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 8月14日のお盆休みにNIKKEI NETに掲載された記事「SNSのミクシィが9月14日に上場――時価総額1000億円超も」を読んで仰天した人も多いでしょう。

 ITproの読者はさておき,多くのビジネスパーソンにとって耳慣れない名前の会社が,時価総額1000億超の価値というのは驚きだったはずです。さらに驚くことに,この会社の売上高はまだ18億円しかないのです。

 ご存知の通り,SNSはソーシャル・ネットワーキング・サービスの略であり,ミクシィはmixi というSNSを運用しています。なぜ,この新しいネットサービスが,ここまで注目を浴びているのでしょうか?それは,人々のライフスタイル,時間消費,情報消費,さらには商品・サービスの消費まで,ゆるやかに一変させてしまう可能性を持っているからでしょう。

 今回は,企業経営者やマーケターが,mixiに代表されるSNSをどう捉え,どのように活用すれば良いか,考えてみましょう。


日本におけるSNSのデファクトスタンダード

 私がSNSをはじめて体験したのは2004年1月,あのGoogleの社員であるOrkut Buyukkoktenさんが始めた「orkut」です。このサービスが始まって間もないころ,私のもとにも親しい友人たちから招待メールが届いたので,さっそく参加してみました。もちろん無料です。

 友人たちの思いがけないプロフィールや交友関係がわかったり,友人のまた友人とも気軽に親しくなれる体験は刺激的ですらありました。さらに,同じ趣味や関心を持つ人たちのコミュニティに参加するようになると,ますます交友関係が広がり,そこが自分にとってさらに居心地の良い場所になっていくのです。

 SNSには様々なタイプがありますが,Orkutやミクシイの基本は,こうして招待状が届いた人だけが参加できることです。例えば,ミクシィの新規登録ページをクリックすると,「健全で安心感のある居心地の良いコミュニティを醸成して行きたいという想いか ら,招待なしでの新規登録は行えない仕組みになっております」という注意書きを目にすることでしょう。

 といっても,心配する必要はありません。選ばれし人だけが参加していた,SNS創世記とは違い,mixiを楽しんでいる人は,すぐ身近に見つかるはずです。それは,必ずしもIT関係者やネットワーカーではありません。むしろ「フツーの人たち」,女性のケータイユーザーからシニアまでを会員=主役にしてしまったことがmixiのすごいところなのです。それこそが,同じSNSとはいえ,Orkutと似て非なるところでしょう。

 また,かつて私も慣れ親しんだニフティのフォーラムとも違います。mixiは,その道のプロや思い入れたっぷりの上級ユーザーが激論を交わす場ではないのです。


「mixiと第二世代ネット革命」の特徴

 先日,早稲田大学IT戦略研究所根来龍之先生と再会して,ご教示を受ける好機がありました。先生は,ちょうど9月7日発売の「mixiと第二世代ネット革命」という新著を上梓されたばかりでした。

 この本の帯には,「“バーチャル”と“リアル”の融合 SNS参加者の行動パターンはどのようなものなのか?無料サービスは,どのような収益モデルによって成功できるのか?-ビジネス・生活に大変動をもたらすネットコミュニティを詳述した待望の本格版」とあります。

 “バーチャル”と“リアル”の融合と聞いても,この本を読んでいない方,特にSNS未体験の方には,ピンとこないかもしれません。しかし,実際に顔を合わせたことのある気の合う人同士,信頼に足るリアルな友人同士が,たまたまバーチャルなSNSという便利な交流の場を知り,毎日当り前に活用していると考えると分かりやすいでしょう。

 思い起こせば,インターネットなど無い時代から,私たちは日々のおつきあいの中で,無意識のうちに信頼に足る友人と,そうでない人を分けていました。そして〇〇の情報なら,実際に使っている□□さんや,詳しい△△さんに聞こうという行動を自然に繰り返してきました。

 このひそかに慣れ親しんだ無意識の情報活動を,ようやくフツーの人がネット上でも,気軽に,時間や空間の壁を超えて楽しめるようになったのです。そこには,特別なIT知識も道具も必要ありません。いつしかケータイメールが使いこなせるようになったように,SNSも友人の勧めで気がつけば使えるようになっていた,というのが実感でしょう。

 SNSで交わされる対話も,日本の将来や専門分野に関する特別な議論ではありません。パスタを食べるなら新しくできたあの店がいいとか,液晶テレビを買うなら〇〇製を□□店で買ったらいいといった具合の,まさに日常的でリアルな話なのです。

 マーケターにはおなじみの普及学「イノベーター理論」風に言うならば,イノベーターやリーダー中心だった第一世代のネットワーカーに代わって,アーリーアダプターどころかアーリーマジョリティまでのフツーの人たちが,mixiなどの第二世代サービスを愛用して,ネットをわがもの顔で闊歩(かっぽ)するようになったのです


既に専門誌を超える広報効果も持ちうる

 今,mixiのトップページを見ましたら,ちょうどユニクロがトップページに全面広告を打っているところでした。無料サービス企業ミクシィの売上18億,利益9億の源泉は,圧倒的な集客を誇るトップページなどへの広告です。広告予算を大量に使え,ブランド価値をある程度確立している企業は,こうしたオーソドックスな広告展開を考えてもいいでしょう。

 しかし,mixiの本質的な広報力は,ネットコミュニティ発のまさにクチコミ・ネットコミの集積と拡大に他なりません。

 先日,Tシャツの世界では高名なネットコミュニティ「東京Tシャツ部」のクラゲさんと食事をしている時に,mixiのネットコミ力について話題になりました。専門誌などの広告やパブリシティよりも,mixiの中でのちょっとした書き込みの方が広報効果が高いことが話題になっているという話でした。

 例えば,東京Tシャツ部でも,自由が丘で「Tシャツ美術館」というイベントを開催した時,自由が丘が大好きな人が集まるmixiのコミュニティに書き込みをしたところ,かなりの集客があったということでした。

 実際にお付き合いがあったり,同じテーマでいつもネットで顔を合わせていたりする信頼感の高いコミュニティで,信頼できる人が情報発信をすれば,こうした強力な広報効果があっても自然でしょう。

 ミクシィが今後,SNSの潜在力を生かしてどんなビジネスを展開していくかも興味深々です。しかし,そのテーマは根来先生の本にお任せするとして,ここでは企業経営やマーケティングに活かす方法を考えましょう。


企業内のmixiユーザー有志でTEAM mixi結成

 もし私が,大企業の宣伝・広報担当者だったら,まずは自分自身がmixiのヘビーユーザーになって,コミュニティ特有の心理を学ぶでしょう。どんな人が好かれ,どんな人が嫌われるか,どんなテーマなら盛り上がり,どんな書き込みだとさめてしまうかなどは,実際に体験しないと分かりづらいからです。

 その上で,社内報やイントラネットで,社内のmixiユーザーを募集します。

 第一の条件は,mixiが大好きで,いくつものコミュニティに属しているような人。コミュニケーション能力を重視しますので,それがどんなコミュニティであっても構いません。もちろん,主力商品あるいは新商品のターゲットと重なっていれば言うことはありません。

 そして,もう一つのポイントは,自社商品もそこそこ好きで,自分自身でも「自腹で」購入,愛用していることです。いわゆる,旧来からの猛烈な忠誠心や愛社精神は不要です。熱血コメント,商売づくの書き込みは,むしろコミュニティで浮いたり,ドンビキされてしまうからです。「今まで実はライバル商品使ってたんだけどー,自社サンプルを使ってみたら,意外によくてー」というぐらいのリアルな生活者感覚が大切でしょう。

 そして,10人でも50人でも構いませんが,TEAM mixi(チームミクシィ)を結成しましょう。


TEAM mixiの価値を社長が認め,情報交流に参画する。

 TEAM mixi結成後も,やるべきことは決して多くはありません。社長と担当者が,mixiのインパクトを正しく認識できれば,ほとんど成功したも同じです。

 まずは,TEAM mixi一同と,社長や宣伝広報担当役員など,普段会えないキーマンとの昼食会をセットしてください。その場で,企業のキーマンが,「新聞・雑誌広告やテレビCMも大切だが,TEAM mixiのみなさんの自然な書き込みが,私たちの企業のブランドイメージにとても重要である」ことをTEAM mixiへ素直に伝えて,「よろしくお願いします」と頭を下げて欲しいのです。

 加えて,新製品サンプルのファーストユーザーになっていただきたいこと,勤務時間中のオフィスでも,一定時間はmixiを使っていいこと,さらにmixi手当を支給することなどの特権を差し上げてください。ただし,宣伝くさいことは書かなくていいこと,むしろコミュニティメンバーのリクエストを聞いたり,質問を引き出して欲しいと付け加えることもお忘れなきように。

 さらに,宣伝広報担当者は,TEAM mixiが活躍するコミュニティに時々顔を出しつつ,必要に応じて随時報告や相談を受けます。そして,出来れば1カ月に1回,それが無理でも2カ月に1回は定期的にトップとTEAM mixiのランチミーティングで,「ネットの中で起きていること」を経営陣に直接伝えて欲しいものです。

 トドメは,TEAM mixiが「ここぞ」と感じた時に,社長や宣伝広報担当役員,商品開発担当役員が,mixiに登場することでしょう。きっと,mixiのコミュニティメンバーにも驚かれ歓迎されるはずです。TEAM mixiが推薦するコミュニティメンバーを招いた会合などを開いて,率直な意見を伺うのも妙案です。

 さて,ここまで実行できる経営者とマーケターは,何人いらっしゃるでしょうか?