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 これまで当ブログの3月30日号から11回にわたって,読者の方々へ「SE自らの変革の必要性」を強く訴えてきた。そして参考になればと思い,筆者が現役時代に狙った「ビジネスができSEが育つ技術集団作り」で,当時何をどう考え何を行ったかなどを紹介した。おそらく読者の方々は賛否両論だと思う。

SEの変革が日本の競争力を左右する

 だが,筆者は長年の経験から,ビジネスができSEが育つ環境を作るには「SEマネジャは体制図を出さない」,「SEはマルチで仕事をする」,この方策しかないと考えている。それを実現するには,発想の転換や現状打破などが必要であり,ハードルは高いと思う。だが,SEマネジャやSEの方々には,ぜひ明日に向けてそれに挑戦し,SEが自由闊達に,モラル高く働ける職場を作ってほしい。

 筆者は,単にSEのためだけにこれを主張しているのではない。21世紀の日本の産業を考えると,ユーザーと一体になって,企業経営に役立つシステム作りに取り組む「プロの技術集団」がなくてはならないからである。

 あえて言えば,今のIT業界のSEの変革の有無が今後の日本の産業の発展を左右しかねないと言いたい。今回はそれについて述べる。

 まず,問題提起も含め3点説明したい。

様々な問題を抱える情報システム部

 現在,超大手企業を除けば日本の多く企業の情報システム部は,図に示す通りIT技術の空洞化,ベンダー管理力の欠如,ユーザー部門からの信頼度の低下など,いろいろな問題を抱えている。特に,IT技術の空洞化傾向はオープン時代,ネットワーク時代になり年々顕著になってきる。今や日本のユーザーの多くは自分達の力だけでは何もできない状況になっていると言っても過言ではあるまい。

 だが,一方では利用部門からの新規開発の要請,経営に役立つ情報戦略の策定,安定稼働などやるべきことは少なくない。これが1点目である。

 次に2点目だが,今の日本の産業の国際競争力を見ると,バブル崩壊や中国などの台頭もあり,80年代に言われた「Japan as No.1」と言う言葉は今やほぼ死語に近い。事実,外資系企業が多くの日本企業に資本参加もしている。

 一方,90年代初めから日本の産業は情報化なしでは伸びない言われている。だが,現状はどうだろうか,2002年のある調査では,全世界の中での日本の情報化レベルは,IT投資額こそ2番目だが,IT活用度はなんと20番である(出典:2002年世界IT報告)。要は無駄な投資が多いということだ。いまだにITを合理化・省力化の道具としか見ていない企業が多いためかも知れない。この他にもいろいろな評論家やマスコミが,日本の情報化は危ないと警告している。

 筆者はこのような状況を見るにつけ,この国際競争力の低下と日本のIT活用度の20位とはまったく無関係ではないような気がしてならない。もちろん,そこにはIT以外の年功序列,日本の産業の仕組み,国際化の苦手意識など様々な要因があると思う。ただ,企業の競争力とITが無関係でないとすれば,日本企業の情報化力の強化は急務であろう。

 そして,企業の情報化の中枢である日本の情報システム部は,米国の情報システム部に比べはるかに弱い。これが3点目である。

米国の情報システム部の人数は日本の10倍

 両国の情報システム部を比較すると次のような違いがある。

(1)米国の情報システム部の人数は日本に比べて約10倍である
(2)米国は内製中心,日本は外注中心
(3)人数をざっと見ると日本の「情報システム部員+外注SE」の人数と米国の「情報システム部+コンサルなどの外注」の人数とほぼ同じ
(4)米国は職種社会,顧客とITメーカー間などの転職は当たり前。日本はゼネラリスト社会である。

 ざっとこんな具合である。

 これだけ見ても情報化力,技術力の差は歴然としている。日本で情報システム部40人の規模の企業であれば,米国だと情報システム部に400人いる。しかもITを専門で長年やっている人ばかりである。するとマルチベンダー・システムでも自己責任で使えるし,会社の経営やビジネスや業務に立脚したシステムも自分たちの力で開発できる。

 それに比べ,今の日本は米国に比べて1/10の人数で,オープンの世界に闇雲に入った。それゆえに,日本のユーザーの技術の空洞化などが起こるべくして起こった,というのは筆者の暴言だろうか。いずれにしても米国との情報化力の差は小さくはない。

唯一の答えはユーザーとIT企業のSEが一体となること

 以上,筆者の独断と偏見でいろいろ述べたが,これが日本のユーザーと情報システム部の実態である。いずれにしても情報システム部の悩みは深い。

 そして,日本の企業が21世紀を生き抜くには企業の情報化力,すなわち企業の情報化にかかわる「経営,ビジネス,アプリケーション,システム,製品,運用」などなどの能力の強化が急務である。

 日本企業のそれらの能力を米国並みにするには,理論的には2つの方法しかない。

 一つは情報システム部の人員を10倍近く増やして内製化を進めること。もう一つはユーザーと外注先のIT企業のSEが一体となって仕事をすることである。

 だが,情報システム部の人数を10倍に増やすのは非現実的だ。それゆえに,現実にはユーザーとIT企業のSEが一体となり,専門家同士が役割を分担し,知恵を結集して計画策定・要件定義・開発・運用を行うしかあるまい。

 そのためには,顧客とIT企業の心が通じ合い,助け合い,励まし合って,一つのゴールに向かって邁進する,そんなチーム作りが要求される。いわゆる「ベンダーの真のパートナー化」である。

 すなわち,IT企業はこれまで述べた脱「顧客との壁作り・技術偏重・受動的な仕事ぶり・アプリ軽視」を実現するSEの変革,プロのSE作りが不可欠である。決して「これは我々のしごと。あとは顧客のしごと,我々には関係ない」と言うような,壁をつくるSEを作ってはならない。

 また,ユーザーの方々の,人月単価や,体制図の提示や,SEの派遣的管理などでベンダーにしっかり仕事をやらせたい,という気持ちは分からないでもない。しかし,それで真のパートナー関係が築けるだろうか。ユーザーの要件定義力と検収力の低下や,技術の空洞化の状況の中で,SEをマンパワー扱いや業者扱いして,本当に自社の情報化力強化に役立つのだろうか。

 相手のIT企業にもよるが,場合によってはもっとSEが「この顧客のために頑張りたい」と思える環境を作ったり、スキルを補完しあうなど協業の姿勢 を持つことも必要だと思う。そうでないと,結局は回り回って,日本の産業界が貧乏クジを引くことになりかねないのではなかろうか。

 要はこれからの日本のITの世界は,ユーザーとIT企業,双方が顧客企業の将来を考えて,切磋琢磨しながら成長することが肝要である。そうしなければ日本企業の情報化力は強化できないし,競争力の強化も難しいだろう。