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 ロングテールの唱道者であるクリス・アンダーソン曰く、ロングテール型ビジネスの誕生には3つの追い風があるという。(1)生産手段の民主化、(2)流通手段の民主化、そして(3)需要と供給マッチング促進者の発展である。

非デジタル商品のロングテール化は可能か

 たしかに、これまでは予算の制約から利用できなかった様々な生産手段・ツールが、多くの個人やスモール・ベンチャにとって無料で入手できるようになり、パソコンをベースに様々なデジタル・コンテンツやサービスが容易に製作可能だ。GoogleのAPI公開や様々なオープンソース・ソフトウエア、無料アプリケーション・ソフトも生産手段民主化(第1の追い風)を象徴している。

 さらにグーグルのアドセンス、イーベイ、アマゾン、アップルの音楽配信事業(iTMS)などは、無数の需要と無数の供給を超低コストでマッチングさせ、そのミクロ単位でマッチした需給をこれまた超低コストで集積することに成功し、極小生産者に世界的な販売機会を提供している(第2、第3の追い風)。

 しかし、こうしたインフラの上でアンダーソンが想定しているのは、主として文章、音楽、映像など、デジタル化される財のケースがほとんどで、彼の著作の中ではあまり伝統的製造業とロングテールの関係については語られない。

 今回と次のログでは、これまではリアルの世界でメガヒット商品へ向かっていた需要が、ネットを取り巻く上記3つの追い風に押され、細分化された無数の商品へ分散していくロングテールの特徴が、より伝統的な消費財製造業(B2C市場の自動車、家電など)にどのような影響を与えるのか、2回にわたって考えてみたい。

消費財製造業における3つの製品タイプ

 消費財製造業では、現在も80-20の法則が圧倒的な支配力を持っている。大きな費用を投じて大型技術を開発し、大規模な予算で事前に市場調査を行って商品を企画し、それをベースに大規模な固定費の下で大量生産し、大ヒットを目指す。そもそも企業が大型化する目的のひとつが規模の経済性なのだから、こうした指向性は当然といえば当然だ。

 消費財製造業における製品タイプを敢えて分類してみると、

A.大資本なくしては成立しない高度技術分野(無線通信技術や大容量記憶技術、大規模システム等、多くの場合生産財と共有可能な技術分野)
B.大ヒット商品を狙ってマーケティング主導の新製品を次々と大量に市場投入していく分野(現在の支配的パターン)
C.生産手段コストの劇的低下を活用するか、小さな固定費構造によって、マスカスタマイゼーション(多品種少量)をおこない、ネット上の流通・マッチング機能を活用して販売する分野

が考えられる。

 現在消費財製造業で支配的なのはBタイプだが、この中庸のパターンは今後徐々に様変わりするかもしれない。

コスト構造をどう「ロングテール型」に近づけるか

 Cの方向性は、これまでも「町工場の復権」「町工場が世界へ」といった文脈で、請負から脱した小規模メーカーが自社製品を開発して世界市場へ打って出るといったことが注目を集めてきた。ここに情報技術系のスモールベンチャーも加わり、このトレンドはますます加速するだろう。

 中堅から大規模な消費財メーカーの視点に立つと、資本力を必要とするA領域、すなわち高度な製品技術や製造技術をベースとした製品・サービス(これはおそらく規格の標準化などを通じてインフラ性の高いものとなるだろう)についてはそのまま存続させられるに違いない。

 しかしB領域の製品群は、徐々にC領域の超多品種極少量生産をベースとする製品群によって置換されていくだろう(べき乗分布のフラット化。この置換については次回触れる)。ここでB領域の製品を、コスト構造を極力悪化させないでC領域のロングテール型に近づける必要が出てくる。

既に変化は始まっている

 その取組みは既に始まっている。

 自動車業界やPC業界など、様々な消費財メーカーがWeb上に「チョイスボード(choiceboard)」を提供するようになっているのはその現れだ。これはネット上でいろいろなオプションを組み合わせて、自分にあったカスタマイゼーションを行った上でオンラインで製品発注ができる仕組みである。このプロセスを極力自動化し、顧客に入力作業を行わせ、その注文情報と製造プロセスを同期させることにより、カスタム化コストの低減を図っている。

 マツダのロードスター購入者の,いまや10人に1人が利用するというウェブ上の受注生産システム「Web Tune Factory(ウェブチューンファクトリー)」は、8500通りの装備選択の組み合わせを提供している。

 デルのオンラインPC販売サイトでは、メモリーサイズや搭載ソフト、CPU能力など、最大1600万通りのバリエーションを提供している(実際の購入体験ではそれほどの実感はないが)。

 こうした分野では、一層のモジュール化が進行し、コスト上昇を抑えながら組み合わせの自由度をあげていく努力が続けられるはずである。

資本力の小ささを逆に強みに

 次回は、C領域の企業群、すなわち、資本力のなさ、固定費の小ささを逆に強みとし、3つの追い風の下で実物ベースのロングテール型事業を伸長させている事例を追う。例えば「たのみこむ」、というサイトをご存知だろうか。