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挑戦!二〇代起業の必勝ルール 著者:藤末 健三 出版社:河出書房新社 価格:1470円(税込み) ISBN:4-309-90671-0 |
著者・藤末健三氏は異色の人物である。
東京工業大学卒業後,通産省に入庁(ここまではありがち),その後,MIT・ハーバード大学の両方で技術経営の研鑽を積み,帰国後,東京大学助教授に任官,2004年には参議院選に当選してしまう。選挙活動中に3冊の技術経営本を執筆し,現在も田園都市線で電車通勤,プロボクシングライセンスを持ち,忙しい公務の傍らサンドバッグをたたく(注:比喩ではない)ことを忘れないらしい。
「日本の政治に新風を起こす」というほどにも力まず,肩肘張らず,かといって,日本とアジアのために尽くすと公言して憚らない熱血な男が,「起業」の本を書いた。当然ながら,ありがちな政治家による票取り,イメージアップのための本ではない。
そこには,大竹美喜氏(アメリカンファミリー生命保険・創始者),稲盛和夫氏(京セラ・創業者)など既に名をなし功を遂げた人物や,20代で起業し成功に邁進している若き創業者たちの群像が,彼ら自身の発した言葉とともに描かれる。いずれも,藤末氏の持っている人脈で,彼が直接かつ愛情を持って聞いた言葉たちだから,ビビッドで迫力がある。そして,登場人物が自らの言葉で語る生き様に,藤末氏の技術経営の専門家としての分析が加わる。まさに,これから起業をしようとする人にとってはバイブルとも位置づけられる本であろう。
この本を読んで感じることは時代の流れとともに急速に生じている価値観の変革である。この本の主張するところを私なりに整理すると以下のようになろう。「起業をして財力をつける,規模を誇るというのは既に昔の価値観であり,それらは企業の結果的な姿であったとしても,決して目標ではない。そうではなく,自ら起こそうとする企業の社会的位置づけを把握・定義し,それを企業目標に転化し,それを達成することによっていかなる社会貢献を果たすか。それが,企業の成功する唯一無二の道である」
藤末氏と同じように,私も多くのベンチャー企業とともにある。なかんずく,私自身も戦略的な技術法務サービスを提供することによって,多くの志あるベンチャー経営者の成功を側方支援し,ひいては,知的創造力に立脚した真に競争力のある新しい国を作るためのサービス体である,と自己定義した「法律ベンチャー」(注:名称は「○○法律事務所」となっている。弁護士法という古い法規制があるからである)の経営者でもある。そんな私にとっても,この本は「果たして今の自分のあり方が正しいのか」と自問自答するきっかけを与えてくれる。
文字どおり20代の諸君だけではない。30代,40代のこれから起業をする皆さん,すでに起業を果たされた皆さんも「20代・・」というタイトルに惑わされず,ぜひ手に取ってみられたい。そこに,新しい日本の息吹を感じるはずである。
・藤末健三氏Webサイト http://www.fujisue.net/
