![]() 図1:「ヒューマンレコーダ」のセンサには,医療電子科学研究所が開発した超小型の生体センサを使う。重量が11gと軽量で,腕や胸に貼り付けることができる [画像のクリックで拡大表示] |
飛行機には,必ずフライトレコーダを装備することが義務づけられている(航空法第61条)。また大きな船にはボイジレコーダの装備が義務づけられている(海上船舶安全法)。最近は自動車でも,ドライブレコーダの普及に向けた取り組みが安全対策・事故分析調査の両面から盛んである(注1を参照)。
産学共同のプロジェクトチームが発足
さて,それでは人間にも,生体として発する情報(バイタルサイン)を検出し,バイタルデータとして記録する装置が必要になるはずである。しかも最近のマイクロデバイスの技術進歩からみて,ウェアラブルなレコーダが実現できる。私はこれを「ヒューマンレコーダ」と名付けてみた。
ヒューマンレコーダは,24時間,365日絶え間なく人間のバイタルサインを検出し,記録するウェアラブルな装置と定義する。心電計や体温計や加速度計などをチップ化したセンサから携帯電話へと微弱無線で送信し,携帯のメモリに一旦蓄積して,さらにはパソコンに転送して生体データを蓄積するシステムである。
このような装置を実現するためにWINでは,2006年10月4日にバイタルケアネットプロジェクトを新しく発足させた。メンバーは東大医学部,東大工学部,東京理科大MOT,産業技術総合研究所,NTT,モバイルキャスト,医療電子科学研究所などの団体から成っている。
センサを含む要素デバイスとしては,医療電子科学研究所が開発した超小型の生体センサを使う。このセンサの重量は11gと大幅に軽量化されており,図1のように腕や胸にはり付けることが可能である。
今後は適用システム設計と仕様書の作成,システム構築,サービス実験などを進める予定である。
環境保全や事故防止にも応用
ヒューマンレコーダは,私が1991年頃から提唱してきたネイチャーインタフェイスの世界を実現するセンサネットワーク端末(ネイチャーインタフェイサ)の一形態である。
ネイチャーインタフェイサとは,各種の情報をとらえるセンサと,A/D変換して認識処理する腕時計サイズのコンピュータと,この情報を無線で発信するデバイスで構成される。このときのキーとなる技術は,入力情報が意味のある情報か否かを判断して,その採取を続けるかスリープモードに入るか切り替えるといったソフト的技術とハード構成技術の両輪によって,全体の消費エネルギを最小にする技術である。
このような技術の最先端は腕時計にある。図2は,これらの技術を応用することによって,地球上を動き回る人間や動物のバイタルサインをモニタして健康を維持したり,化学物質の検出など地球環境情報の検知によって環境保全に役立てたり,構造物,機械,移動体などの運動する人工物の劣化状態を検知して大事故を未然に防止したりといったサービスを展開していくイメージである。
![]() 図2:ネイチャーインタフェイサの技術を応用したサービスのイメージ。生態系の観測や環境保全,事故防止などに役立てることができる [画像のクリックで拡大表示] |
注1)国土交通省自動車交通局:平成16年度映像記録型ドライブレコーダの搭載効果に関する調査報告書(2005)