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 在庫マスターにモノがなければ,現物が目の前に置いてあっても売れません。夏が到来しシーズンになったら,現場のサービス課長から一斉に電話です。「バカヤロー戸並を出せ!」メチャクチャ言われました。トヨタ販売店サービス業務のオンラインシステムの成功は,Yさんの功績です。私はその尻馬に乗っていただけと痛いほど分かりました。

 完璧なITであっても,所詮,ITはビジネスプロセスや人間系のインタンジブルズ(無形資産)をパワーアップするツールに過ぎません。それを思い知ったのです。現場ユーザーのリテラシーと端末環境を考えなかった私の考慮不足がトラブルの原因です。これらは今,私のSE研修の問題にしています。私の研修はこんな実際の問題がケ-ス問題小問題として約50問ほど用意されています。

 IT化以前の棚卸は予定原価制度で行っていました。原価率を決めて毎月原価処理をしていました。期末実地棚卸で在庫が確定した段階で,当期払い出された原価が確定します。予定原価と確定原価の間には,当然差異があります。アータラコータラの理由付けで,今までそれらしく決算をしていたのです。現物の個数管理は経理的にはノ-チェックだったのです。大きな声では言えませんが,「バッテリー良いのない?」と懇意な社員から問い合わせを受けた在庫責任者が,裁量で何とかしてしまう。こうした,とんでもない杜撰な処理も間々あったのです。こんな些細な詰まらんことでも会社が見過ごしていたら,業務品質向上のマインドは喪失します。

 本部や経理にも「ITで何とか適正な業務処理をさせよう」との思いがあり,当時としては敢えて厳しいシステムを作りました。本部や経営のトップダウンで押し切り,現場の成熟度を無視したのです。不評のもう一つの原因は,端末環境がプアー過ぎたことです。当時の端末は200万円以上。営業所に1~2台ずつです。そんな中で,コンピュータと適宜対話をしなければならないインタラクティブなシステムは運用できません。

 GE製品は営業所間の移動も多かった。依頼→発送→受領といった手続きを経て,自営業所の在庫にならなければ売れません。各ステータスの入力をも要請した完璧システムです。完璧過ぎて使えないシステムの見本です。そんな現場ユーザーのリテラシーや運用環境を無視した唯我独尊のシステムって多くないですか?

 しかし,この完璧?システムは大活躍をしたのです。GE製エアコンからトヨタは早々と手を引いたのです。在庫品は全て売り切ってしまわねばなりません。普通なら原価割れのダンピングです。しかし,全拠点の正確かつリアル在庫が分かります。機種ごとの売れ具合と在庫を見て,値引き幅は本部が完全管理しました。現品しかありませんから,値下げの必要のない売れ筋品もあります。寮や法人への一括販売は,正確な台数を回答しました。結局,最後の1台になるまで適切な価格で売り切り,想定外の利益を上げたのです。当時の担当部の部長から大いに誉められましたネ。安価なGEエアコンスキニーを数台購入したのは言うまでもありませんが,殿(シンガリ)での活躍です。ほろ苦い思い出でもあります。失敗経験は人間を成長させます。その後,IT導入後の事務処理を克明に考えるようになりました。Yさんの領域に少し近づいたのです。でもITシステム自体へのYさんの評価は高かった。

 当時を振り返ると,2種類のタイプがいました。変化を好み好奇心や問題意識があるイノベータと受動的な保守主義者の集合です。前者は少数,後者は大多数です。構築SEでも派遣SEでもヘーチャラな種族です。ITベンダーの経営者も同じです。世の中は,少数の独立者と多数の従属者ですから。主に育った環境や脳の構造ですから,変化は至難です。

 私がいたシステム部門は1980年代のスピンアウトの流れに乗って,その後,情報子会社に分社化しました。今,その会社の従業員数は300人です。優秀なSEが10人欲しいとYさんは言っていました。当時のイノベータ比率は2:8ではなく,1:9。今は何と,0.2:99.8なんです。S君とK君はその中の2人ですから,寒々しい状況です。どうしてそうなってしまったんでしょう。