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 産業の国際競争力向上に欠かせない、科学技術立国に必要だ----。10ペタFLOPSという世界最高速のスーパーコンピュータ開発について、ノーベル化学賞を受賞した理化学研究所の野依良治理事長らが語った意義だ。2006年9月19日に開催した「次世代スーパーコンピューティング・シンポジウム2006年」での一コマである。

 最近、こうした話をあちこちで耳にする。日本のIT産業の技術力や製品開発力が落ちることで、製造や金融、流通をはじめとする各産業の国際競争力が低下しかねないという危機感が根底にある。確かに、ITが行政や教育、医療などを含めた社会インフラ化した今、海外製品への依存度の高いITインフラのままでいいのか、という声は上がっている。ITに関連する技術力の低下はIT産業の問題だけに留まらないというわけだ。

 そこで、世界に通用する製品やサービスを「オールジャパンで開発しよう」という機運が盛り上がってきた。理研を中心にした次世代スーパーコン開発プロジェクトはその1つである。経済産業省が後押しする検索エンジンを開発する情報大航海プロジェクト、自民党の国会議員で構成される情報産業議員連盟が推し進めるIT産業の国際競争力強化策でもあるUOP(ユビキタス・オペレーティング・プラットフォーム)構想、日本経済団体連合会が05年に打ち出したソフト技術者育成策の「高度情報通信人材育成」など、ITに関連するプロジェクトや構想が数多く並行して走っている。業界団体の電子情報技術産業協会が7月に提言した「情報システム産業ビジョン2016」も基本的な考えは同じであるし、総務省も情報通信産業の国際競争力強化に向けて動きはじめた。

「日本製CAD/CAMを」という声も

 これらプロジェクトに共通するには、産学官の連携による技術開発やそこに必要な人材育成、そして富士通やNEC、日立製作所など大手ITベンダーが参画していることだ。しかし、各産業の国際競争力をつけ、そしてIT産業の育成につなげようとしているにもかかわらず、それぞれのプロジェクトの関係性は薄く、バラバラに取り組んでいるという印象である。行政の縦割りの影響もあるのだろうが、そもそも海外から主要な技術を調達することに慣れてしまった日本のIT産業にリスクを負ってまで新しい技術や製品を開発しようとする気概が残っているのだろうか。利用者であるユーザー企業は国産製品に強くこだわっているだろうか。

 同シンポジムで講演した日産自動車の鈴木盛雄統合CAE部長は、スーパーコンを使った衝突解析によるシミュレーションで新車開発の効率化などのメリットを指摘したものの、そのシステムを構成するハードやソフトが国産であることの必要性には言及しなかった。利用技術が問題なのであって、システムの構成要素が国産か輸入かはそれほど重要視していないユーザー、業界はあるだろう。

 その一方で、自動車や電機などでは、日本製CAD/CAMの必要性を訴える声も根強い。日本のモノ作りに影響するからだという。「設計から生産まで深くかかわるノウハウがCAD/CAMに蓄積される。それが海外に流れてしまう」というロジックだ。ここに、各産業とIT産業の国際競争力の強化に向けたプロジェクトを立ち上げる意味がある。

 国産ITを育てようとする施策が必要か、不要かと単純に質問されれば、誰もが必要と答えるだろう。だが、e-Japan戦略を振り返ってほしい。投資効果を測ったのだろうるか。ITインフラ作りからITの利活用に移ったものの、その利活用が進展していないからだろうか。その結果、「大手ITベンダーだけがこれらにまつわる投資で潤った」と見られてしまう。各社の業績は悪化しているのだ。期待した効果を出さなければ、「無駄な投資である」と誹りは免れない。

 次世代スーパーコンのプロジェクトでは、計算機能を有効活用するための共同利用も検討しているものの、開発成果が利用者の技術力向上や業績向上の貢献したのか、IT産業のグローバル展開、製品開発力に効果があったのか、などを検証し続けることを忘れてほしくない。次々世代のスーパーコン開発計画でも、それが問われるだろう。目的を明確にし、他のプロジェクトと連携しながら、産業に役立つものにしていく。そうできなければ、他産業から支持を得ることは難しい。

注)本コラムは日経コンピュータ06年10月16日号「ITアスペクト」に加筆したものです。