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 私はオフショア開発をいろいろなやり方でマネジメントしてきました。その一つが,一人の担当者にプロジェクト開発全体を任せる,つまり技術面と開発計画・契約・交渉などのビジネス面の両方をみてもらうやり方です。これが日本企業の典型的なやり方になっていると思います。

 しかし,このやり方でうまくいかなかったことがありました。今回は,その失敗事例をお話しします。

開発に追われ、ビジネスの大局を見失う

 あるオフショアプロジェクトで,私は部下に技術と委託先の進捗を管理させながら,状況変化によっては委託先との契約も見直すように指示しました。担当者は,顧客からの要求仕様を海外委託先にうまく伝えて,オフショアの開発を進捗させるよう積極的にコミュニケーションしました。しかし,日本側が期待するように現地のソフト開発が進まないのでいらだってきました。

 さらに,現地の開発技術者が突然退社したこともわかりました。担当者はなんとかプロジェクトを回復させてうまく進めようと,自分の力の範囲内で現地プロジェクトマネージャーに開発管理の強化を要請すると同時に,目前の対応に埋没していきました。

 そうなると,この担当者には,海外のオフショア開発が現在どのような状況にあり,今後どのように変化する見込みなのかという大局が見えません。周囲の関係者や上司は状況がわからず,対策もとれませんでした。そして契約の見直しもずるずると遅れてしまいました。

 結果的にプロジェクトは行き詰まり,現地から「本プロジェクトから手を引きたい。委託費は要らない」との連絡が入ってきました。その後の対応は以前お話ししたとおりです。

 またあるケースでは,顧客からの仕様変更要求の多い開発プロジェクトにおいて,担当者に開発と契約の両方のマネジメントをさせたことがあります。その担当者は顧客からの仕様変更を柔軟に受け入れ,海外での仕様変更対応をどんどん進めました。そして当初の契約内容の見直し(変更)をしないまま,開発を完了させる段階まで来てしまいました。

 その後,海外委託先より「当初の委託内容は○○,納期は△△であったが,日本側の要求に従い変更対応した。途中で契約見直し(費用増加)について担当者に連絡したが,その回答がないまま,今日,開発完了となった。ついては,××ドルの追加費用を支払ってもらいたい」との連絡が入ってきました。

 この費用交渉にはかなりの時間を費やしました。開発については何とかマネジメントできたものの,ビジネスについてはマネジメントできなかったわけです。そもそも海外アウトソーシングは収益向上を求めて実行しているものであり,慈善事業ではありません。開発が成功してもビジネスとして成功しなければ,そのプロジェクトは成功したとは言えません。

技術とビジネスのマネジメントを分け,責任の所在を明確に

 先に述べたように,一人の担当者にすべてを任せるやり方は,プロジェクトの要素が少なく,かつ取り巻く環境の変化が小さい場合などにおいて,プロジェクトを成功させることができました。しかし,見えない部分や変化の多いオフショア開発では不首尾に終わることも多くありました。

 海外プロジェクトをマネジメントするよいやり方はないものだろうかと考えていたあるとき,米国の契約書を目にしました。そこには,以下のような内容が書かれていました。

 「プロジェクト管理については,管理コーディネーション(Administration)Manager 1人と,製品開発(Product Development)Manager 1人の計2人で対応させ,ビジネス面と技術面の両方で漏れのないようにする。プロジェクトごとにそれぞれのManagerの氏名を明記し,責任の所在を明確にする。さらにパフォーマンスや目標が未達成の場合,問題が発生した場合の対応を明確にする。まずProject Managerが対応し,それで満足のいく結果が得られない場合,Vice Presidentレベルで対応し,それでも駄目ならTopレベルで対応する」。

 日本の場合は,担当責任者が,部長や経営者の意向を酌み取り,海外側と交渉します。担当責任者がいろいろなレベルの役割を担っているので,海外側からみると,一体どのレベルの話になっているかがわからず,問題になることもあります。

 インドや欧米企業との取引では,技術とビジネスのマネジメントの分離と牽制がとてもはっきりしていました。海外の技術担当と要求仕様や開発計画を打ち合わせると,その後で海外側のビジネスマネージャーが契約確認を求めてきました。

 プロジェクト責任者が顧客の要求や顔色を見ながら,妥協して開発を進めるのでは良い開発成果は得られません。技術とビジネスの両面で最善のものを求め,同時に牽制しながら,より良い対応を図ることが大切です。日本国内の取引では,この2つの窓口は分かれていますが,海外対応となると外国語や海外事情に精通した担当者にすべてを任せてしまうケースが多く見られます。

 技術とビジネスの両面のスキルや能力をもつ人材が最適ですが,両方を備えている人材はあまり多くいません。しかし技術かビジネスのいずれかに精通した人材は多くいます。これらを合理的に組み合わせたうまいやり方が求められています。

 海外アウトソーシングがうまくいかない事例をよく耳にします。海外や日本側に様々な問題があることも事実ですが,それらの課題や変化に対応するマネジメントを実行することが重要なのではないかと思います。

 実際に,私は技術とビジネスの両面を分けたマネジメントを実行しています。そして当面の短期対応と同時に,中期展望で海外委託先の経営状況や社員のモチベーション,離職状況を把握しながら仕事を進めると,以前よりも海外対応がうまくいくことを実感しています。皆様,どうぞ欧米流のやり方も試して下さい。


ベトナムのホーチミン市内。道にはオートバイが溢れている
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