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保津峡の川下り
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 例年7月最後の土日は研究会仲間との旅行と決めている。今年は4年ぶりに京都に行った。春の京都研究会でも来ているのだが,夏には夏の京都の魅力がある。内陸性気候の京都の夏は強烈に暑いのだが,涼を求める遊び方もある。1日目は嵐山から京都西部の亀岡までトロッコ列車に乗り,亀岡から嵐山まで川下り(写真)。緑濃い保津川の渓谷美と涼しい川風を楽しんだ。夜は先斗町の川床で鴨川の夜風にあたりながら,食事をした。参加したのは23歳の女性から,67歳のおじいちゃんまで15人。NTTグループの人が多いが,弁護士もいればMITの教授もいるという,バリエーションに富んだ仲間だ。

 旅行会で仕事の話はほとんどしないのだが,ちょっと話題に上ったのは次世代ネットワーク(NGN:Next Generation Network)のことだ。情報通信に携わる身としてはNGNが盛り上がることを期待しているのだが,さて,どうなるのだろう。今回はNGNについて書いてみようと思う。

NGNとは

 NGNとは通信のオールIP化により,従来別々に設備を持っていた固定電話網,携帯電話網,インターネットを統合して通信設備コストの大幅な削減を図るとともに,IPの柔軟性と光ファイバやワイヤレス・ブロードバンドの高速性を生かしたFMC(Fixed Mobile Convergence),IP-TVなどの多様で高度なサービスを実現する通信事業者のネットワークだ。インターネットと違って,QoS(通信品質)やセキュリティが強化され,現在の電話交換機と同等の信頼性の高いサービスを目指している。

 NGNはITU-T(国際電気通信連合・電気通信標準化部門)を中心に標準化が進められており,日本のNTT,KDDIはじめ,世界の通信事業者が構築を進めようとしている。NTTは2005年11月にNGNのロードマップを公表し,06年7月21日には同年12月から始めるフィールドトライアルの参加募集とインタフェースの公開を行った(関連情報)。2007年下期には商用サービスが開始され,2008年以降にFMCサービスを提供,2010年には3000万ユーザーを目標にしている。

NGNを使う理由,使わない理由

 いつものようにユーザーの立場で考えてみよう。我々,ユーザーがNGNを使うとすれば,その理由は(1)今まで出来なかった「意味のある」ことが出来る,(2)今までと同じことが安価に出来る,(3)今までと同じことが快適に出来る,の三つが考えられる。

 まず大きいのは今まで出来なかったことが出来るかどうかだ。レガシーなネットワーク(既存の電話網やインターネットなど)とNGNとで出来ることを比較した()。困ったことにNGNに出来てレガシーで出来ないものを筆者は発見できない。逆にNGNはFAXや非IPデータ通信が不得意だ。近い将来,NGNならではのキラー・アプリケーションが登場するかもしれないが,現時点,NGNでなければ出来ないことがある,というよりはNGNになると動画配信やFMCがより高度に実現できる,と見た方がよさそうだ。

レガシーとNGNのサービス機能比較
○:可能  △:不十分だが可能 +:より高度になることを意味する
サービス レガシー NGN コメント
電話
FAX IPネットワークではFAXを100%保証できない
データ通信 レガシーなデータ通信にはNGNに移行し難いものがある
インターネット系(メール,Web,ブログ等)
VPN
モバイルサービス ○+
動画配信(IPTV) ○+
多地点TV会議
FMC ○+

 例えば,インターネットを使った動画配信でブレークしたGyaOがNGNではマルチキャストを使って効率的に配信でき,ハイビジョン・クラスの鮮明な画像になる,ということだ。ユーザーがNGNを使う理由は,当面,今までと同じことが安価に出来るか,今までと同じことが妥当な料金で高度に出来るか,ということになりそうだ。

 逆に電話・FAXしか使わないのでレガシーで用が足りている,とか,メールやWeb閲覧,動画配信はインターネットで十分,とユーザーが考えればわざわざメタル回線を光ファイバーに引き直してNGNに加入したりはしないだろう。

物足りないNTTのトライアル仕様

 7月に公開されたNTTのNGNトライアル仕様の内容は物足りないものだった。器は提供するので入れる中身(アプリケーション・サービス)は考えてください,という内容だったことと,NGNの典型的サービスであるFMCへの言及がないばかりか,NTTドコモがまったくからんでないからだ。これではレガシーな電話交換機による固定電話網をIP化することに主眼を置いているのだな,と見えてしまう。

 NGNがオープンなサービス・プラットフォームとして誰もがアプリケーション・サービスを提供できることを特徴としているのは分かるが,NTTとしてもFMCをはじめ魅力あるアプリケーションの提案をすべきではないだろうか。

 提供機能は03や06で始まる0AB-J電話番号を使ったIP電話・TV電話向けの「インタラクティブ(双方向)通信機能」,動画配信を主目的とした「ユニキャスト(片方向,一対一)通信機能」と「マルチキャスト(片方向,一対多)通信機能」,インターネットアクセスを提供する「ISP接続機能」,専用線を代替する「イーサ通信機能」の五つだ。

 この中で将来が気になるのはISP接続機能だ。なぜ気になるのか? それは,そもそもNGNとインターネットは並び立つのか,という疑問があるからだ。

NGNとインターネットの関係は排他的か,補完的か

 結論から言えば,筆者は本質的に排他的関係だと思う。先のGyaOを例に考えてみよう。NGNはマルチキャストを使った効率的な動画配信を可能にする。サーバーをたくさん並べて,膨大な数のクライアントPCに同じコンテンツをユニキャストで流さなくても,1台のサーバーからNGNに一つのストリームを流せば,NGNが何千万人に配信してくれる。ハイビジョン・クラスの高画質も実現できる。この時,サーバーもクライアントもNGNにつながってなければならない。インターネットよ,さらば,ということになる。ただし,GyaOがインターネットに別れを告げるには,NGNの利用料が十分安くなければならない。

 Web閲覧やメールはどうなるか。国が構築するNGN同士がつながれば,WebもメールもNGN上で済んでしまう。もちろん,NGNが世界中で使えて,相互接続されるには時間がかかるだろう。しかし,最後はNGNが相互接続されたネットワークが「次世代インターネット」ということになるかもしれない。 

 米国ではNGN派とインターネット派がケンカしているらしい。ITUという元々お役所が集まったような団体が進めるNGNと,IETFという自由闊達なインターネットの集団が仲良くするのは確かに難しいだろう。

 NGNとインターネットがどうからみ合って変容していくのか興味深い。我々ユーザーには,二つの世界の移り変わりを見つつ,上手に使い分けていく楽しみがある。

企業ユーザーはNGNにどうかかわるべきか

 企業ユーザーにとって大切なことは,NGNという「変化」に興味を持つこと,面白がることだと思う。筆者は面白がっている。いつもの文学的理解だ。NGNで何が,どんな料金で出来るのか,ユーザーにとって何がうれしいのか,デメリットは何かを調べ,考える。詳しい仕組みなど知る必要はないが,原理的なことは知っていた方がよい。

 もっとも安直な興味はイーサ通信機能の料金がいくらになるか,ということだ。機能的には現在の広域イーサネットと変わらないのだが,今と同じ速度で安くなるなら移行するだけでコスト削減できる。今と同じ料金を払って速度が10倍になるなら,エンドユーザーに快適なWeb閲覧を楽しんでもらえるし,ストレージの集中や社内TV電話/TV会議の多用も簡単になる。

 NGN対応のサーバーや端末の利用も,企業ネットワークが起爆点になる可能性が高い。なぜなら,企業内なら端末の仕様(クライアント・ソフト)を統一して,一気に導入できるからだ。コンシューマの世界ではNGNでTV電話が使える,と言ってもNGN端末がかなり普及するまでは,使える相手がいない。

 一つの企業ネットワークを見たとき,2~3年のうちにその全体がNGNに置き換わることはないだろう。しかし,NGNを使うべき領域がまったくないということも考えにくい。どんな領域で,どんなアプリケーションにNGNを使うのが有利か。ここではNTTのNGNしか触れなかったが,KDDIやソフトバンクのNGNも含めて,我々ユーザーには「選択」という楽しい仕事ができた。

三千院での昼寝

 旅行の二日目は,洛北の大原三千院を訪ねた。大原と言っても,原っぱがあるわけではなく山の中だ。標高があり緑陰も多いため,平地より2~3度は涼しく感じられた。

 4年前の夏は比叡山延暦寺の宿坊で昼食を取り,昼寝をした。それがあまりに気持ち良かったので,今回も昼寝が出来るところを予約した。門前にある温泉旅館だ。三千院を見学した後,ゆっくり露天風呂につかり,広い座敷で昼食を取った。そのままざぶとんを枕にゴロンと横になった。