性もないわけではありません。チープ革命以前であれば,「マップ付きならもっと使いやすいのに」と感じつつあきらめていたアプリケーションに,Google Maps for Enterpriseが使われる可能性もあります。

 ただし,前提として,人件費の増大を防ぐ工夫が必要になってきます。具体的には,どうしても自動化できない人的サービスの比率を下げる,契約行為自体を低コスト化する,といった具合です。

今後は無料サービスとの差別化が進む

 “for Enterprise”でない一般サービスに,制限が加わっていくことも十分に考えられます。実際,SOAPベースの検索サービスであるGoogle Web APIsは既に,1日10件,1日1000回の制限付きになっています。

 この制限の根拠は,Google Web APIsでは,かつてGoogleのほとんど唯一の収入源であった広告が表示されないまま検索結果が出てくるから,とされています。Google Web APIsと同様に,今後のGoogleの新しい収益の柱となることが見込まれるGoogle Maps for Enterpriseとバッティングするような現行サービスは,古い機能のまま据え置かれたり,APIが追加されず,基本的なAPIを除いて公開が停止される可能性もあるでしょう。

 ただ,移動回数やズーミング回数など何らかの回数に制限を課すのはサービスの性格にそぐわない気がします。マップ自体は,検索のように回数に“比例”して御利益が感じられるようなサービスではないからです。もちろん,Google Mapsのページ上部にある検索フォームが必須で現れ,使われるような形にすれば,そのような制限も併用される可能性はあるかもしれません。

 以上,今回は一応根拠もあるものの憶測が多い記事になってしまいました。次回は,「Web 2.0らしいリリース・スケジュール」という観点からGoogle Maps for Enterpriseを眺めてみる予定です。