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 「CIOが自身の役割を認識していない」。最近、こんな苦言を呈するIT業界関係者が増えている。コスト削減に邁進する姿しか見られなくなったからだろうか。確かに、IDC Japanの調査でも、「コスト削減」を最優先の経営課題に掲げるCIOがダントツに多い。2位の「財務体質の改善」の4倍近い。最高情報責任者とか情報統括責任者と訳されるCIOだが、よく見ればシステム投資からシステム導入、そしてシステム問題発生時の解決などにあたることが主な活動になっている。だからか、同調査で、「ITの技術革新・変化の対応」や「システム運用・管理費の削減」がIT課題の優先度で高くなっているのかもしれない。

 その一方で、「経営にITは不可欠な時代」と言われ、CIOは投資対効果を強く求められる。例えばIT投資に10億円投じれば、経営者から「何が変わったのか」「業績に貢献できたのか」などを問われる。投資金額に対する効果が評価になっているからだ。目標の効果を達成できず、使い勝手の悪いシステムがダウンすれば、CIOは経営者らから徹底的に非難される。社内でいじめられ、出社もつらくなるCIOも出てくるかもしれない。

 だが、CIOはそうしたシステム導入にまつわる現場部門の総責任者なのだろうか。NTTデータグループの経営コンサルティング会社、NTTデータビジネスコンサルティングの宋修永インダストリーソリューション本部長は「IT部門の親玉ではない」と否定的な意見を持つ1人だ。サムスン電子など日韓企業で多くの業務改革や改善活動に取り組んできた宋氏は、今のCIOはシステムありきの発想になっているように見えるという。「経営戦略に基づいて、IT戦略を立案し、情報システムを構築するだけのCIOは失格だ」(宋氏)。業務プロセスなどの経営改革が伴わないIT化は、経営戦略上から役に立たない、使われないシステムを作り出してしまう。システム投資の4分の1から3分の1がそうなっているという説もあるくらいだ。

 では、CIOに期待されることは何か。宋氏は「企業競争力を高めるためのマネジメント力を向上させること」と説く。「企業の競争力は営業力、技術力、生産力と思っているが、ここで差異化するのは難しい。むしろ会社内部の問題と思われているマネジメントの能力こそ差異化の大きな要因になる。デルを見れば明らかだ。単にパソコンで差異化しているわけではなく、生産というマネジメント力で差異化を図っているのだ」(宋氏)。

マネジメント力を向上させるのが役割

 マネジメント力向上策の1つは、業務の責任所在を明確化することだ。例えば、在庫の責任は営業部長になのか、製造部長なのかだ。在庫の数量、在庫の破棄などを誰が決めているのかをはっきりさせることがマネジメント力の向上になると思う。経営者が誰をどう評価するのかと言い換えることもできる。だから、「経営者は、在庫が増えたことを叱責するのではなく、責任者に在庫が増えたことに、いつ気がついたのか。そしてどんな行動を起こしたのかを聞く。この回答こそがマネジメント力の向上につながる」(宋氏)。責任者をただ怒っても何の意味もない。萎縮したり、他人に責任転嫁したりするだけになる。

 そのためには(1)役員や社員の意識や組織風土を改革する、(2)会社内で今起きている問題など、経営の意思決定につながる正しい情報の「見える化」を促進する、(3)マネジメントを評価できる仕組みを構築する、(4)PDCAサイクルを確立する、などになるだろう。業務改革を実行する際、役員や社員の間に温度差が表れる場合が少なくない。変革リーダーの経営トップらは何でも取り組もうとするが、それに積極的に協力する役員、社員がいる一方で、「どうでもいい」という無関心派、「変える必要はない」という抵抗勢力派まで出てくるのが現実だ。

 「一般論だが、80~90%が当事者意識を持っていない」(宋氏)。こうした役員や社員を改革の協力者にさせる環境作りもCIOの役割になる。業務改革や組織改革、そしてITを導入したものの、役員や社員の意識が変わらなければ、経営改革の効果は表れない。「業務改革せざるを得ない」「協力せざるを得ない」状況を作り出し、そしてマネジメント力を高められる情報を収集できる仕組みを構築する。

 ここにITを利用する。だからCIOがシステムありきの姿勢では、業務改革の効果は出ない。宋氏はそう言いたいのだ。

注)本コラムは日経ソリューションビジネス06年9月15日号「深層波」に加筆したものです。