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 海外アウトソーシングに際して,海外のソフト会社等と契約を締結することが必要となります。私はこれまでに様々な国の企業との英文契約書を用意して交渉し,契約を締結してプロジェクトを実行しました。そしてその過程で国や企業などによる大きな違いを認識しました。

 私が取引した中国の企業の多くは契約書の内容にあまり注意を払いませんでした。相手側より「どこにサインすればよい」との質問があったので,「ここに」と署名の箇所を示すと即座にサインしてもらえることもありました。

 しかしインドやシンガポールなどの英語圏の場合は,契約書ドラフトを提出すると,大抵の場合内容に関していくつかの確認や修正検討の依頼がありました。

 一般的に英語圏では契約書への意識が高い傾向があるものの,国や企業そして人により契約書に対する姿勢に違いがあることを強く感じました。

 ある時,欧米企業の実際の契約書を目にする機会がありました。実際の欧米の契約書を見て私は愕然としました。契約書のタイトルは似ていますが,その内容が日本で目にしていたものとあまりに異なり,また考え方も根本的に異なっていました。

 欧米の契約書は様々なリスクを想定し,問題の発生を減らすよう考慮され,問題発生時の対応も明確に記載されています。例えば,担当者の競合他社への転職などの制限,問題発生時の責任境界,請求・支払などの手順,発注受付の手順,オンサイトの保険・旅費・税金などの負担,オンサイト場所での規則・制約順守などです。

 それに比べて日本の契約書は,日本国内の人と人との信頼関係を前提にした契約書となっています。成功することが前提であり,何か問題があった場合,当事者同士が話し合って解決することが暗黙の了解となっています。

 多くの日本の契約書では終わりに,「本契約の定めのない事項および本契約各条項の解釈に疑義が生じたときは甲乙誠意をもって協議のうえ解決する。」という記述があります。日本では問題が発生した場合,両社が協議して解決に当たることが前提になっているのでこの表現でもOKになっています。

 しかし欧米の国際契約書にはこのような表現はありません。海外取引において問題が発生した場合,相手側が協議のテーブルに乗って来なかったり解決に当たらないケースも多くあるからです。

 こちら側が『問題』や『疑義』と考えても相手側がそう考えていない場合は,協議の場をもつことさえ難しい状況が発生します。そしてもともと契約内容が明確でない場合は,『完了した』『いや完了していない』の水掛け論となり,問題解決が長引くことになります。「疑義」,「協議」,「解決に当たる」などの表現を契約書に盛り込む場合は,双方の理解が前提となります。

 国際契約書においては基本的な定義から押さえ,さらに,事前に正常処理や異常処理時の具体的な手順も明確にすることが求められます。相手側が契約どおりに実行しない場合,即座に契約不履行と判断してクレームが出せるように事前に準備しておくことが必要となります。

 最近思うに,先の中国の企業のケースでは,日本側から提出した契約書には『あるべき論』が述べられており,契約不履行の場合のペナルティなどの自社側として責任の発生する内容の記載が無かったので気に留めずにサインしていてのではないかと思っています。

 もし契約書に,納期1日遅延の場合は○○ドル/日支払うものとするとか,もしこちら側のプロジェクト人材を引き抜いたならば,××万ドルのペナルティを支払うことなどの記述があれば多少契約書へのアテンションは当たったかも知れません。

 またそもそも契約/約束の考え方にも違いがあります。日本の場合,一般的に契約/約束はとても重要なものと考えます。そして問題が発生した場合は,万難を排して全力で解決にあたろうとする傾向があります。

 しかし国によっては,契約/約束は重要なものではあるが状況により変化するもの,即ち契約/約束どおりに実行しないことがあるものとの認識もあります。隣国の小生の知人は,変わることがあるのが『約束』です,と話していました。

 ある日本企業は特定の海外プロジェクト遂行に際して有能な外国人技術者を雇用し,「一定期間は辞めない,辞める場合はペナルティ○○万ドル支払う」との契約を締結しました。しかし2年かけてその人材を育成しこれからうまく活用できるという時,その外国人技術者は突然退社を決めました。ペナルティはその人間が後で就職する予定の企業が出し個人から日本企業に支払われた,と聞いています。
 契約で最終的に人材を縛ることはできませんが,もし契約がなければもっと混沌とした状況に至ったことは明らかです。あらゆる事態を想定した契約マネージメントが求められています。

 また,ある日本企業では海外ソフト会社に外注することになり,日本国内で使っていた契約書をそのまま適用しようと考えました。その契約書は長年の日本国内の取引先に開発および運用を委託する包括的な内容のものでした。その契約書は日本人の私にとってもわかりにくい内容であったので,おそらく海外外注先でも理解することは難しく,どこかで問題が発生するだろう,と思いました。

 ご参考までに,その日本国内契約書について特に気になった点を少し述べます。

1.準拠法,裁判直轄等,国際契約書として含まれるべき項目がない。
2.設計,構築,運用準備・移行,サービスなどの記述があるがその定義がない。
3.『誠意をもって協力,最善の努力...』は海外側には理解しにくい。
4.責任者,進捗状況報告,成果物,検収条件などが不明確。
5.出張費,手当て,保険,税負担について明記がない。
6.裁判,紛争時の処理方法の記述がない。

 過去の高度成長時代では,プロジェクトも予算(金)も潤沢にあったため,どんぶり勘定で委託を進めプロジェクト完了後契約書を作成して支払う対応で問題はありませんでした。

 しかし時代は変わりました。まず予算がそれほど潤沢ではありません。限られた予算内で委託プロジェクトを効果的に遂行することが求められます。その上,言語・文化・習慣が異なり,取引実績もない,海外企業にアウトソーシングするようになりました。

 グローバルにアウトソーシングを進めるためには,世界に通用する国際契約書を準備して海外委託先と契約を取り交わし,リスクを最小化して事業を進めることが求められています。 


八達嶺からみた万里の長城。海外アウトソーシングにおいては、どこまでも続く長城のように泥濘も奥深くどこまでも続くことがあるので、相手側をよく見た契約マネジメントなどの対応が重要
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