今回は,契約を結んでからプロジェクトが始まるまでに,何をしなければならないかを考えてみましょう。
見積もりは通常,プレ・プロジェクトと呼ぶ段階で,提案活動に付随して進めます。では,提案活動に付随して行う見積もりが,なぜ切り出されてこれだけ注目を集めているのでしょうか? 私は,スコープや工数,コスト,納期など,マネジメントの要素が見積もりに集約されているからだと考えています。
大事なのは,この見積もりを「プロジェクトを成功させる」という最終ゴールにつなげることです。契約が決まったからと言って,安心していてはだめです。最後のツメが甘くなっては元も子もありません。
苦労して作成した見積もりを実際のプロジェクトにつなげる――。これこそが見積もりプロセスの最後の作業です。私はこの段階で,次の四つを心掛けるべきだと考えています。
一つ目は,最初に出した見積もりと最終的に決まった見積もりを比較し,何が変わったか,つまり前提条件の履歴を整理することです。交渉ごとですから,最初に見積もりを提示してから,契約が決まるまでに条件も変わってきます。これらを整理するタイミングを逸すると,プロジェクトが混乱する要因を作り込むことにもなりかねません。
二つ目は,ベンダー,ユーザーの両者が集まり,プロジェクトの前提条件を改めて確認することです。提案活動中ではセールス・トークもあったでしょう。将来のイメージを議論したこともあると思います。これらを踏まえて,今回のプロジェクトではどこまでやるのかという合意を取っておくことが大切です。
三つ目は,決まった価格と必要コストを社内でもう一度確認し,目標損益を明確にしておくことです。見積もった人にとっては,交渉結果が不本意だったり,前提条件とつじつまが合わなかったりということも起こり得ます。これをそのままにしてプロジェクトに突入するのは,避けるべきです。
最後は,前提条件をプロジェクト計画に反映することです。プロジェクトマネジメントの立場から言えば,たとえ価格を示せても,その前提となるスコープや工数,コスト,納期がプロジェクト計画に反映できていなければ,見積もりとしては不十分なのです。
以上の四つを心掛けて,作成した見積もりを実際のプロジェクトにつなげていきましょう。そうすれば,プロジェクトが混乱することもぐっと少なくなります。
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