PR

 先日,デジタル研究所の亀田武嗣さんが応援している青森県八戸のうまいもん発信&通販プロジェクト「おあがりゃんせ はちのへ」の講演会に招かれました。地域振興のために集まった地元の役所・商工団体・企業・大学関係の有志の前で,ブログ活用の方法をお話する好機をいただいたのです。

 常日頃,私も,東京商工会議所「墨田ブランドアップ会議」のメンバーとして,ブログを何とか地域振興に生かせないか考えています。会議のメンバーは,主として2011年に開業が決まった新東京タワーについての情報を中心に,観光情報を発信しようと考えているところです。

 しかし,八戸では,組織の壁を越えて勉強会が続けられ,通販用の商材開発から始めていると聞きました。その試みが,わが地元墨田区でも活かせるのではないかと期待しながら,八戸に向かったのです。

 そして,八戸で目にしましたのは,まだ芽生えたばかりの「新しい企業連携モデル」でした。そこではブログが重要な役割を果たしていたのです。

事前にガイドで調べた「八戸情報」は「せんべい汁」優位

 八戸を訪ねる前に,旅行ガイドの数々で情報を収集しました。しかしながら,どのガイドも八戸に多くのページを割いてはいませんでした。

 今でこそ,東北新幹線の終着駅として,八戸は青森や十和田・奥入瀬観光の基点になっています。しかしこれでは残念ながら,旅の一通過点になってしまうかもしれません。ましてや,新幹線が青森や函館に延伸された後が心配です。

 一方,ネットで調べても,旅好きの私の胸がときめくようなコンテンツは限られていました。

 唯一,テレビの全国放送でも紹介されるまでになり,1度聞いたら忘れられないオフィシャル応援ソングまで発売された「せんべい汁」だけが気を吐いているように見えました。

 「せんべい汁研究所」のホームページからは,ライブドアで書かれた汁研ブログにも飛ぶことができます。イベントやマスメディア登場の案内を中心に,まさに日記風に綴られたサイトです。

 また「進め!八戸せんべい汁推進委員会」というブログも見つけました。郷土愛にあふれた「なかちっぱ」さんのブログは,写真も多用した読みやすいものでお勧めです。

 しかし,私が八戸で感動したのは,その先を行く創造的な試みでした。

シーフードシティ研究所 相模さんのブログが引き継いだ遺志

 八戸に着いてまず驚いたのは,東京から新幹線で3時間もかからないという事実でした。この時間距離の近さを,まず観光サイトやブログは特筆すべきでしょう。

 駅には,有給休暇を取ってまで,この勉強会に関わる八戸市役所の相模 将喜さんが愛車で迎えに来てくださいました。相模さんは,今回の商品開発と通販の原動力となあったシーフードシティ研究所のメンバーです。相模さんのブログには,以下のように,勉強会の趣旨と狙いがうたわれています。


 (シーフードシティ研究所は)平成16年度,八戸市政策顧問 鹿野谷武文氏により八戸市若手職員向けに行われた「起業家塾(通称:鹿野谷塾)」より,生まれました。

 ピーク時の三分の一にまで衰退した八戸の基幹であり伝統産業である水産業及び食品加工産業を,最新の理論と方法で復活させるため活動しています。若手職員の「再び活性化したい」という情熱にベンチャー育成,フードシステムなどの専門家が応える形で構想は作られています。

 これは,従来の予算・体制ありきからスタートするプロジェクト推進方式とは異なり,シリコンバレーにおける地域経済の活性化方式であるジョイントベンチャー方式ですすめられます。この方式で最も重要なことである,熱意に応える知識と信頼の輪の広がりを得るため,今回ブログを立ち上げました。


 残念ながら,文中にある発起人の鹿野谷武文さんは,今回の商品化実現を眼にする前に故人となられたそうです。しかし,その熱い遺志が,相模さんはじめ研究所のメンバーに引き継がれていることを,今回の勉強会で確かめることができました。

勉強会の前に,谷口板長による鯖の試食会

 勉強会場の市役所会議室につきますと,そこには,ようやく商品化までこぎつけた,しめ鯖と八戸で獲れた「八鯖」の味噌煮が用意されていました。八戸ニューシティーホテルで板長を勤める谷口さんが用意してくださったのです。

 講師特権で,最初にしめ鯖をいただきましたが,それは私がこれまで食べたどんなしめ鯖とも違う美味でした。限りなく生の刺身に近いけれども,青魚特有のクセがありません,こってりと脂がのりながらも,決してしつこくないのです。

 続いて,八鯖の味噌煮をいただきました。これが,また甘辛く濃厚な味わいで,中骨までやわらかく食べられます。魚臭さも気になりません。そして,嫌な後味が残らないのは化学調味料を使っていないからでしょう。

 その味わいにも感激したのですが,もうひとつ私が感動したのは,谷口板長の口上でした。夜の懇親会まで素朴な方言で語られ続けたのは,この味を出すまでに,いかに試行錯誤を繰り返したかという,文字通り「開発秘話」でした。そして,谷口さんの言葉の端々から,今到達したこの味に自信を持っていることが伺えるのでした。

 この味と谷口板長の口上をお聴きして,私は直感したのです。

 八戸で取れたこの八鯖が,通販でロングセラーになる第一の条件は「この深い味わいを,どれだけ多くのお客様がブログで語ってくださるか」にあるのです。そのためにも,谷口板長が,私に熱く語ってくださった口上を,そのままブログで伝える必要があります。

「おあがりゃんせ はちのへ」で谷口板長かく語りき

 ですから講演の中でも,この味を追求してこれまで苦労してきたプロセスを,魚選びから味付けにいたるまで,ありのままに書き綴ったブログが重要であることを強調いたしました。

 そして,商品予約受付開始のメールをいただいて,「おあがりゃんせ はちのへ」のブログを見たとき,本当に嬉しくなったのです。八鯖の味噌づくりというカテゴリーに,「谷口の悪戦苦闘」というシリーズ記事を見つけたからです。

 そこには,当日,私に熱く語ってくださった想いの数々が記されていました。それは,こんな書き出しで始まります。


●思い出の味を再現したい

 私は今年平成18年,50才になります。ホテルの板前を張って25年,毎日お泊まり下さるお客様に喜んでいただける食事を造らせていただいています。
 せっかく八戸まで来て下さった皆様に,地元の食材を使った料理を食べていただきたい。そんな気持ちで毎日板場を仕切っています。

 八戸の海産物は御存知のように,さば,いか,いわしなどが豊富で有名ですが,その一方で種類が少ないのが欠点なのです。ですから素材は最高にいいのですが,どうしても料理の献立が限られてしまいます。地元の限られた食材で,なんとかお客様に喜んで貰える料理はないだろうか?日々そんな事を考えていました。

 そんなある日,ふと子供の頃に食べたさばのみそ煮を想い出したのです。
 私が子供の頃に食べたサバミソは甘辛く,ご飯のおかずに最適でした。
 焼き魚の様に骨を取る必要の無い,骨ごと食べられるサバミソは,子供にも食べやすく,しかもその甘辛さが御飯にとても合うので大好きだったのです。

 夕方まで遊んでお腹を空かして帰ってくる道すがら,家の方からかすかにさばのみそ煮の香りが漂ってくると,夢中になって走り帰ったものでした。
 あの頃のさばのみそ煮の美味しさを忘れられずにいた私は早速板場で造ってみました。たしかに新鮮な地元のさばを使って造るさばのみそ煮は美味しく出来ました。しかし,あの,子供の頃に夢中になった母の味ではありませんでした。


 そして,いくつもの難問にぶつかって試行錯誤を繰り返したことが,ブログから伺えました。だからこそ,あの味が生まれたのです。鯖の味噌煮という,どこにでもある料理に,ここまでの情熱を注いだのかと思うと,あの時の美味がさらにいとおしく思えるのでした。

 ひとつの商品が生まれるまでの開発秘話をブログで書くことで,その商品は商品自体のハードの価値=この場合は美味しさ=のみならず,特別なソフトの価値=ブランド神話=を帯びるようになるでしょう。

鯖の目利き,ヤマヨの内田さんのおかげで美味が実現

 今回のプロジェクトが素晴らしいのは,相模さんのブログにあったとおり,シーフードシティ研究所に参加した有志企業が協力して商品が生まれたことです。

 自ら漁船を持ち,水産加工まで手がけるヤマヨが研究所のメンバーにいたからこそ,特別な鯖を特別な獲り方で確保し,さらに目利きが選別した特別な上物だけを入手できるのです。

 その鯖が特別なものであることを,「おあがりゃんせ はちのへ」のブログ「ヤマヨのシメサバ編」で知ることができました。


 さて,サバの漁獲方法はどのようになっているのでしょうか?ヤマヨの目利き 内田さんに聞いてみましょう♪サバの漁獲方法には,釣り,定置網,巻網がありますが,今回は巻網の漁獲方法です(中略)。

 入港見本荷揚げ。シートを張ったトラックにバラ積みして,見本とします。バラ積みしたサバはこの段階では仕分けされていませんので,その積まれた表面を見て,鮮度・餌食い・中心グラム数・ゴマサバの比率などを見分ける「目利き」というテクニックが必要になります。熟練したテクニックはその見本から,割合とゴマサバの比率を出し,買い付け価格を決定します。


 ひとつの商品であっても,素材の吟味から調味まで,各工程それぞれのスペシャリストの生活者の目には見えない心配りで,丹念に作られていることがわかります。

 これからは,ある商品のブランド価値を高めようとしたら,漠然とした商品イメージや仕様を伝えるだけでは不十分かもしれません。川上から川下までその商品に関わる特別な当事者の顔=生き方や仕事に対する想い=を伝えることが大切になるでしょう。

買い物カゴと決済・物流は「八食センター」が担当

 そして,通販成功のカギのひとつ,受注・決済・物流の業務につきましても,参考になる工夫がありました。地元の業者が一同に会する郊外型共同市場「八食センター」のネット通販に相乗りすることにしたのです。八食センターも今回のプロジェクトのメンバーであり,最初からこのような合理的な役割分担が決まっていたそうです。

 私も八食センターで昼食をいただく機会がありました。新鮮な海の幸,山の幸を市場内のお店で買い求める楽しみや,その場で食材を七輪で焼いて食べる醍醐味は言葉にできないほどでした。さらに,八食センターは,郷土の美味を全国のお客様にインターネット通販でお届けする仕組みを,既に確立しています。

 その通販の仕組みを活用して,今回の「おあがりゃんせ はちのへ」プロジェクトで生まれた期間限定・数量限定の特選商品が販売されるのです。この役割分担は,双方にとって大きなメリットがあります。

 八食センターからすれば,プロジェクト内の開発チームに商品開発と関連情報の発信をアウトソーシングしたことになります。逆に,開発チームから見れば,受注・決済・物流を,八食センターにアウトソーシングすることで,商品開発と情報発信に専念できるわけです。

 現に,八食センターの「おあがりゃんせ はちのへ」商品の紹介ページから,それぞれの生産者ブログにリンクが張られています。より詳細で濃密な商品ストーリーを,通販サイトの外にあるブログで読むことができるわけです。

 こうした「八戸モデル」は,今後,新たな特産品を企業連携で生み出し,ネット通販や共同販売に結びつけようとしている多くの地域で参考になるでしょう。

 その要点を箇条書きにしてみますと,以下の3点になります。

  1. 共同販売のために作った地域大規模市場に,在庫・物流機能を生かした通販機能を持たせて共同活用する。
  2. 商品開発を出店企業が個別に行うのではなく,テーマ別ターゲット別に企業が連携したプロジェクトチームで行う。
  3. 情報発信と集客を,市場サイトに一任することなく,プロジェクトのブログや,参加メンバーのブログでも分散して効果的に行う。

 こうした集権と分権を組み合わせた自律分散型のネットワークこそ,ブログ時代にふさわしい地域振興モデルになるのではないかと実感いたしました。

 ブログを読んだ勢いで、わが家でもさっそく鯖三昧セットを購入いたしました。この100セット限定の新商品が、八戸を活性化する端緒になるのではないかと、今から楽しみにしているのです。