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 「ソフト技術者の転職希望者が減っている。感覚だが、2年前の4分の1くらいだ」。人材紹介会社、平成ビジネスアソシエイツの田川和宏社長は最近、優秀な技術者探しが困難なってきた状況を説明する。

 ソフト業界の転職希望者は他産業に比べて高い。総務省の労働力調査によると、全産業の平均が9.7%に対して、ソフト産業は16.8%と倍近い。転職したい大きな理由は(1)給与が安い、(2)残業が多い、(3)体力的に厳しい、(3)上下関係でギクシャクするといった対人関係や職場環境、などと言われている。

 しかも、学生からは「3K職場」と見られて敬遠される傾向にあるし、在職者の中にはソフト会社の先行きに不安を抱く人も少なくないという。つまり、期待した人材を確保するのが難しい状況になっているのだ。それを打開する早道は、退職者を減らすことだろう。「転職されては困るので、技術者を優遇するなど囲い込みを始めた。これが転職希望者をさらに減らした」(田川社長)。経営者らは給与を少し上げたり、配置転換させたり、いわば即効薬的な手段を講じる。その効果かどうかは分からないが、実際の退職率は6%弱(情報サービス産業協会調査)にとどまっている。

 しかし、効果の出た策は、どうやら給与や配置転換ではないようだ。技術者の最優先課題は、給与より自分自身のキャリアアップに関心がある。「こんな仕事を続けていいのだろうか」「今の技術レベルに満足してていいのだろうか」と、技術力のない技術者の価値がなくなることを知っているからだ。これを解決するには、ソフト会社の経営者がITサービス産業の中でどんな方向に進み、そこにはどんな技術が必要となるのかを明確に示すことだ。それを具現化するのが、教育制度の整備、資格取得の推奨などになる。

 多くの中堅・中小ソフト会社の経営者からは、「そんなことは分かっている」と言われるかもしれないが、例えば教育制度を充実させることができるほど時間的にも金銭的にも余裕がないのが現実だろう。だが、それでも、そうした機会を創出できないソフト会社を、技術者は「自分のキャリアを伸ばしてくれそうもない企業」と不満を募らせ、退職してしまうかもしれない。もちろん将来性のある仕事に就いていればいいのだが、古い技術に塩漬けされたままの若手の技術者はどう思うだろう。不安が増すのではないのだろうか。

技術レベル向上の絶好チャンスを思うこと

 人的資源が豊富な大手ソフト会社は人事ローテーションなどで、技術者を辞めさせない工夫を凝らせるだろう。だが、中堅・中小ソフト会社の場合は、新しい仕事を含めてソフト開発依頼はたくさんあるものの、技術者をなかなか増やせない。ブランド力のない中小は大手以上に新卒採用も中途採用も難しい。技術者のキャリア育成の方向を示せなければ、優秀な人材は安定し、かつ技術力を磨けるソフト会社に転職してしまうだろう。

 「だからこそ、質を落として量に走ってはいけない。ますます経営環境を悪化させるだけなので、懸命な経営者は採用しない覚悟を決めている」(田川社長)。売り上げが落ちても、例えば5人で請け負っている今の仕事を4人でこなす。1社からの取引量を増やす。そして、生産性を高め、利益をなんとかキープしながら、1人を新しい技術習得に当てる。顧客企業が単価を下がることしか考えていない中で、質を無視して量だけに走ったら、いずれ人件費というコスト増が大きな問題として降りかかってくる。

 そのためにも、技術者1人ひとりの技術レベルを向上させることが肝要になる。確かに優秀な技術者ほど今の現場からはがして、新技術習得などの教育を受けさせることが難しい。代わりがいないからだ。しかし、それでもそれを実行させなければ、その優秀な人材は転職してしまい、そのソフト会社の技術力も失うことになる。経営者はユーザーや業界の動向を見極めながら「こうした技術者を育成する」という強い信念を持つ。それが企業間格差になるし、迫る中国やインドとの競争に打ち勝つことにも通じるはずだ。

注)本コラムは日経ソリューションビジネス06年7月15日号「深層波」を加筆したものです。